「卯の花くたし」とは? 梅雨とどう違う? 意味や別名、和歌と俳句の例も紹介

「卯の花くたし」は「初夏の長雨」という意味の言葉ですが、普段の生活で聞く機会は少ないでしょう。しかし、季節の言葉として古くから使われており、和歌や俳句で詠み込まれています。その具体例を、言葉の由来や他の長雨の名前とあわせて紹介します。

「卯の花くたし」の意味と発生原因

「卯の花(うのはな)くたし」とは、ある天候を表す言葉です。まずは言葉の意味と、「卯の花くたし」という天候の発生原因を見ていきましょう。

5月半ば~6月初めに降る長雨のこと

「卯の花くたし」とは、5月半ばから6月初めの初夏に降る長雨のことを指す言葉です。「くたし」は「腐し」と書き、「くだし」と読むこともあります。

卯の花という植物を腐らせるほど、しとしとと降り続く雨という意味から、その名前が付きました。卯の花は日本の広い範囲で繁殖している白い花で、「卯木・空木(うつぎ)」という別名もあります。

卯の花はウツギの別名。アジサイ科ウツギ属の落葉低木

「卯の花くたし」は梅雨に先駆けて降る長雨なので、「走り梅雨(はしりづゆ)」「迎え梅雨(むかえづゆ)」ともいわれています。

卯の花くたしが発生する仕組み

沖縄地方や奄美地方が梅雨入りする時季に、本州南岸に停滞する前線が原因となって、「卯の花くたし」の長雨は発生します。

停滞前線では暖かい空気と冷たい空気がぶつかり、長らく停滞するため、長雨になるのです。前線が北上して本州に近づくと「卯の花くたし」となります。

「卯の花くたし」のあと、いったん天気が回復してから本格的な梅雨が始まりますが、年によってはそのまま梅雨入りすることもあります。

他にもたくさんある長雨の名前

前線が停滞することが多い春・夏には長雨が多く、さまざまな名称で呼ばれています。以下が「卯の花くたし」も含めた春・夏の代表的な長雨です。

●3月下旬~4月初め「菜種梅雨」
菜の花が咲く時季の長雨なので「菜種(なたね)梅雨」といいます。

●5月前半「たけのこ梅雨」
たけのこが生えてくる時季の長雨なので「たけのこ梅雨」といいます。

●5月半ば~6月初め「卯の花くたし」
本格的な梅雨の前触れのような長雨です。

●6月中旬「梅雨」
中国では梅の実が熟すころに降るため「梅雨」と書くという説があります。

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和歌・俳句に使われる「卯の花くたし」

「卯の花くたし」は季節の言葉として、古くから愛されてきました。和歌や俳句にも詠まれているので、いくつか例をあげてみましょう。

和歌に見られる「卯の花くたし」

「卯の花くたし」は、万葉集の時代から使われている言葉です。数はあまり多いとはいえませんが、近世まで和歌に詠まれ続けています。

卯の花を 腐す霖雨(ながめ)の 始水(みづはな)に 寄る木屑(こつみ)なす 寄らむ児(こ)もがも

「万葉集」大伴家持(おおとものやかもち)

意訳:卯の花を腐らせてしまう長雨の流水に集まるごみのように、私にも寄って来てくれる娘(女性)がいたらなぁ

いとどしく 賤の庵(しずのいおり)の いぶせきに 卯の花くたし 五月雨ぞする

「千載集(せんざいしゅう)」藤原基俊(ふじわらのもととし)

意訳:ただでさえ卑しい身分である我が家は鬱陶しいのに、この季節は卯の花を腐らせる五月雨が降り続くので、より気分がふさがるというものだ

季語「卯の花くたし」を使った俳句

「卯の花くたし」は、俳句では初夏の季語として使われています。「卯の花くたし」を詠んだ句には、次のようなものがあります。

塀合に 卯の花腐し 流れけり
へいごうに うのはなくたし ながれけり
小林一茶

 

さす傘も 卯の花腐し もちおもり
さすかさも うのはなくたし もちおもり
久保田万太郎

 

足袋ぬいで 卯の花腐し 行く娘かな
たびぬいで うのはなくたし ゆくこかな
麻田椎花(あさだすいか)

 

泣きやまぬ 赤子卯の花 腐しなる
なきやまぬ あかごうのはな くたしなる
斎藤月子

「卯の花」で表現される季節

「卯の花くたし」の「卯の花」も、広く親しまれている季節の言葉です。たとえば、旧暦の4月の別名であったり、料理の「おから」の別名であったりします。

4月の別名「卯月」は卯の花から

旧暦の4月は、現在の暦でいうと4月下旬~6月上旬にあたり、和名は「卯月(うづき)」といいます。由来は「卯の花が咲く時季だから」という説が有力です。

和名の卯月から、その時季に降る長雨を「卯の花くたし」、曇り空を「卯の花曇り(うのはなぐもり)」「卯月(うづき)ぐもり」などと呼ぶようになったとされています。

しめりがちな空模様を表す言葉が続きましたが、卯の花は夏の訪れを感じさせる言葉でもあります。また卯の花は、万葉仮名では「宇能花」「宇乃花」「宇能波奈」などと表記されている例があり、いずれも「うのはな」と読みます。

おからの別名「卯の花」

豆腐の絞りかすのことを「おから」といったり、おからに野菜を入れて作る料理を「おから炒り」といったりします。この場合の「おから」は豆腐の絞りかすなので、「空(から)」が語源です。

しかし「空=無」を連想させるのを嫌って、「卯の花」と呼ばれるようになったといいます。理由としては、白いおからが、卯の花が白く咲いている様子に似ていることから名付けられたといわれています。

また、卯の花を「空木」とも表記することが、おからの別名となった要因でもあるようです。

豆腐を作るときにできる大豆のしぼりかすが「おから」
豆腐を作るときにできる大豆のしぼりかすが「おから」。卯の花とも呼ばれる。

梅雨に先駆ける初夏の長雨「卯の花くたし」

「卯の花くたし」は5月半ば~6月初めに降る長雨で、梅雨に先駆けて降ることから、走り梅雨や迎え梅雨とも呼ばれます。「卯の花くたし」以外にも、長雨には季節を表す名前が付いていて、日本ならではの風情が感じられるでしょう。

また、「卯の花くたし」は万葉集の時代から和歌に詠まれるほど、古くから使われてきた季節の言葉でもあります。長雨の呼び方や和歌・俳句などを通して、ぜひ日本の言葉の美しさにふれてみてください。

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構成・文/HugKum編集部

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