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セメダインの名前の由来
「セメダイン」の名前の由来は、「セメント」と力の単位「ダイン」を合わせて「セメダイン」と言われています。ですが、これにはもう一つの説があり、創業者の今村善次郎さんが従業員に対して話したこととして残されています。それは、創業当時、日本中で使われていたのはイギリスの接着剤「メンダイン(メン:mendとかいて修繕という意味)」でした。そこで、メンダインを目標に国産の質の良い接着剤を作って、日本からメンダインを「攻め」出そうという意気込みから「セメダイン」になったというものです。
今となってはどちらが正しいのか分かりませんが、日本製の質の良い接着剤を作ろうとしていた気合いが読み取れます。
「接着剤」という言葉を広めたのはセメダイン創業者?
創業当時、まだ「接着剤」という言葉は広くは使われておらず、「接合材」「膠着(こうちゃく)材」と呼ばれることが一般的でした。
ここで注目していただきたいのは「ざい」の漢字です。それまで広く使われていたものは「材料の“材”」。ですが接着剤は「薬剤の“剤”」が使われています。これには2つの理由があります。1つ目は文具店だけでなく薬局でも販売をしようとしたため。2つ目は少量でもくっつく、薬のような機能のある商品であるから「剤」を使った、という話が残っています。
「セメダイン」は作る人を応援しています
全国各地の高専学生や小学生がエントリーする、課題に合わせたロボットを自らの頭で考え、自らの手でロボットを作り上げる大会「高専ロボコン」や「小学生ロボコン」へセメダインは2019年から協賛をしています。
他にもWebマガジン「デイリーポータルZ」主催の「ヘボコン」の応援や鳥人間コンテストの出場チームからの問い合わせにアドバイスを行ったり、商品をサンプルとして提供することもあるそうです。
これらは作るものの質や能力の高さではなく「作る楽しさを応援したい」という理念から行われています。
CやスーパーXだけではない!セメダイン製品
「セメダイン」の名前を聞くと、黄色い箱が印象的な「C」や現在一般的な接着剤の代表となっている「スーパーX」を思い浮かべる方も多いと思います。ですが、セメダインの製品は家庭向けのものだけではありません。工業用や建築用としてたくさんの製品が生み出され、販売されているからです。
工業製品の代表としては、大手自動車メーカー各社で使われている接着剤があります。自動車のボンネットの鉄板は2枚の鉄板を重ねることで補強しています。しかし車は走っている時に振動が起こるため、少し柔らかさを持たせ、くっつけた部分が決して外れない接着剤が使われているのです。
建築用の代表と言えるのは1982年に発売された「POSシール」。建物の隙間を埋めたり防水力を高めたりする目地に使われる弾力のある製品です。それまでは2つの成分を混ぜ合わせなければ使えなかったことを、絞り出すだけで使えるようにした便利さもあり、現在でも様々な住宅メーカーで採用されています。
模型作りといえば「セメダイン」
セメダインの知名度を高めたのは、戦後に開催した「全国学童模型飛行機大会」。当時は木と紙で形を作り、ゴムの動力で飛ばす模型飛行機が主流でした。大会は9年間開催。参加者が400~500人にもなる各地域で行われる予選で勝ち上がった各県代表の小学生が東京に集まる大きな大会で、2日間にわたる熱い大会でした。その飛行機を作るために使われていたのが当時の主力製品「C」。当時の子どもたちには、思い出とともにセメダインCの箱の色や匂いが残っているに違いありません
その後登場したのが、プラモデルです。当時のものはパーツごとに接着剤をつけて貼り合わせることで組み立てるものでした。製品の箱の中には「プラモデル用セメダイン」。小さな接着剤が入っていたのです。
現在は接着剤を使わずにパチパチと穴に爪をはめていくだけで作り上げられるものがほとんどですが、今でも当時の作り方を続けているこだわり派の方もいらっしゃるそうですよ。
身の回りは接着剤が使われているものだらけ
机に使われている合板、壁のタイルや床のカーペットの固定、電車に乗る時に使うICチップの入ったカードなど、たくさんのものに使われている接着剤。逆に使われていないものを探す方が大変かもしれません。
「揺り籠から墓場まで」という言葉がありますが、赤ちゃんの使うおむつのテープの固定用途から、墓石を固定するときに使う接着剤まで。今の時代は接着剤なしでは生活ができませんね。
接着剤の種類は5000品種ほど!
