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子どもにとって習い事は「遊びの一環」
幼児は自分から「〇〇を習いたい!」と言うことはまずありません。だからこそ親は子どもの興味はもちろん、個性や性格、向き不向きなど様々なことを考えて習い事を選んでいることでしょう。「水泳で丈夫な体になってほしい」「ピアノを弾けるようになれば、情緒豊かな子になるだろう」……など、スキルだけでなくフィジカル面、メンタル面での成長を期待するのも愛情の表れ。たくさんの習い事の中から、さんざん吟味して子どもに合うと思うものを選んだはずです。
だからこそ、子どもから「イヤ!」「行かない!」などと言われるのはとても辛いもの。
「そんなときこそ、親は感情的に怒ったり無理強いするのではなく、落ち着いて子どもの気持ちを受け止めてほしい」と江藤さん。そしてその「イヤ」という子どもの気持ちを探る前に、まず親子の「習い事の捉え方の違い」を理解することも大事だと言います。
習い事は親子間でギャップがある
「大前提として、幼児期の子どもはつねに‶今が楽しいこと〟が人生の全てだということです。だから習い事も遊びの一環。よい結果を出そうとか将来のために力をつけようなんて考えていません。一方で親は習い事でどんな成果を上げられるか、力を伸ばせるのかといったプラスアルファの見返りを期待します。習い事をさせるのだからある意味当然で、これ自体も悪いことではありません。ただ習い事の捉えかたとして、そもそも親子にはこのようなギャップがあることを知ることで、幼児期のイヤイヤをより適切に理解できると思います」
「習い事のイヤイヤ」原因は大きく2つ
江藤さんは、幼児期の習い事のイヤイヤの原因は大きくわけて2つあるといいます。
一つは「その時、その瞬間、イヤな気分になるから」、そしてもう一つは「親の関わり方によって嫌いになったから」です。
それぞれについてもう少し詳しく考えていきましょう。
1 その時の気分で「イヤイヤ」の場合
例えば「疲れた」「なんか気分がのらない」「ほかにやりたい遊びがある(観たいテレビ、やりたいゲームがある)」「お腹すいた」……など、子どもは「今は」習い事の気分ではない、という気持ちで「イヤ」と言う場合が多々あります。大人ならどれも「月謝も払っているのだし、(疲れているけど)頑張ろう!」などと自分をコントロールできる内容ですが、幼児にはまだ我慢が難しいことばかり。
習い始めの頃だったら「知らないお友だちばかりでイヤ」「なんとなく教室の雰囲気がイヤ」「教室が遠いからイヤ」など、教室に通うことに馴染めていない「イヤ」ということもあります。
幼児は自分の考えを親に説得できるほど論理的ではありません。信頼できる親だからこそ、そんな素直な気持ちを「イヤ」に込めるのでしょう。
2 親の関わり方で習い事がイヤになる場合
繰り返しますが、幼児にとって習い事は「遊び」。楽しい、おもしろいからやっているわけで、親から「違うでしょ!」「遅い!」「やりかたが雑!」などと言われたらやる気を失いつまらなくなるのも当然。「練習しなさい!」と言われて「やらされる」というのもイヤなこと。
このような親の言動が重なると、子どもはせっかく興味を持って始めた習い事も「きらい」になってしまいます。親としては子どもに「上手になってほしい」と願うからこその言葉なのですが、子どもは「上手にできなくてママ(パパ)に叱られるからイヤになった」というケースが実はとても多いのです。
詰め込みすぎはNG!子どもの体力を考え、少しずつ慣れさせる
1の場合、ただ「気分」で言っているのだから軽視していい、ということではありません。例えば疲れたり、お腹がすいたり、その時間にどうしても他にしたいことがあるなら、現状のスケジュールが子どもに適切なのか見直し、食事の時間を調整したり、習い事の時間を変えたりする必要があるでしょう。
「最近は両親ともに働いている家庭が多いので、週末に複数の習い事を集中させるなど、親子ともにとても忙しいです。しかし子どもの疲れ感に気付かず、子どもには‶なんでも詰め込める〟と考えがちな親も少なくありません。幼児期なのだから、とりわけ子どもの体力や気力を第一に考えてほしいですね」
