「菜種梅雨」の意味とは?別名も紹介
まずは、「菜種梅雨(なたねづゆ)」の意味から見ていきましょう。さらに、菜種梅雨以外の春の雨にはどういったものがあるのか、菜種梅雨の別名には何があるのかを解説します。
菜の花が咲く頃に降る長雨
菜種梅雨は、3月下旬から4月上旬にかけて降る長雨のことです。ちょうど菜の花が咲く頃に降るので、菜種梅雨と呼ばれています。
しとしとと降る長雨ですが、梅雨のようにずっと続くわけではありません。数日程度、長くても1週間くらいで降り止みます。年によってはすぐ終わってしまったり、菜種梅雨がないまま季節が過ぎたりする年もあります。
菜種梅雨は春の雨とはいえど冷たく、ときには雪へと変わることもある不安定な長雨です。
菜種梅雨のほかにもある春の雨
春の雨は菜種梅雨のほかにも、「春時雨(はるしぐれ)」「小糠雨(こぬかあめ)」「穀雨(こくう)」などがあります。それぞれの特徴を見てみましょう。
春時雨は文字通り、春に降る時雨(降っては止むを繰り返すような小雨)のことです。ときには、雷を伴いながら通り雨のようにさっと降ることもあり、この春時雨を「春雷(しゅんらい)」といいます。
小糠雨は春先に降る霧雨(きりさめ)です。小糠とは、玄米などを精米したときに表皮が細かく粉砕された粉のことで、雨粒が細かい様子を小糠に例えています。
穀雨は暦の二十四節気の一つで、4月20日頃を表す言葉です。「百穀春雨」が由来とされ、名前のとおり、穀物など植物の成長を促す恵みの雨という意味を持っています。
菜種梅雨の別名
菜種梅雨には、「春雨(はるさめ)」「春の長雨」「催花雨(さいかう)」「春霖(しゅんりん)」といった別の呼び方があります。
春雨や春の長雨は、春に雨がしとしとと降り続く様子を表した呼び方です。
催花雨は、菜の花をはじめとする春の花々の開花を促す雨という意味です。「さいかう」は「菜花雨」という漢字をあてることもあり、転じて菜種梅雨になったともいわれています。
春霖の「霖」は1文字で「長雨」という意味なので、やはり春の長雨という意味の言葉です。
菜種梅雨が降るのはなぜ?
菜種梅雨が降る原因にはどういったものがあるのでしょうか。気圧や前線の関係を見てみましょう。
菜種梅雨の原因は春雨前線
冬の間に日本を覆っていた高気圧は春になると北上していき、南からは低気圧が迫ってきます。高気圧が張り出したり、移動性高気圧が北に偏ったりするために、日本列島の南側で前線が停滞しやすくなります。
この日本の太平洋岸で停滞している前線が「春雨前線」です。前線にくわえて小低気圧も次々と発生するため、長雨や曇りといったすっきりしない天候が続くのです。
菜種梅雨は日本全国で起こる気候現象ではなく、春雨前線が停滞する西日本と東日本の太平洋側に限られます。
季節の変わり目に起こるさまざまな「梅雨」
春雨前線によって発生する現象が菜種梅雨ですが、それ以外にも季節の変わり目には、前線が停滞することによって「○○梅雨」と呼ばれる雨が降ります。
・春から夏への変わり目:梅雨
・夏から秋への変わり目:秋雨(あきさめ)
・秋から冬への変わり目:山茶花梅雨(さざんかづゆ)
・冬から春への変わり目:菜種梅雨
ちなみに、秋雨は「すすき梅雨」「秋霖(しゅうりん)」とも呼ばれます。
また、北海道では梅雨がないといわれていますが、実は梅雨と同じ頃に2週間ほど冷たい雨が続くことがあるのです。その雨を「蝦夷梅雨(えぞつゆ)」と呼びます。
季節の言葉として使われる「菜種梅雨」
菜種梅雨という言葉は、天気を表すだけでなく、春の季語として俳句で使われています。また、時候の挨拶にも使える、春の優しい響きをまとった言葉です。
菜種梅雨は春を表す俳句の季語
菜種梅雨は、晩春に長雨がしとしとと降る様子を表す季語です。俳句でどのように使われているのか、少しだけ見てみましょう。
「坂山は ふるさと四方に 菜種梅雨」松村蒼石
「菜種梅雨 どこまでもなほ 華南にて」酩酊散人
「菜種梅雨 赤き煉瓦の 窯場なり」冬の紅葉
時候の挨拶としての使い方も覚えておこう
菜種梅雨は春の時候の挨拶としても使える言葉です。例文をいくつか挙げてみます。
・菜種梅雨の候、〇〇様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
・菜種梅雨も明け、暖かさを感じるようになって参りました。
・菜種梅雨の季節となりましたが、お元気でお過ごしでしょうか。
一つ目の例文は、ビジネス文書でよく使われる表現なので覚えておきましょう。二つ目の例文は雨が終わったタイミングでの挨拶です。三つ目の例文は少々カジュアルな印象なので、親しい人や身近な人相手でも使えます。
植物が芽吹く優しい春の雨・菜種梅雨
菜種梅雨は、菜の花が咲く頃に降る雨であることからその名が付きました。「催花雨」「春霖」とも呼ばれ、しとしとと降る優しい春の雨です。
春雨前線の影響で西日本と東日本の太平洋岸に起こる現象で、梅雨といってもずっと降り続くわけではなく、長くても1週間ほどで降り止みます。
春に降る雨を表現した言葉には「春時雨」「小糠雨」「百穀春雨」などがあり、いずれも春の時期の、植物の成長を促す恵の雨を示しています。降り続く菜種梅雨も、植物を芽吹かせる優しい春の雨だと思うと、これまでとは違った感じ方ができるかもしれません。
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構成・文/HugKum編集部