なぜ、中国は日本産水産物の輸入をストップしたのか?ホタテは昨年の輸出53億円から9月はゼロ円に。【親子で語る国際問題】

世界で起こっている問題を、家庭内で子どもたちと一緒に学んでいきましょう。この連載では国際政治学者の国際政治先生が、いま知っておくべき国際問題を分かりやすく解説していきます。今回は、「中国が日本の海産物を全面輸入禁止にする理由」について取り上げます。

中国への水産物輸出額は9割減!

福島第一原発の処理水放出に伴い、中国が日本産海産物の全面輸入停止を発表して以降、日本の水産業者の間では悲鳴の声が上がっています。売り上げの半数以上を中国に依存していた水産業者もあり、今日では輸出先をタイやベトナムなど東南アジアへシフトさせる動きも広まっています。

そのような中、農林水産省は11月7日、9月の中国向け水産物の輸出額が前年同期比で9割ほど減り、8億円だったと発表しました。香港や米国向けの輸出が増えたことで、水産物全体の輸出額は前年同期で2.7%ほど増えましたが、昨年9月のホタテの中国向け輸出が53億円だった一方、今年9月はゼロになりました。

日本産海産物の全面輸入停止は処理水放出だけが理由ではない

では、なぜ中国は日本産海産物の全面輸入停止という措置に出たのでしょうか。それは福島第一原発の処理水放出が開始されたからだと思うかもしれませんが、原因はそう単純ではありません。これまでの情勢から、大きく2つの背景が専門家の間で指摘されています。

中国国内の経済成長の鈍り 反発への警戒

1つは、中国国内に起因する背景です。実は、中国の経済成長率は以前ほどではなく、成長率は近年、鈍化傾向にあります。また、ゼロコロナや不動産バブルの崩壊で国内経済の勢いは失われ、若者の失業率は驚異の20%あまりに達し、最近中国は若者の失業率を発表することをやめました。それだけ若者たちの雇用状況は深刻であると考えられます。

それに伴って、中国市民の間では政府に対する社会的、経済的不満が拡がり、習政権はその矛先が自らに向くことを強く警戒しているのです。昨年秋の共産党大会の直前には、
北京市内で“嘘ではなく尊厳を、
ロックダウンではなく自由を、
嘘ではなく尊厳を、PCR検査ではなく食糧を
などと赤い文字で書かれた反習近平の横断幕が掲げられる動画が一時ネット上に拡散し、上海でも若い女性2人が“習近平、不要”などと書かれた横断幕を持って行進したと台湾の通信社が伝えました。

よって、習政権はそういった国民からの不満、批判を交わす機会を探ってきました。その機会となったのが今回の福島第一原発の処理水放出です。習政権としては、汚染された水産物から国民を守るとアピールすることで、国民の不満や怒りの矛先を日本に向けさせ、国民からの支持を再び拡大したい狙いがあったのです。それが上手くいっているかは分かりませんが、中国国内の事情が背景にあるのは間違いありません。

先端半導体をめぐる覇権争い 日本への不満

もう1つが、中国側の日本への不満です。近年、米中の間では先端半導体を巡って覇権争いが激化しているのですが、中国は先端半導体を獲得し、それによって軍のハイテク化、近代化を目指しています。それを警戒する米国は昨年秋、先端半導体が中国に渡らないようにするため、半導体分野で中国への輸出を規制しました。そして、米国は日本にも同規制に参加するよう求め、日本は7月下旬から先端半導体関連23品目で中国への輸出を規制しました。

先端半導体を入手したい中国からすると、日本が米国と足並みを揃えて規制に参加することに強い不満を抱いています。中国はその後、半導体の材料となる希少金属ガリウム・ゲルマニウムの輸出規制を強化しましたが、日本はそれらの多くを中国に依存しています。これは23品目の対中輸出規制への報復との見方が一般的で、日本産海産物の全面輸入停止もその延長線上にあると考えられています。

他にも理由は考えられるかもしれませんが、専門家の間では2つの背景が主に言われています。今後の日中関係も多くの不安材料を抱えており、中国側から同様の対応措置が発動される可能性があり、今日日本企業の間でも不安の声が拡がっています。

イスラエル情勢についてはこちら

なぜ、イスラエルは強硬姿勢を貫くのか?長期化、激化するガザ地区への攻撃、その理由とは?【親子で語る国際問題】
ハマスVSイスラエルの抗戦は長期化、ガザ地区への攻撃が激しさを増している パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが1...

ポイント解説

輸入禁止の理由

①日本の汚染された水産物に対する怒りを理由に中国国内の不満の矛先を変える

②先端半導体をめぐる、中国とアメリカの覇権争い。日本がアメリカの半導体分野輸出規制に参加したことへの不満。

記事執筆:国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

編集部おすすめ

関連記事