少しずつ、子どものペースで取り組もう
教室に馴染めないことで行き渋りするときは、その子のペースで少しずつ慣らしていくのが鉄則です。子どもと気の合いそうな子にレッスン前に話しかけたり、あらかじめ先生にも打ち解ける雰囲気を作ってもらうように協力をお願いすることもできるかもしれません。また、「行く途中の公園に、もうタンポポ咲いているかな」「今日はこのお気に入りの靴を履いて行こうよ」など、教室に行くまでの道のりを楽しめるような工夫も考えられます。
「褒めたりおだてたりするということではありません。子どもが思わず「行ってみよう」と思うような仕組みを作ると、幼児の気持ちはパッと変わることが多いのです。その仕組み作りにマニュアルはなくて、親が我が子をよく観察して‶どんな工夫をすれば、この子の気持ちが上がるかな〟と試行錯誤してほしいですね」
「上手にできない=才能がない」と決めつけないで
2のケースの場合、親は子どもの成果やスピードを見て、「この子にはできない=才能がないのでは?」と思ってしまう傾向があるようです。
「子どもの才能のある・なしは関係ありません。才能がないから‶もっと頑張りなさい〟と強制するのも、‶だったらやめていいよ〟という見極めもよくないですね。そういう決めつけをまず排除して親がするべきなのが、目の前の子どもの‶今の気持ち〟に寄り添うこと。この子は今どんな世界を見ているのか、どんな心持ちでいるのかを感じ取って、子どもの目線でやりたくなるように仕組んでいくのが親の役目です」
習い事は「成果」ではなく「経験」
子どもが習い事を自分なりのペースでできて、自分なりに楽しんでいればそれで十分満足しているし、その習い事が好きという証拠。そういう状態なら「イヤ」とは言いません。
「習い事は成果ではなく経験です。目標に向かって到達するまでの‶道すがらの経験〟にものすごく意味があります。全力疾走する子もいるし、寄り道ばかりしてのんびり進む子もいます。どちらがいいとか悪いとかではなく、その子のペースで進むこと、その子なりに楽しんでいることを理解して、長い目で見守る余裕を持てることが、親が習い事に関して子どもと良好な関係を築く大きなポイントです」
教室の先生に上手に相談、協力してもらうことも大事
とくに幼児の習い事の場合、親は事前に教室の雰囲気や先生の人となりも重視するでしょう。そして「この先生なら安心」と思って教室に入れるのが通常です。
「習い事の先生は、親の次に子どものことをよく知っている存在です。もし子どもが習い事に興味をもてなくなっていたり、教室に行くことをイヤと言うときには、素直に‶ウチの子は今、〇〇が楽しくないと言っているけど、先生はどう思われますか?〟などと聞いてもいいと思います」
また、ピアノなど子どもが家で練習しないことに親がイライラするのなら、先生に「家でもお稽古との連続性を持たせるにはどうしたらいいですか」とか、子どもが教室では緊張してしまうということなら「リラックスできるような言葉がけをしてもらえませんか」などと相談するのもいいでしょう。親は先生と上手に連携して、子どもが安心して習い事を楽しめる環境を作っていくことが大切です。
やめる前に「いったんお休み」もあり
それでも「やっぱりやめさせよう」と考えるなら、その前にいったん教室を休ませて様子をみるのも方法です。
「いきなり‶もうやる気がないでしょ〟とか‶練習しないならやっても意味がないでしょ〟など、子どもの心に‶自分はできなかった〟という劣等感を植え付けてしまうのは、その後の子どもの成長にとってもよくないことです。それよりも、例えば‶1カ月休んで、それでも状況が変わらなければやめる〟と、親が自分の納得のために猶予期間を持ち、改めてそれまでの親の言動を振り返ったり、子どもの気持ちを察したりする時間を設けるといいのではないでしょうか? 子どももその習い事から少しずつ遠ざかっていけば、‶自分には才能がなかった〟みたいなネガティブな感情も起きにくくなります」
一度経験した習い事に苦手意識を持たせずに、良い思い出として残すことができれば、やめた後も子どもは自信を失わずに次のステップに進めるでしょう。そんなやめかたができれば、どんな習い事でも、どんなに短期間であっても、経験したことはムダにはなりません。