【男性育休の裁判例を弁護士が解説】育休取得で昇給が遅れると思ってない?「育休中は昇給要件を満たさない、規定年数に含まない」は違法!

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。ママパパに法律を分かりやすく解説しています。
今回は【パパにも育休を】の制度を解説します。

パパにも育休を

近年、急ピッチでこの流れが進んでいます。国は「ママが出産した直後にパパのサポートが必要だ」という号令をかけ、これまでの育児休業よりも取得しやすい新たな制度を設けました。

出産直後の夫婦の協力、鬼大事ですよね。ママに満足してもらえなければ、たぶん一生言われ続けます。パパもゼッタイに育休を取得したほうがいいでしょう。以下、制度の概要と裁判例を解説します。

【簡単説明】2022年10月1日から新たに始まった育休制度

2022年10月1日からスタートしている制度は、以下の2つです。

産後パパ育休(出生時育児休業)

■ こんな制度

出産を終えて瀕死といっても過言ではない状態のママを、パパがサポートするための制度です。【産後8週間以内】【4週間(28日)】を限度として【2回に分けて】取得できます(育児介護休業法9条の2第1項)。

■ 申出期限

原則として休業の2週間前まで。ただし、労使協定で「1ヶ月以上前でもOK」と定められている場合もあります。くわしくは会社に確認してみましょう。

育児休業の分割取得

子どもが1歳になるまでは、ママパパは育児休業を分割して2回取得できます(育児介護休業法5条)。これまでは原則1回しか取得できなかったのですが改正されました。イメージは以下のとおりです。

(引用:厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント」)

育休をとったら嫌がらせをされた・・・

ママパパが育休をとろうとすると、会社が嫌がらせをしてくることがあります。しかし、下記のとおり嫌がらせは禁止されています。

育児介護休業法 第10条

事業主は、労働者が育児休業申出等〜をし、若しくは育児休業をしたこと〜を理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

嫌がらせの典型例としては、解雇・退職強要・正社員からパートへの契約変更などがあります。

特に、パパが育休をとることについて理解を示さない会社はまだまだ多いです。上司が「男のくせに育休をとるなんてありえない」と言ってきたり、同僚が「キミが育休をとると私たちに仕事のしわ寄せがくる。私なら取得しない」と言ってくることがあります。

しかし、パパ育休は法律で認められた制度です。正々堂々と自己の権利を主張しましょう。会社が産休育休に理解を示してくれなければ労働局雇用均等室に申し入れてみましょう。(相談無料・解決依頼も無料)

パパが勝った裁判例

パパが育休を取得したことで、会社から嫌がらせされた事件を2つご紹介します。嫌がらせとは、育休を取得したことを理由に【昇給させなかった】んです。パパが提訴し、どちらもパパが勝訴。給料請求などが認められました。

Case1.大学で起きた事件

 

男性講師のXさんが約9ヶ月の育休をとりました。

 

 

すると大学は「昇給の要件を満たさない」との理由で昇給させなかったんです。

裁判所は「昇給させなかったことは違法だ。不利益取り扱いなので育児介護休業法10条に違反している」と判断しました(学校法人近畿大学(講師・昇給等)事件:大阪地裁 H31.4.24)。

結果、裁判所は以下の請求を認めました。

・昇給していればもらえた給料と実際の給料の差額・・・月ごとに1万5700円

・ボーナスの差額・・・合計約14万1000円

Xさんは慰謝料50万円を請求していたのですが、残念ながら慰謝料は認められませんでした。

Q. 慰謝料って、ゼッタイに無理なんですか?精神的苦痛がハンパないんですけど・・・

A. ザックリいうと今回は裁判所が「差額の請求が認められたんだからコレで財産的損害が回復してるよね、今回はそれで十分だと思います」と判断しました。

しかし!慰謝料が認められることもあります。次の事件では慰謝料が認められました。

Case2.病院で起きた事件

 

男性看護師のYさんは3ヶ月の育休を取得しました。

その後、職場復帰しましたが、2つの嫌がらせをされました。

 

① 本人給は昇給したんですが、職能給は昇給しなかったんです。会社の規定に「育児休業中は、本人給のみの昇給とする」とあったからです・・・。

②さらにYさんは昇格試験を受験できませんでした。理由は「規定年数に達していないから」というもの。病院は、育休していた3か月間を、受験に必要な年数に算入してくれなかったんです。

そこで、Xさんが提訴。

裁判所は「どちらも違法。不利益取り扱いなので育児介護休業法10条に違反している」と判断しました(医療法人稲門会(いわくら病院)事件:大阪高裁 H26. 7 .18)

結果、裁判所は以下の請求を認めました。

・給与とボーナス・・・8万9040円

・慰謝料・・・15万円(昇格試験を受験させなかった)

慰謝料が認められた理由は、おそらく裁判所が「給料とボーナスをもらっただけじゃYさんの精神的苦痛は癒されていない」と考えたからだと思います。慰謝料が認められるかどうかは裁判官次第です。

さいごに

産後パパ育休制度がスタートしてまだ日が浅いので、特にワンマン社長が統治している中小企業などでは「オレの時代はなぁ!」と時代錯誤な発言が出て育休をとりにくいかもしれません。しかし、育休の拒絶は違法です。育休をとったことを理由に嫌がらせするのも違法です。

嫌がらせを受けた方や、嫌がらせされそうな方は労働局雇用均等室に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)

今回は以上です。これからもママパパに向けて知恵をお届けします。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!

また次の記事でお会いしましょう!

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記事監修

林 孝匡|弁護士
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。多くのwebメディアで法律知識をお届け中。おもに労働関係。「こんなこと解説してほしい」があれば下記HPからポストお願いします。

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