「月待ち」って何? 二十三夜・十五夜の内容や信仰風習が興味深い!

普段はあまり耳にしない「月待ち」は、日本の歴史・文化を感じられる行事です。月待ちの内容や開催されていた時期から、現代もなお受け継がれる関連行事まで、幅広く解説します。昔から伝わる月待ちの概要を知り、日本文化の理解に役立てましょう。

月待ち(つきまち)の意味と時期

月待ちは、いつごろに実施されていた行事なのでしょうか。まずは、行事の概要と当時の開催時期について解説します。

複数人で月が出るのを待つ行事

月待ちとは、複数人で集まり、飲食をしながら月の出を待つ行事です。念仏などを唱えるケースもあったことから「月待ち講(つきまちこう)」とも呼ばれています。

地域住民の親睦を深める役割で、集まるメンバーによって内容が異なったという説もあります。例えば、家主が集まる場合は地域問題の話し合い、青年たちが集うと飲み会の色が濃くなったようです。

月待ちが活発に行われたのは江戸時代から昭和時代の初期で、現代はほとんどが姿を消しています。

開催日には月の満ち欠けが関係する

月待ちの開催日は「月の満ち欠け」によって決まりました。現代の暦は「太陽暦(グレゴリオ暦)」に基づいていますが、1873年(明治6年)までは「太陰太陽暦(旧暦)」が主流だったのです。

太陰太陽暦では、月の満ち欠けを基準に日付を数え、太陽の方角に出る「新月」がその月の1日(ついたち)とされました。

暦に大きく影響する月は、当時の人にとって神秘的な存在だったようです。満月を愛でる十五夜から始まり、次第に十九夜・二十三夜・二十六夜などにも月待ちが開催されるようになったという説もあります。

記念に「石塔」を建てる風習もあった

スマートフォン・デジタルカメラなどが普及している現代は、複数人で集まると記念撮影をして思い出を形に残すのが一般的です。一方で、月待ちの時代には写真ではなく「月待塔(つきまちとう)」という石塔を建てて、集まりの記念を残す風習がありました。

例えば、二十六夜の月待ちの場合は「二十六夜」というように、該当の月齢を石塔に刻んだそうです。長野県千曲(ちくま)市や神奈川県相模原市のように、月待塔が点在する地域もあります。

旧暦23日の月待の記念として、二十三夜講中によって造立された「二十三夜塔」
旧暦23日の月待の記念として、二十三夜講中によって造立された「二十三夜塔」

代表的な月待ち・崇拝の対象

発見された月待塔の数からは、特に二十三夜の月待ちが多く開催されていたことが分かっています。特徴や崇拝する対象など、二十三夜の月待ちに関する情報を紹介します。

下弦の月「二十三夜」

二十三夜の月齢は、左側半分が輝いて見える「下弦の月」です。

二十三夜の月

新月を0として、経過した日にちを数字で表したものを「月齢(げつれい)」と呼びます。7前後だと「上弦(じょうげん)」、15前後なら「満月」、22前後は「下弦」というように、月齢から大まかな満ち欠けを把握したのです。

二十三夜の月は、午前0時ごろの遅い時間帯に現れるのが特徴で、山に囲まれた山間部では午前1時前後になるケースもありました。「二十三夜講」といわれる人々は、旧暦23日の夜に集まって月の出を待ち、夜中に出る下弦の月を眺めながら明け方まで飲食を楽しんだようです。

新月から7日目で上弦の月になり、15日目で満月、それ以降欠けはじめて、22日で下弦の月となってから再び新月になる。
新月から約7日で上弦の月になり、15日前後で満月、それ以降欠けはじめて、22日頃に下弦の月となってから再び新月になる。

勢至(せいし)菩薩を崇拝

月待ちでは、行う時期によって崇拝の対象が決まっていました。二十三夜で本尊にしたのは、月の化身ともいわれた「勢至菩薩」です。勢至菩薩が持つ智慧(ちえ)の光は全てを照らし、人々を苦しみから解放して力を与えると考えられていました。

神道における「月読命(つくよみのみこと)」は、勢至菩薩の別名です。暦を支配するという特徴から、農耕や漁業の神としても知られています。

二十三夜の月待ちが人々の間に広まった理由は、万物を救済する勢至菩薩を崇拝の対象にしていたからだといえます。

現代も続く月待ち行事は?

多く開催されたという月待ちも、今となっては過去の行事です。一方で、現代もなお、月待ち行事の名残といえる風習が存在します。

中秋の名月「十五夜」

「十五夜」と呼ばれる旧暦の8月15日に月を眺める「月見」は、月待ち行事に由来する風習です。

なお、十五夜に見える月を「中秋の名月」といいますが、必ずしも満月とは限りません。中秋の名月が新月からの日数で決まるのに対し、満月をつくり出すのは太陽・月・地球の位置関係です。月は太陽のまわりを楕円形に動くため、新月から満月になるまでにかかる日数にも変化があるのです。

2023年の十五夜にあたる9月29日(金)は中秋の名月と満月が合致するので、天候次第では丸い月を望めるでしょう。

月見団子・すすきなどを供える

日本の十五夜には、農作物の豊作・収穫を願う役割もあります。月がよく見える場所にすすきを飾り、月見団子またはさつまいも・里いも・豆など、丸みのある食材を供えるのが一般的です。

十五夜にまつわるユニークな伝統行事に「お月見どろぼう」が挙げられます。お月見どろぼうの正体は、いたずら心から袋を持って供えた食材を盗みにくる地域の子どもたちです。

通常だと盗みは許されませんが、十五夜の日のお月見どろぼうだけは罪にならなかったといわれています。現代もなお、お月見どろぼうが続いている地域もあります。ただし、昔のようにこっそりと盗むのではなく、お菓子をもらうスタイルが主流です。

まとめ:月待ちで日本の歴史・文化を感じよう

月の満ち欠けから日にちを決めていた時代、人間にとって月は神秘的な存在だったといわれています。

複数人で集まって月の出を待つ月待ちは、満月に近い十五夜のほか、下弦の月にあたる十九夜・二十三夜などにも開催されました。特に活発だったのは二十三夜の月待ちで、一部の地域では記念に建てたとされる石塔が点在しています。

現代では月待ちは、十五夜に中秋の名月を眺める風習として残っています。2023年の十五夜は、ちょうど満月の日にあたる9月29日(金)です。十五夜にはすすきや団子などを用意し、昔から愛され続ける美しい月を眺めましょう。

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構成・文/HugKum編集部

参考:
旧暦のあれこれ|天文・暦情報|海上保安庁海洋情報部
「月齢」ってなに?なぜ小数がつくの? | 国立天文台(NAOJ)
中秋の名月(2023年9月) | 国立天文台(NAOJ)

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