世界でどれだけの国がロシアにNO!を突き付けているのか
ウクライナ侵攻でロシアを強く非難した日本
ロシアがウクライナへ侵攻したことで、日本はロシアを強く非難し、ロシアへの経済制裁を強化しました。今日では中古自動車や高級品などがロシアへ輸出することができませんし、一部のロシア高官の日本への入国も規制されています。日本はアメリカや西欧諸国と足並みを揃え、対露非難を強めていますが、それによって米露関係や日露関係は急激に悪化しました。今日でもその状況に全く変化はなく、日露関係は冷戦後最悪な状況が続いています。北海道知床半島からすぐ見える国後島が、これほど遠くに感じることはこれまでなかったでしょう。
実はロシアにNO!を突き付けている国は世界で少数派
日本のメディアで報道されている事実を中心にウクライナ戦争を眺めていると、日本や欧米の対露姿勢が基本で、他の国々もそのスタンスを取っているかのように映ります。しかし、実はロシアに対して明確にNOの姿勢を貫いている国々は世界で少数派なのです。
ウクライナ侵攻直後の2021年3月、国連総会ではウクライナ侵攻を非難する、ロシア非難決議が141カ国の賛成で採択されました。採択反対に回ったのはロシアの他にはベラルーシとエリトリア、北朝鮮とシリアの5カ国で、どれもロシアと良い関係を維持している国々です。一方、中国やインドなど35カ国が棄権し、国際社会の複雑さ、難しさを露呈する結果となりました。
ペナルティーを課していない国々もかなり多い
そして、さらに重要なのは、同決議で賛成に回ったものの、侵攻したロシアに対してペナルティーを課していない国々が極めて多いのです。侵攻から1年半が経過しますが、その後ロシアに対して経済制裁などを実施しているのは、アメリカや西欧諸国、日本や韓国、オーストラリアなど40カ国あまりに留まっているのです。
たとえば、親日的な国が多いASEANをみても一目瞭然です。ASEANといっても、インドネシアやマレーシア、シンガポールやタイ、ベトナムなど日本と良好な関係を維持する国もあれば、ラオスやミャンマー、カンボジアのように経済的に中国と深く結び付いている国もありますが、ロシアへ経済制裁を実施しているのはシンガポールのみなのです。
国家は自分の国の利益のために行動する
では、なぜ多くの国は戦争を仕掛けたロシアに対して明確にNOの姿勢を示さないのでしょうか。戦争を仕掛けたのだから、当然非難されるべきだと多くの人が思うことでしょう。しかし、国際社会の実状は極めて複雑で、国家は自身の国益のために行動しており、1つのチームなることは極めて難題です。
たとえばさっきのASEANのケースでも、ラオスやミャンマー、カンボジアといった国は中国からの経済支援なしには発展が望めないのが現実で、政治的に中国の異に反する外交はなかなか展開できません。中国はウクライナ侵攻に対して、それを非難することも支持することもなく沈黙を続けています。そのような状況で、ラオスなどが欧米と足並みを揃えるような姿勢に転じれば、それを良く思わない中国との間で亀裂が生じる恐れがあり、経済支援停止など圧力を掛けられる可能性があります。一種の脅しになりますが、道徳的に動けないという現実もあります。
ロシアが持つエネルギーも途上国に魅力
また、ロシアは世界有数のエネルギー大国であり、原油や天然ガスなどを多くの途上国に輸出しています。東南アジアや南アジア、中東やアフリカ、中南米にはこれから経済発展が期待される新興国が多くあります。そういった経済発展を遂げようとする国々としては、それに必要なエネルギーを提供してくれる国とは安定的、良好な関係を維持する必要があります。
今日、ウクライナ侵攻によってロシア産エネルギーの価格は安くなっており、今こそロシア産エネルギーを買おうと、多くの途上国はロシアとの経済関係を強化しています。これから日本を抜いて世界第三の経済大国になるインドも、ロシアとのエネルギーを軸とした経済関係を強化しています。
ロシアに明確にNOを突き付けているのは、世界で40カ国あまりしかありませんが、その大半は欧米諸国です。他の国々は人道的にそれが許されない問題と自覚しつつも、国家の国益を第一に実利的外交を展開しています。ここに国際社会の難しさがあります。ウクライナ侵攻は、我々に世界の難しさを改めて示しています。
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ポイント解説
ロシアにNoを突きつけている国:欧米や日本、韓国やオーストラリアなど
友好的な国:ベラルーシや北朝鮮、シリアなど
曖昧な姿勢を貫く国:インドや中国、多くの発展途上国
記事執筆:国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。