4月の別名「卯月」の由来は諸説ある
昔日本で使われていた旧暦は、現在の新暦よりも1~2カ月の遅れがあり、旧暦の4月は新暦の5~6月ごろに該当します。このことを踏まえて、4月が卯月と呼ばれる理由を解説します。
卯の花が咲く時期と関係が深い
4月の別名である卯月の「卯」は「卯の花」を指すとする説が有力です。卯の花とは、生垣(いけがき)などに多用されるアジサイ科の落葉低木「ウツギ」を指します。
開花時期は5~6月で、白い花が枝の先いっぱいに咲くのが特徴です。主な開花時期が旧暦の4月ごろに当たるため、4月の名称に使われるようになったといわれます。
ただし、卯の花の標準和名は「空木(うつぎ)」です。卯の花という呼び方は空木の花の略称であり、「卯月に咲くから」名付けられたとする説もあります。
卯月については「卯の花が咲く季節だから」、卯の花については「卯月に咲く花だから」と相反する説があり、どちらが先なのかはっきりしません。
旧暦の4月に田植えをしたからという説
卯月という4月の別名は、「植月(うづき・うえつき)」「種月(うづき)」が転じたとする説もあります。昔の日本では、旧暦4月の終わりから5月の初めごろに、田植えや作物の種まきが行われていました。
現在では6月8日前後に当たり、梅雨に入る前の湿度が上がってくる時期です。専用の機械がなかったころ、田植えは近所の人々と協力して行う大変な作業でした。
4月は田植えや種まきに向けて忙しくなる重要な時期であることから、「植月」「種月」の名前が付いたと考えられています。
「ウサギ」「初」にちなむとする説も
動物のウサギは「兎」と書きますが、十二支では「卯」という漢字をあてるのが習わしです。卯は十二支の4番目であることから、4月が卯月となったとする説もあります。
ただし、他の月の別名に十二支にちなんだものはありません。このため十二支のウサギが由来とする説については、否定的な意見もあるようです。
また民俗学者の柳田国男(やなぎたくにお)は、卯月の「ウ」について、「初(ウヒ)」「産(ウム)」などに通じるのではないかと考察しています。
「卯月」以外の4月の別名
4月には卯月以外にもさまざまな別名があります。農村の生活や季節感にちなむ、多彩な呼び方を紹介します。
農耕に関する4月の別名
昔の人々の生活は、農耕と密接に結び付いていました。4月の別名にも以下のように、農耕にちなむ名前が多く見られます。
●田植苗月(たうえなえづき)
●苗植月(なえうえづき)
●木葉採月(このはとりつき)
●麦秋(ばくしゅう)
●乏月(ぼうげつ・ほうづき)
田植苗月・苗植月は、文字通り田植えにちなんだ4月の別名です。木葉採月の「木葉」とは、蚕(かいこ)の餌となる桑の葉を指します。絹糸の元となる繭玉(まゆだま)を作る蚕は、新鮮な桑の葉しか食べません。
養蚕に携わる農家の人々は、1日に何度も桑の葉を採る必要があり、旧暦4月を「木の葉を採る月」と呼ぶようになりました。「麦秋」「乏月」は、麦の収穫時期にちなんでいます。
旧暦4月の終わりは、麦が実りを迎える時期です。熟した麦にとってはこの時期が「収穫の秋」となることから、麦秋と呼ばれるようになりました。
また麦の収穫を待つ家庭では、前年採れた麦や米が底を突き、困窮することもあったようです。穀物の蓄えが乏しくなる様子にちなみ、「乏月」と呼ばれることもありました。
初夏を感じさせる4月の別名
旧暦の4月は春も過ぎ、夏の気配を感じるころです。4月の別名にも、初夏を思わせるものがあります。
●夏初月(なつはづき)
●夏端月(なつはづき)
●清和(せいわ)
●鳥待月(とりまちづき)
●花残月(はなのこりづき・はなのこしずき)
夏初・夏端は、「夏の初め」という意味です。清和は、初夏の特徴である「晴れて空気が澄み渡り和やかな様子」を表しています。鳥待月は北から渡ってくるホトトギスを待ち望む様子を、花残月はわずかに残った桜の花が山あいなどに残っている様子を表現した言葉です。
また、旧暦では4~6月を夏としていました。まさに夏の始まりでもある4月は、始まるという意味の「孟」と夏を合わせ、「孟夏(もうか)」と呼ばれることもあります。
4月の別名を表す英語
日本語の4月にはさまざまな別名がありますが、英語ではどうでしょうか? 4月の別名を表す英語を見ていきましょう。
英語の4月は「April」のみ
英語の月名は古代ローマの暦に由来するといわれており、日本のような別名がありません。英語で4月というときは、「April」を使うのが一般的です。
Aprilという名称には、女神「アフロディテ(Aphrodite)」に由来する説と、ラテン語の「開く(aperit)」という言葉に由来する説があります。アフロディテは古代ギリシャ神話において美と愛の女神であり、ローマ神話のウェヌス(英名ビーナス)に該当します。
また4月は気候も穏やかになり、花や木の生命力を感じられる時期です。ラテン語の「開く」は、つぼみや木の芽が開く様子を表しているともいわれます。
ネイティブ・アメリカンの4月
アメリカの先住民であるネイティブ・アメリカンは、月の満ち欠けを目安に生活を営んでいました。彼らにとって満月は1年を把握する上での重要な指標であり、月ごとに異なる名称が与えられています。
ネイティブ・アメリカンの暦によると、4月の満月は「ピンクムーン」です。北米では4月になると、早咲きの「フロックス」という野花が咲きます。フロックスはピンク色をしていることから、「ピンクの花が咲く季節」として4月の名称になりました。
4月の別名には日本古来の里山風景が宿る
4月の別名として知られる「卯月」の由来には、卯の花が咲く季節だから、田植えの季節だからなど複数の説があります。どちらも昔からの里山風景を連想させるものであり、日本らしい感性が込められているといえるでしょう。
4月には他にも蚕の食べる桑の葉を1日に何回も採ることや、夏の到来を告げるホトトギスから名付けられたものなど、さまざまな別名があります。月の別名やその由来を知り、四季のはっきりした日本ならではの季節感を楽しみましょう。
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構成・文/HugKum編集部