2023年11月、文部科学省が令和4年度学校保健統計調査の結果を公表
そもそも「学校保健統計調査」とは日本全体の子どもの発育や健康状態をデータとして示したものです。みなさんも子どものころ学校の健康診断で、身体計測や検診を受けた記憶があると思いますが、この結果を集めて、この調査は日本の国の調査として昭和23年度から継続して実施されています。
しかし、令和2年(2020)年度は新型コロナ感染症の影響により、調査期日がそれまでの4月1日から6月30日までではなく、4月1日から翌年3月31日の間に延長して実施され、令和3年度も4年度もそのままです。つまり実施時期が全国各地で大きく異なるということです。そのため発育状態も健康状態も、昭和23年から令和元年まで続いてきた調査結果と単純比較できないことになりますが、こうしたことを考慮しても役に立つ情報がたくさん詰め込まれています。
発育状態(現在では身長と体重)と健康状態(疾病・異常の有無)は、国立・公立・私立の幼稚園から、小・中学校、義務教育学校、中等教育学校、高等学校の満5歳(平均5.5歳)から 17 歳(平均17.5歳)までの幼児、児童及び生徒の全員に対して計測や検査が行われます。しかし、学校保健統計として使われるのは全員分でなく、一部のデータからの抽出調査となっています。それでも十分に日本の子どもの傾向を把握することができるというわけです。
令和4年度学校保健統計 調査結果のポイント~文部科学省発表資料より
【健康状態調査】
(1)裸眼視力1,0未満の者の割合は、学校段階が進むにつれて高くなっており、小学校で3割を超えて、中学校では約6割、高等学校では約7割となっている。
(2)むし歯の者の割合は、小学校・高等学校で4割以下、幼稚園・中学校では3割以下となっている。
(3)鼻・副鼻腔疾患の者の割合は、小学校・中学校で1割程度となっている。
【発育状態調査】
(1)身長の平均値は、ほとんどの年齢層で平成13年度ごろまで上昇し、その後横ばい傾向。
(2)体重の平均値は、ほとんどの年齢層で平成18年度ごろまで上昇し、その後横ばい傾向。
(3)肥満傾向児の割合は男女ともに小学校高学年が最も高く、特に男子は8歳以降1割を超えている。痩身傾向児の割合は、男女ともに10歳以降は約2~3%台となっている。
*なお、いずれの項目も調査時期の影響が含まれるため、令和2年度、令和3年度に引き続き令和4年度の数値についても、令和元年度までの数値と単純な比較はできない。
※令和4年度では次のような抽出率となっています。発育状態:全幼児、児童及び生徒の5.4%に当たる 695,600 人。健康状態:全幼児、児童及び生徒の2 4.8%に当たる 3,220,411 人。
8歳以降の男児の肥満傾向の割合は10%超え。受験の影響も?
身長は、平均値に関しては殆どの年齢層で平成13年度頃まで上昇していましたが、その後横ばい傾向で、時折2ミリ前後の低下もみられます。
体重の平均値は、殆どの年齢層で平成18年度頃まで上昇し、その後やや低下しつつも横ばい傾向となっています。
肥満傾向児の割合は、男女ともに小学校高学年が最も高く、男子は8歳以降10%を超えています。これは男子の身長スパートが女子より遅く、肥満度を計算すると、身長が低いために肥満度20パーセントを超えてしまうことや、受験などで食事時間が不規則になることの影響もあると考えられています。
痩身傾向児の割合は、男女とも10歳以降は約2%~3%台となっていますが、これはあくまで全国平均値であって、都心部では比率がより高くなっています。さらに、以前は女子の12-13歳で痩せの比率が高かったのですが、現在は男子も高くなっているのが特徴です。
これは運動の影響もありますが、都心部の小学生に体型についてアンケートを行うと、男子の多くが「もっと痩せたい」と答えていることに驚かされます。
子どもは簡単にダイエットなどを考える傾向がありますが、成長期にバランスの悪い食事やエネルギー不足すなわち低栄養状態になると、成人以降の健康にマイナスの影響を及ぼしますので、小学生の痩せには家庭でも注意が必要です。幼時期から「健康なからだをつくるためには食事が大切」ということを、毎日の食事から子ども自身が少しずつ身につけられるようになるといいですね。
文部科学省作成の身長、体重、肥満・痩身傾向児の割合の図は、令和2年度からは測定時期が異なるため、前年度までと続きの線で結ばず、個別に点を打って示しています。こうした発育状態については、文部科学省の学校保健統計のページから、エクセルファイルとしてデータをダウンロードすることができます。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400002&tstat=000001011648
視力1,0未満の子は、小学校で3割超え、中学校では6割超え
健康状態についての検査項目は以下の通りです。
①栄養状態 ②脊柱・胸郭・四肢の疾病・異常の有無 ③視力、聴力 ④眼の疾病・異常の有無 ⑤耳鼻 咽頭疾患・皮膚疾患の有無 ⑥歯・口腔の疾病・異常の有無 ⑦結核の有無、結核に関する検診の結果 ⑧心臓の疾病・異常の有無 ⑨尿及びその他の疾病・異常の有無
継続して問題となっている項目は、視力です。
令和4年度の結果では、裸眼視力1.0未満の子どもの割合は学校段階が進むにつれて高くなり、小学校で3割を超え、中学校では約6割、高等学校では約7割となっています。
この対策としては、本やスマートフォンなどを近くで見ない、暗い部屋で見ない、長時間見ないなど、日常の心がけが必要でしょう。
むし歯は、昭和時代に比べると減少傾向。喘息は都心部に多い
むし歯(う歯)については、昭和時代は非常に高率で、学校では給食後に歯を磨かせるなどの対策が取られてきました。その結果、現在の割合は、小学校・高等学校で4割以下、幼稚園・中学校では3割以下となっています。歯の大切さは成人してから実感することが多いですが、小さいうちから家庭において歯の衛生管理を習慣づけることが何よりも大切です。
鼻・副鼻腔疾患の子どもの割合は、小学校・中学校で1割程度となっていますが、花粉症と副鼻腔炎は関連しますので、マスクなどの対策はこの時期も欠かせませんね。
喘息は地域的な特徴がみられ、都心部に多く見られます。ただし成長するにつれて割合が低下していますので、対策をとりつつも諦めず、からだの成長を大切に支援してください。
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教えてくれたのは
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)
『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』
著/小林正子|990円(税込)
子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