夏休みの宿題にChatGPTは使える? 生成AIのリスクと「あえて使うなら」の提案を国語のプロ・明治大学教授 伊藤氏貴先生に訊く

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子どもの読解力に警鐘を鳴らし、国語力アップのための学習メソッドを研究・紹介している伊藤氏貴先生(明治大学教授/文芸評論家)に、夏休み特別企画として、今回は「生成AI」と夏休みの宿題・学習との関係について、気になる現状と考察をお話しいただきました。

文部科学省は夏休みを前に、学校現場向けに「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表しました。特に、使用が「適切でない」とされる8つの例のうち2つが読書感想文やコンクールに出品する作品やレポートに関するものです。

ここでは、具体的に1レポート、2読書感想文、3短歌・俳句などを含めた創作、4自由研究の4つの場面を考えてみましょう。

1.レポート ~情報の真偽と、著作権問題~

生成AIの最も得意とするところは、自然な文章を書くことですから、レポートのような「文章をまとめる」という作業には役立ちそうに思えます。

ただあたりまえですが、順序としては文章をまとめる前にまず「調べる」ことが必要です。しかし、この「調べる」ということに関して、生成AIははなはだ当てにならない存在です。特に固有名詞に関わることは、間違いだらけと言っても過言ではありません。

生成AIは本質的に「礼儀正しい知ったかぶり」なのです。それらしいことを丁寧な文章で答えてくれますが、自分の言っていることが正しいかどうかを自ら検証することはありません。そういう機能はそもそもないのです。ネット上の「どこか」に書いてあったことを引っ張ってくるだけです。

ですから、生成AIの書いたものは基本的に真偽不明であり、一つひとつ検証していかなければならないことになりますが、それならはじめから検索をしたり本を調べたりするほうがよいのではないでしょうか。

また、学校の宿題ではそれほど追及されないかもしれませんが、著作権の問題があります。生成AIは自分の情報の出所を教えてくれません。尋ねても「様々な出所があるので教えられない」という回答しか返ってきません。これでは著作権を犯していないかを調べることもできないのです。

大学のレポートや論文ではこれは大問題になります。できるだけ小さいうちから、情報源を確認し、正しく引用し、引用元を明らかにする習慣をつけておいてほしいと思います。

それで、レポート作成で生成AIを使うのは大変危険だということになります。

2.読書感想文 ~盗作の可能性、凡庸すぎる表現~

これも先に考えたとおり、生成AIの情報はあてになりません。非常に有名な本であっても、登場人物の名前すら間違っていることもあります。

毎年さまざまな学校で定番となっているような本であれば、生成AIに頼らずとも、ネット上にあらすじや読書感想文のひな型がたくさん載っています。生成AIもこうした情報を集めて、組み立て直しているのです。

ただ、生成AIは同じ質問をしても、その度に少しずつ異なることばで答えてくれるので、ネット上の文章をそのままコピペするのに比べれば、露見しにくいのはたしかです。とはいえもちろん、これは自分で考えたものではないという点で一種の盗作です。

ちなみに、生成AIの書いた感想文は、あらすじさえ正しければ、構成もしっかりしたまともな文章ですが、きわめて凡庸です。ここに、もう少し指示を加えて個性を与えることは可能なのですが…それでも全部書いてもらうのはやはり盗作でしょう。お薦めはできません。

3.短歌・俳句などを含む創作 ~そもそも「創作」といえるのか~

これはまずためしに俳句や短歌で使ってみることをお薦めします。キーワードを一つ与えて「俳句を10句詠んでください」などと指示すれば、たちどころに10句詠んでくれます。なかにはなにかしら趣深く思えるものもあったりして、驚かされます。感想文とは違って、たくさん詠ませれば、個性的なものも出てきます。

生成AIは小説も書けます。とうとう文学賞を受賞する作品も現れました。画像生成AIが作った画像が、ドイツの写真コンクールで一等を獲ったというニュースもありました。出品者は事実を打ち明け、賞を辞退しましたが、創作の場面では今後、AIが大々的に使われていくことになるでしょう。

さて、でももちろんこうした優れたAI能力も、宿題にそのまま使えば盗作です。アイディアが何も浮かんでこないときに、AIに考えてもらったものを推敲、改稿する、といった使い方はありうるかもしれません。

ただ、皆があまりAIに頼るようになるなら、これまでのような意味での「創作」行為自体の価値が損なわれ、結果としてこうした創作系の宿題そのものがなくなる可能性もあるでしょう。

4.自由研究 ~アプローチのヒントに活用~

「研究」に必要な「調査」の面では、1で考えたようにAIはあてになりません。でも、なにを研究するかというテーマを決める際には非常に役立ちます

自由研究の苦しみとは、多くの場合、コツコツと「研究」するということよりも、なにをしていいかわからないという「自由」のほうにあるのではないでしょうか。

たとえば「トビウオを題材にして、自由研究をしたいのですが、なにかヒントはありますか」と尋ねてみたところ、たちどころに6つのアプローチを教えてくれました。

1トビウオの生態と繁殖、2トビウオの飛ぶ仕組み、3トビウオの視覚とコミュニケーション、4トビウオと人間の関係、5トビウオの保護と環境問題、6トビウオの絵画や写真集

それぞれの項目にもう少し詳しい説明がついています。たとえば3は、トビウオの視覚が非常に優れており、それを用いてどのようなコミュニケーションを行っているかを調べる、というものです。6ではトビウオの絵を描いたり写真を撮ったりという、自由研究ならではのアプローチを教えてくれています。

自由研究のテーマについては、本もネットの情報もたくさんありますが、上のように自分の興味のあることでどのようなアプローチがあるのかをピンポイントで教えてくれるものはなかなかありません。それで、もしまだテーマが見つかっていないなら、ここで生成AIを使ってみるのはいかがでしょうか。非常にバラエティに富んだ提案をしてくれます。

「子どもと生成AI」まとめ

宿題に生成AIを使うか使わないかは、言うまでもなくそれがお子さんの成長に資するかどうかで決めるべきことです。たんに楽をするために使うのでは、百害あって一利なし、ということになるでしょう。

生成AIは、真偽不明の情報を、自ら確認することなくネット空間から拾ってくるだけなので、調査には向いていませんでした。

一方、生成AIの非常に優れたところは文章作成能力にあるのですが、宿題をやる際にはその力に頼るべきではないでしょう。自分で文章を書くというのは、非常に頭を使うことで、国語以外の力にも関わってきます。これをAIに代わってもらっては、成長はありえません。

もしAIを使うとすれば、アイディアに詰まったときの相談者として利用するのがよいでしょう。自分一人のピンポイントの悩みに答えてくれるからです。ただし、ヒントを出してもらったあとは自分で調べ、考えることが必要ですが。

もちろん、子どもには一切使わせない、というご家庭の方針もありうると思います。それでも、たとえば自由研究のアイディア出しのときに、親がこっそりAIに尋ねて、ヒントをもらってもよいのではないでしょうか。大人でも気づかないようなことを教えてくれます。使わせるにせよ使わせないにせよ、まずは親がある程度使ってみることが必要です。

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記事執筆

伊藤氏貴(いとううじたか)|明治大学文学部教授・文芸評論家
昭和43年生まれ。都内私立中・高一貫校の英語教師、大手予備校の現代文講師などを経て、現在に至る。中学、高校の国語教科書の編集委員を務める。著書に『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』『国語読解力「奇跡のドリル」小学校1・2年』『教育論の新常識 格差・学力・政策・未来』(共著)などがある。

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