そもそもなぜロシアは侵攻し、なぜウクライナは侵攻されたのか?1年半が経過したいま、改めて考えたい【親子で語る国際問題】

2021年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したとき、世界中に衝撃が走りました。いま、1年半以上が経過してもいまだ戦乱はおさまらず、不安な情勢が続いています。世界で起こっている問題は、家庭内で子どもたちと話し合うことが大事。そこでこの連載では国際政治学者の国際政治先生に、いま知っておくべき国際問題を分かりやすくひもといていただきました。ぜひ、親子で語るきっかけにしてください。

 専門家たちの予想を裏切り、ロシアはウクライナに侵攻。世界に衝撃が!

2021年2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻しました。それは国際社会全体に大きな衝撃を与えました。侵攻前、ロシア情勢の専門家たちの多くはロシアが侵攻することはないとの見方を示していましたが、ロシア軍がウクライナ国境に収集するにつれ、軍事や安全保障の専門家たちの間では、それはハッタリではないとの危機感が高まっていきました。また、経済のグローバル化が進み、国家間の経済相互依存も深まっている今日の世界において、天然ガスの多くを欧州に輸出するロシアも侵攻は躊躇うだろうとの見方が経済界においても強かったです。しかし、プーチン大統領はそういった見方に反し、侵攻という決断を下したのです。

 なぜロシアは侵攻したの?ロシア側の言い分は

理由①ウクライナ東部に住むロシア系住民の保護

では、なぜロシアはウクライナへ侵攻したのでしょうか。これまで1年半の情勢からいくつか理由が考えられます。1つは、ウクライナ東部に住むロシア系住民を保護するためです。これはプーチン大統領自身が主張していますが、プーチン大統領はウクライナ東部のロシア系住民が長年ウクライナから差別され、苦しい立場に追いやられてきたと認識しています。その住民たちを保護するためにウクライナへ侵攻したとその理由を挙げています。

理由②北大西洋条約機構(NATO)への反発

また、プーチン大統領が長年持つ欧州への不満もあります。プーチン大統領は長年、北大西洋条約機構(NATO)が東へ東へ拡大することに強い不満と危機感を抱いてきました。NATOとは、簡単に説明すると、米国や西欧諸国などを加盟国にする世界最大の軍事同盟であり、米ソ冷戦を勝ち抜いた象徴とも言える存在です。プーチン大統領は幾度もNATOの東方拡大を制御するよう、米国などに要請してきましたが、ポーランドやルーマニア、ブルガリアなどの東欧諸国が次々にNATOに加盟し、旧ソ連を形成してきたバルト三国までもがNATO加盟国となり、プーチン大統領のNATOへの不満、ロシアの安全保障が脅かされているとの危機感は年々高まっていきました。

そして、同じく旧ソ連だったウクライナも西側諸国への接近、関係強化を進めていることに、プーチン大統領の我慢は限界に来たと考えられます。ウクライナ侵攻は、プーチン大統領の積もりに積もった不満や危機感が一気に爆発した結果と言えるのです。

キーワード解説:北大西洋条約機構(NATO)って?
北大西洋条約機構とは、米国とカナダに欧州29カ国が加盟する軍事同盟。1949年に誕生した。NATOの最大の特色は、加盟国1国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなし、お互いの国の安全をお互いで守るという相互防衛体制になっていること。よって、NATO加盟国Aに攻撃しようとする国Bがあっても、Bは他のNATO加盟国30カ国を敵に回すことになり、迂闊な行動は取りにくい。ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアと国境を接するフィンランドは危機感を強め、今年4月にNATOに加盟した。

 なぜ、侵攻されたのがウクライナだった?

一方、なぜウクライナは侵攻されたのでしょうか。日本のメディア報道では、ロシアが侵攻した背景については多く報道されるものの、侵攻を許したウクライナ側の事情を説明したものは多くありません。当然ながら、ロシアによる侵攻は国際法違反であり、その後の軍事活動は許されるものではありません。しかし、安全保障理論の観点から、ウクライナが侵攻を許した決定的要因が2つあります。

ウクライナが侵攻された理由① NATO加盟国ではないから

まず、ウクライナがNATO加盟国ではないという点です。NATOは加盟国1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなすという、集団防衛体制を基本とします。たとえばロシアがポーランドに攻撃すれば、米国や英国、フランスなど他の30カ国あまりの加盟国がポーランドの防衛に協力するのです。ロシアとNATOの力の差は歴然としており、プーチン大統領もNATO加盟国に攻撃すればロシア自身が危なくなることは十分に分かっており、NATO加盟国には軍事侵攻はできないのです。

一方、ウクライナはNATOに加盟していないので、侵攻されてもすぐに応援隊が駆け付けてくれません。プーチン大統領はそれを十分に認識し、ウクライナへ侵攻してもロシアが被る代償は少ないとの判断が働いたはずです。ウクライナがNATO加盟国であれば、ロシアはウクライナへ侵攻しなかったでしょう。

ウクライナが侵攻された理由② 核保有国ではないから

もう1つは、ウクライナが核を持っていないという点です。対立国が核を持っていれば、大国であっても攻撃的な行動はなかなか取れません。中途半端に相手を威嚇すれば、かえって核攻撃を受け、自らが大きな被害を受ける恐れがあります。ウクライナが核を保有していれば、プーチン大統領も迂闊な行動は取れなかったはずです。ロシアは今日でも核大国で、ウクライナが非核保有国とのことで、この現実が侵攻を大きく誘発したことは間違いありません。ウクライナが侵攻を許した背景には、NATOと核の問題があるのです。

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キーワード解説:核保有国ってどれくらいあるの?
世界で核兵器を保有しているのは、米国と英国、フランス、ロシア、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮。冷戦以降、世界の核兵器の数は減少傾向が続いているが、その中でも米国とロシアの保有数は他国を圧倒する。米国は5200発あまり、ロシアが5900発あまりたが、中国は400発あまりとなっている。米中対立やウクライナ戦争など大国間対立が激しくなる中、今後はそれによって再び核兵器の数が増加傾向にならないかが懸念される。

記事執筆:国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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