現在、セメダインが製品化している商品は、色違いの製品はまとめて1種類と数えて300種類以上。そのほかに工業用や建築用も含めると5000品種ほどはあるそうです。
企業の要望に合わせた専用品も多数あり、専用のものを作る場合は両社の技術担当者が力を合わせてオリジナルの商品を作っています。
震災での、タイル剥がれを抑える。弾性接着剤はセメダインが生み出した
弾性接着剤というのは、ものを貼り付けて硬化した後もゴム状に弾力のある接着剤です。セメダインが新しいカテゴリーの接着剤として提唱しました。
かつて、接着剤は硬くなることで丈夫になると考えられていました。そのためゴムのように弾力のある弾性接着剤の性能について多くの人が疑問を持っていたそうです。その考え方が変わったのは大きな被害を出した1995年の阪神・淡路大震災のことでした。多くの建造物が崩壊した中で、弾性接着剤で接着したタイルは剥がれがほとんどなかったからです。
ここから官民一体の研究が行われ、その性能は結果的にJIS(当時の日本工業規格・現在の日本産業規格)にも認められました。
接着剤はさまざまなものをくっつける!?
今までの話で、接着剤は車のパーツをくっつけたり、建物の壁材を貼り付けたりとすごいパワーを持っていることを教えていただきました。でも、自宅で使ってみると「思ったようにくっつかない!」と感じることはありませんか?
それは接着剤の仕組みがわかると理解できそうです。
キーになるのは「分子レベルでの引き合う力」
物質は0.5nm(nm/ナノメートルは1mmの100万分の1)まで近づくと「ファンデルワールス力(りょく)」という物理的な力が働き、分子同士が引き合うので、どのようなものでもくっつきます。ただし、固体ではどんなに平らなものを作ったとしても、一生懸命磨いたものだとしてもナノメートルの世界では凹凸をなくすことはできないのです。
接着剤は液体
では、どのようにしたら2つのものを接着できるのでしょうか?隙間に入り0.5nmの距離を埋められる唯一のものは「液体」なのです。隙間に入った液体である接着剤は、距離を埋めた後に固体に変わることで接着が成立します。
すべての基本は接着面をきれいにすること
接着剤を使う時に必ずやること。それは、「接着面をきれいにすること」です。接着したいものの表面に油や埃がついているとくっつけたいもの同士がくっつかないからです。
油が表面についていると、油と接着剤はくっつくのですが、油は固まらない(液体のまま)ため接着対象との間で滑ってしまい、結果、剥がれてしまいます。同様に、接着対象物の表面に埃があると、埃と接着剤は貼り付きますが、埃と対象物はそれぞれ固体なので、くっつき合う距離まで近づけずに剥がれてしまいます。油膜がついている部分は、アセトンなどが含まれた除光液のようなもので拭き取ることで表面をきれいにする事ができます。
また、ツルツルした面同士の場合は、あえて引っ掛かりを作り接着力を強くする方法として、表面にやすりをかけて凹凸を作る方法を取ることもあるそうです。
これらはケースバイケースなので、使用する素材についてやそれにあった接着剤の説明をしっかりと読んでご使用くださいね。
湿度は大敵!乾燥したところに保存を
保存時の、重要なポイントは温度と湿度。「スーパーX」や「瞬間接着剤」は水分によって固まるため、乾燥剤を入れた環境下や湿度の低いところで保存すると、長く使う事ができます。加えて、温度が10℃以下になると接着するための化学反応がほとんどなくなります。
それを叶える場所として冷蔵庫へ入れて保管しているご家庭もあるそう。
実際にセメダイン社内には接着剤を保管するための冷蔵庫があるのですが、特に小さいお子さんがいらっしゃるご家庭では、誤って手にしてしまうことのないようにご注意いただき保存してください。
意外とみなさん読んでいない?説明書をきちんと読む大切さ
ところで、あなたは接着剤を使用する際、しっかりと説明を読んでいますか?
主力製品「スーパーX」のパッケージにはセメダインが考えて作り上げた、特別な形状のものが使われています。
裏面の剥がし口からパッケージを開けると、図を含むわかりやすい説明書が広がります。
「スーパーX」を使い終わった後には元のケースに戻し、説明書の部分を半分に折り戻して爪を引っ掛けるとそのまま保管が可能です。
これは「使うときに毎回説明書を確認してほしい」という気持ちから開発されたものです。説明書には接着剤を安全に長く使うために大切なことが書かれているので、毎回確認してから使用や保管をしたいですね。
後編では、知っておきたい接着剤の知識をご紹介!
文・構成/ふじいなおみ