誤解されがちな「免疫力」という言葉。正しい知識と、2つのパワーで冬の感染症を克服【医師が提言】

ウイルスが体内に入ると病気になる? 「免疫力」を高めれば病気を防げる?

かぜや胃腸炎などが流行する時期に備えて、感染症と免疫の関係を正しく知っておきましょう。

感染症予防には免疫の前段階でのケアが有効

かぜなどの感染症は、ウイルスや細菌などの病原体がヒトの細胞の中に入り込む(=感染する)ことによって起こります。冬の感染症のほとんどがウイルスによるものです。

ただし、ウイルスをひとつでも吸い込んだら病気になる……というわけではありません。人の体には、ウイルスなどの異物から体を守る「免疫」という仕組みが備わっているからです。

免疫の主役は、血液に含まれる白血球。数種類の白血球が連携して「チーム免疫」を結成し、ウイルスと闘います。

「免疫力を高めると病気になりにくい」と言われることがありますが、「免疫力」は医学用語ではありません。そもそも、免疫は命を守るためのもの。ちょっとした生活習慣の変化などによって、簡単に機能が高まったり低下したりするわけではないのです。一般用語としての「免疫力」は、免疫そのもののパワーではなく、「病気にかかりにくい力」をイメージしているのだと思います。こうした力を高めるためには、免疫以前に、ウイルスを体に入れないためのプレケアが大切です。

プレケアとして有効なのが、手洗いやスキンケア、腸内環境をよい状態に保つことなど。ウイルスを体の中に入れないよう、ブロックすることが目的です。

ブロックをすり抜けて体にウイルスが入ってきた場合は、免疫をしっかり働かせることが重要。発熱やせき、鼻水などの症状はすべて、チーム免疫が動き出したサインです。こうした症状があるときは、体を休めることを最優先しましょう。チーム免疫にできるだけ多くのエネルギーを回すことで、免疫が本来の力を発揮できるのです。

「感染」ってどういうこと?

感染とは、病原体が口や鼻、皮膚、気管、胃腸などから「細胞の中に入り込む」ことです。

【パワー1】毎日のプレケアでウイルスをブロック!

手洗い&うがいをこまめに行う

ウイルスは、鼻や口、手などを介して体に取り込まれます。外出から戻ったら流水+石けんで手を洗い、うがいをして口の中やのどについたウイルスを洗い流しましょう。食事の前やトイレの後にも、手洗いを忘れずに。

スキンケアで肌のカサつきをケア

肌の表面を覆う角質層は、外部の刺激から体を守るバリアのような働きをしています。肌が荒れるとバリア機能が低下し、ウイルスが体内に入りやすくなってしまいます。日頃から肌の潤いを保つことを心がけましょう。

バランスのよい食事で腸内環境を整える

「腸の中」は「体の外」。腸内環境がよければウイルスが細胞(=体の中)に吸収される前に排泄できる可能性が高まります。また乳酸菌などの善玉菌には、ウイルスが細胞に入り込むのを防ぐ働きもあると考えられています。

【パワー2】ウイルスが体に入るとアタック開始!チーム免疫の働き

ステージ1:攻撃段階

ウイルスと闘う

ウイルスが細胞の中に入ってくると、まずは数種類の白血球がウイルスを攻撃。ウイルスと闘うために、白血球がたくさん作られる。

抗体を作り始める

白血球の一種が、強力な攻撃物質「抗体」を作りはじめる。抗体は、特定のウイルスだけに効果を発揮するオーダーメイドの物質。

チーム免疫はメンバーが連携して働く

免疫には、おもに数種類の白血球が関わっています。それぞれの白血球は「ウイルスを直接攻撃」「指令」「抗体の製造」など役割が決まっており、チームとして連携することで力を発揮します。

ステージ2:排除段階

できあがった抗体でウイルスを一気にやっつける

作りはじめてから数日で、ウイルスに合う形の抗体(Y字形をしたタンパク質)ができあがります。抗体の効果は強力なので、抗体による攻撃が始まると、すぐにウイルスは死滅します。

ステージ3:記憶段階

ウイルスを記憶し次に備える

抗体は一生残るものも、徐々になくなるものもあります。ただし、一度抗体が作られるとウイルスの記憶が残るため、抗体がなくなっていても次に感染したときはすぐに適切な抗体が作られます。

ビシッとやっつけたい!冬に流行しやすい感染症のいろいろ

かぜ

原因となるウイルスの種類が多く、感染した種類によって症状が異なる。多く見られるのは、のどの腫れやせき、鼻水、発熱など。

インフルエンザ

インフルエンザウイルスに感染することで起こる。高熱や関節・筋肉痛、頭痛に加え、せきや鼻水などの症状も見られる。

新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルスに感染することで起こる。発熱やのどの腫れ、せき、鼻水などに加え、嗅覚や味覚異常の後遺症が見られることも。

ウイルス性胃腸炎

冬に多く見られるのは、ノロウイルスやロタウイルスによるもの。急な嘔吐や下痢に加え、発熱や腹痛が起こることもある。感染したウイルスの種類によっては便が白っぽくなることも。

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教えてくれたのは

金井正樹先生|東京都八王子市・金井内科医院 院長
「国立小児病院」、米国の小児病院などで小児外科の臨床・研究を行い、2008年より現職。診療科目は、内科、小児科、小児外科、外科。保育園の園医、小・中学校の校医も務める。

『めばえ』2023年12月号
構成/野口久美子 イラスト/北野 有

親と子をつなぐ、2・3・4歳の学習絵本『めばえ』。アンパンマン、きかんしゃトーマスなど人気キャラクターと一緒に、お店やさんごっこや乗り物あそび、シールあそび、ドリル、さがしっこ、めいろ、パズル、工作、お絵かきなど、様々なあそびを体験できる一冊。大好きなパパ・ママとのあそびを通して、心の成長と絆が深まります。

再構成/HugKum編集部

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