放っておいてよい肥満・ダメな肥満の違いは?3歳ごろから始まり、小学校高学年で高度肥満になるケースも多発

子どもの肥満の傾向は成長曲線からわかります。肥満は、成長と共に解消してしまう心配のいらないタイプと、ともすれば生活習慣病につながってしまう心配なタイプがあります。実際の事例から、子どもの成長に詳しい小林正子先生に解説していただきます。

小学校で高度肥満の子は、入学前から肥満傾向

子どもの身長と体重の計測値をグラフにあらわしたものが成長曲線。パーセンタイルといわれる発育基準曲線の上に、個人の計測値をプロットして線でつなぐと、子どもが健康に発育していることが確認できる一方、異常があれば早期発見できます。

そもそも成長曲線には、身長、体重ごとに3%から97%までのパーセンタイルといわれる7本の発育基準曲線があります。ずっと同じレベルでいくとは限りませんが、そのどれかにだいたい沿うように発育していけば健康上は、まず問題ありません。

成長曲線から外れる、要注意例

このパーセンタイルから大きくはずれた場合は、本人の様子を確認して判断することが必要になります。元気であれば、経過を見てもよいですが、要注意な例がいくつかあります。

そのひとつが身長と体重のバランスが大きく異なり、体重が身長のパーセンタイルを大きく上回るケース。これは高度肥満です。高度肥満とは、肥満度50%以上を指しますが、これは子どもの年齢の標準体重に対して体重が50%以上多い場合で、BMIでは97パーセンタイル以上です。ちなみに、肥満度が20~35%は軽度肥満、35~50%は中等度肥満になります。

実は小学校で高度肥満の子は、さかのぼって調べると、入学前から肥満だったというケースが多いのです。

小学生の高度肥満は3歳ですでに肥満だった事例

3歳児でBMI97パーセンタイルを超える体重で肥満が始まり、小学校高学年では高度肥満になった子の成長曲線

 

関東地方のA市から「小学生の肥満が多いので調べてほしい」との依頼を受けたのが2012年のこと。調査を開始したところ、高度肥満の子は、おおむね3歳時点で肥満だったことがわかりました。さらに調べてみると1歳半から2歳で、すでに肥満だった。また入学時に肥満だった子の約30%が、高度肥満になっていました。

つまり肥満は乳幼児期の早い時期に始まり、それは家庭の生活習慣によるところが大きいと考えられること、また、3歳ごろの肥満は、そのまま改善されず小学生になると、高度肥満になる確率が高い、といったことが、この調査からわかったのです。

肥満につながる家庭の生活習慣とは

肥満につながる家庭の生活習慣とは、どのようなものでしょうか。それは食べる時間・量・内容で決まります。

3歳ぐらいになると、自分で自由に動けるので、おやつや食事の時間でなくても、食べものに手を伸ばして食べます。肥満の子は、とにかくしょっちゅう食べているし、量も多い。たとえば、おやつの袋菓子は皿に出さず、袋のまま食べるので結局、一袋食べてしまう。一袋食べると、すごいエネルギー量になりますが、うまみ調味料のきいた油っぽいお菓子は、あとをひくので、途中でなかなかやめられません。

実は私も昔、生協で宣伝していた袋菓子を一袋注文したつもりが、注文欄を間違えて段ボールで届いてびっくり。仕方ないので毎日少しずつ食べていたら、やめられなくなりました(笑)。それぐらい中毒性がある。大人でもやめられないので、子どもが自分でやめるのは難しいでしょうね。

それからスポーツドリンクを常飲している子も太りやすいですね。スポーツドリンクは糖分がたくさん入っているからです。最初は、運動するときだけに飲んでいたものが、くせになって食事のときにも飲んでしまう。そうすると間違いなく肥満度は上がります。

夏休みに太るとそのまま肥満になる傾向が高い

繰り返すようですが、3歳頃で肥満になると、そのまま小学校に持ち越して、どんどん肥満度が上がっていきます。特に夏休みに太ると、高度肥満まっしぐらです。夏休み中にほかの時期よりも体重が増えるということは、普通に生活しているならありえないことです。日本の夏は蒸し暑く、昔から夏痩せと言う言葉もあるくらい、夏季には体重が増えないというのが正常なのです。

そもそも体重は秋冬に増えて、夏は増えないという「季節変動」があります。それなのに夏に体重が増えるとどうなるか。身体リズムの乱れで必ず肥満になってしまうのです。

1960年代には肥満の子はほとんどいませんでした。1970年代から生活が豊かになって、ルームエアコンが家庭に入り、夏でも涼しく過ごせるようになりました。子ども達の「夏太り」が目立つようになり、肥満児が増加しました。共働きが増えて、日中親が家にいないので、食事の管理ができず、子どもだけでアイスクリームやお菓子が食べ放題、そこに、ファミコンなどのゲーム機が出てきてからは、外にも出なくなる子ども達が増加して、その生活が今も続いているわけです。

放っておいていい肥満・ダメな肥満

ただし肥満にも「放っておいてもいい肥満」と「すぐに専門医につないだほうがいい肥満」の2種類があります。

放っておいてもいい肥満とは、大柄で元気がよくて、決して成績も悪くない、リーダータイプの子。そういう「はつらつ肥満」の子は心配の必要はありません。大谷翔平選手も子どもの頃の写真を見ると、がっちりしていて大柄です。体重があっても、元気で動きが活発であれば、それほど気にすることはありません。

また、中学受験をする子は、塾の前後や夜食など1日5食ぐらい食べた結果、肥満になる子も多いですが、受験が終わり運動するようになると、たいていの子は改善します。こういった一過性の肥満も、それほど心配しなくてよいでしょう。

生活習慣病を引き起こす肥満には要注意

反対に、すぐに専門医につないだほうがいい肥満の子は、まず見た目にブヨブヨした子。体脂肪率が50%、60%と高く、動きも鈍い。運動するのもいやがり、元気がない、だるそうにしている。そんな場合は、病気の可能性があります。一度受診した方がよいでしょう。

受診は、まず小児科です。小児科の先生から内分泌科を紹介されるケースもあります。

肥満からつながる病気の代表格は、小児生活習慣病です。子どもなので「小児」とつきますが、糖尿病や高血圧症、脂質異常症を引き起こす要因となるのは大人と同じ。糖尿病になると、治療も大変ですし、友だちといっしょに遊ぶのも難しくなります。

また見た目を周りにからかわれることもあり、それで自分に自信がもてなくなるといった問題も出てくるでしょう。

肥満を改善するには、まず生活習慣を見直すこと。特に夏休みがカギになります。夏休みにふだんの生活習慣と大きくずらさず、食事は、決まった時間にタンパク質、炭水化物、脂質といった栄養素をバランスよくとること。

飲みものは、スポーツドリンクではなく、水かお茶。間食には油っぽい袋菓子は避けて、おむすびやサンドイッチなどを。そして小学生のうちは9時前に寝るのが理想的です。寝る2~3時間前には食べ終わり、歯を磨いたら食べないことです。

受験をする子は食べる量は調整し、なるべく睡眠時間をしっかりとれるような生活スタイルをととのえることが大切ですね。いったん生活習慣をととのえれば、大人になるまでに肥満ループを断ち切ることができるでしょう。

教えてくれたのは

女子栄養大学客員教授
小林正子先生

お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)

子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。

著/小林正子|990円(税込)

子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。

取材・構成/池田純子 イラスト/まる

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