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身長の伸びる時期の運動のしすぎはNG!
実は身長の伸びない原因は、生活習慣だけでなく「運動のし過ぎ」もあります。身長が伸びる時期に、関節に負荷をかける筋肉トレーニングやウエイトトレーニングをし過ぎると、関節を痛めて身長が伸びなくなるのです。
私はメジャーリーガーの大谷翔平選手の立派な体躯は、素質もありますが花巻東高校の佐々木 洋監督のおかげでもあると思っています。というのは、高校一年生で野球部に入部した大谷選手を、佐々木監督はまだまだ成長期にあると見極め、身長の伸びる時期は骨に負担をかけないように野手として起用し、ある程度伸びてから変化球の練習をさせたという経緯があるからです。大谷選手があそこまで大きくなれたのは、佐々木監督の適切な指導があったわけですね。
スポーツをやっている子は、まだ身長が伸びていない時期に、過度な筋力トレーニングやウエイトトレーニングをやり過ぎないこと。それ以上身長が伸びなくなってしまいますから、身長が伸びきるまでは控えたほうがよいでしょう。
発育のバランスが一目でわかる「成長曲線」。6歳までは母子手帳を活用してください
では、わが子の身長は、いつ伸びるのでしょうか。
それを教えてくれるのが「成長曲線」です。成長曲線とは、ある年に測定した同年齢の子どもの身長および体重が、その集団の中でどの程度であるか(何パーセントであるか)を示したもので、各年齢を結んでパーセンタイル曲線として表したものです。
成長曲線は、母子健康手帳に、「身体発育曲線」という名称で6歳まで書き込める表が載っていますから、子どもの幼稚園や保育園から健康観察カードを持って帰ってきたら、その計測値を母子手帳に点で描いてみましょう。
そうすると自分の子どもが全体から見て、どの程度発育しているのか、身長と体重のバランスはどうなのかが一目でわかります。一回つけて、一喜一憂するのではなく、継続が大切。経過を見ることで、異変にもすぐに気づくことができます。
しかし、成長曲線は6歳まで描けばよいというわけではありません。母子手帳にも18歳までの成長曲線を描けるページがありますがグラフが小さいので、私がプログラミングのエキスパートと開発した「発育グラフソフト」を使っていただくのがおすすめです。このソフトでは、18歳まで記録ができ、発育の過程が一覧できます。
こちらから「発育グラフソフト0-18歳用」ダウンロードできます↓↓↓
https://eiyo21.com/book/9784789550048
*「発育グラフソフト」は、Excelで作られています。お使いのPCで「マクロを有効にする」に設定されているかを確認して操作してください。
身長の伸び時、初潮の来るタイミング。これ、成長曲線からわかります
(1)身長がスパートするとき、パーセンタイルレベルが一時的に下がることも
身長が急に伸び始まる、つまり身長スパートに入ると、成長曲線のパーセンタイルレベルが、それまでよりもいったん下がることがあります。その後もとのレベルに戻るか、あるいは高くなります。パーセンタイル曲線にほぼ沿うように伸びていくこともあります。スパートの様子は個人差がありますが、身長の伸びるこの時期に、スマホの夜間使用や運動をし過ぎると、身長が伸びるのを阻害します。くれぐれも気をつけましょう。
(2)女子は身長の伸びがゆるやかになると初潮がくる
女子の場合、身長がぐんぐん伸びて、その伸びがゆるやかになったときに初潮がきます。その後伸びるのは、せいぜい3㎝程度。体重も増えて女の子らしくなります。ただ10人に1人ぐらいは初潮がきてから10㎝ぐらい伸びる子もいます。
(3)身長は春夏に伸び、体重は秋冬に増える。暮らす地域でも差が
全国的に身長は春夏に伸びます。ただし、日本海側の地域ではなど、秋にけっこう伸びるところもあります。体重は身長よりも季節変動がはっきりしていて、秋冬に増えますが、梅雨時期から夏の終わりまではあまり増えません。その時期に大幅に増えると肥満になるので注意しましょう。
要注意!成長曲線からわかる発育不全の兆しとは?
発育に異常があった場合も、成長曲線を見ればわかります。そのポイントは3点。
(1)身長が7、8歳から急に伸び始めた
喜ばしいけれど、実はちょっと危険。「思春期早発症」の可能性があるからです。思春期早発症とは、思春期が通常よりも早く始まってしまう病気。年齢不相応に身長が伸び、男児ならひげや声変わり、女児なら乳房発育や月経などの徴候が見られています。また、まれですが、脳腫瘍の可能性も。脳腫瘍は成長ホルモンを止めることが知られていますが、出し過ぎるという悪さもするのです。おかしいと思ったら、かかりつけの小児科から紹介してもらい、小児内分泌科という専門外来で診てもらいましょう。
(2)身長の伸びが、突然低いレベルになる
大柄であれ小柄であれ、成長曲線で順調に推移していたのに、突然パーセンタイルレベルが下がり、そのまま伸びが悪くなった場合、何か異常が起きていることが考えられます。運動のし過ぎでエネルギーをとられているかもしれませんし、もしかしたら病気が隠れているのかもしれません。
(3)体重が増えたり減ったりする
心の悩みがあると、体重は増えたり減ったり、変動が激しくなります。そういう子がいたら、学校では担任や養護教諭が連携して観察します。一方的に減るのは意図的なダイエットが考えられます。
子どもの心身の健康を守る成長曲線。継続計測で診断の目安にもなります
発育は心身両面を反映するものです。ですからバランスよく成長曲線に沿っていけば問題ありませんが、身長が伸びている子が突然伸びなくなったり、やせていた子が突然太ったりすると必ず何かあります。発育記録を見れば、その変化は一目瞭然ですから、病院で診断を受けるときも、いちいち説明するより、この成長曲線を見せたほうが早いでしょう。
順調に発育していれば、その重要性になかなか気づけませんが、そうでない人がたまにいます。これまでたくさんの例を見てきて、もう少し早く気づいてあげれば…という子が実際にいました。
脳腫瘍で亡くなった高校生。成長曲線を描いていれば早期に発見できたかもしれない。。。
思い出すのもつらいですが、高校2年生のときに、脳腫瘍で亡くなった男の子がいました。あとで成長曲線のグラフを描かせてもらったところ、おそらく小学校2年生あたりで発症していたのではないか?と思われました。
そのグラフは「身長スパート」が一度もなく、パーセンタイルレベルがひたすら下がり、一番下の3パーセンタイル曲線からも大きく離れて、高校に入ったときは150㎝ぐらいでした。教員は、男子にしてはずいぶん小さいなぁと思ったそうです。
成長曲線を描いていれば、6年生か中学校1年生あたりで異常に気づいただろうと思います。そうすれば治療につなげられた。しかし本人も親も気づくことができず、高校生になって状態が悪くなって病院にいったときは手遅れだったのです。
また、高校生になってもどうも小さいけれど、そういうものだろうと思っていたら、実は喉の病気で、小学生のころから睡眠中に無呼吸症候群となり、成長ホルモンの分泌が抑制されて、とうとう最後まで身長が伸びなかったという例もあります。
親は子どもの発育をなかなか客観的に見ることができませんが、それを可能にするのが成長曲線です。客観的に把握できるだけでなく、安心材料にもなりますから、ぜひ成長曲線にお子さんの発育記録をつける習慣をつけましょう。
教えてくれたのは
小林正子先生
お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)
子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。
子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。
取材・構成/池田純子