鯉のぼりとは?
日本の伝統行事や風習には中国から伝わったものが多くあります。鯉のぼりもその一つです。鯉のぼりをあげる理由や由来について見ていきましょう。
由来は中国の故事「登竜門」
鯉のぼりの由来は、日本では「鯉の滝のぼり」という伝説として知られている中国の故事、「登竜門(とうりゅうもん)」だといわれています。
中国の山奥には「竜門」と呼ばれる、登り切るのが困難な激流の滝があったそうです。登り切ると竜になれるという竜門を、唯一登れた魚が鯉だったという言い伝えがあります。
中国で皇帝の象徴とされる竜になったことから、鯉は立身出世を願う人々の縁起物とされ、現在の鯉のぼりにつながったようです。
なお、故事の「登竜門」は出世につながる難しい関門という意味で、現在も使われている慣用句の語源となっています。
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男の子の成長を願う
端午の節句にあげる鯉のぼりには、男の子の健やかな成長を願う意味が込められています。普通の鯉が、皇帝の象徴である竜になった故事に由来していることから、立身出世を願う意味もあります。
また、鯉は池や沼、湖など清流以外の場所でも生きられる丈夫な魚です。このため、人生で遭遇するさまざまな難関や逆境にも負けない、強くたくましい人に成長してほしい、との願いも込められています。
鯉のぼりの飾りの意味
鯉のぼりの色や、飾りにも意味があります。色ごとの意味や地域による違い、吹き流しなどの飾りの意味について見ていきましょう。
鯉のぼりの色ごとの意味
鯉のぼりは主に3匹で構成されており、上から「真鯉(まごい)」「緋鯉(ひごい)」「青い鯉」の順で飾ります。それぞれの鯉は、家族に見立てられています。
黒色の真鯉は父親で、一家の大黒柱の象徴です。赤色の緋鯉は母親で、生命を担い家庭を守ることを表現しています。青色の鯉は子どもで、若さや成長を意味しています。
近年は、長男が青、次男が緑、長女がピンクというように、子どもの数や性別に応じて色を増やす家庭も少なくありません。
鯉のぼりには地域性がある?
江戸時代、関東地方では金や銀に色を付け、華やかに表現された鯉のぼりが多い傾向がありました。一方、関西地方では濃淡で色を付け、上品に表現されたものが多く見られたようです。関東と関西の中間に位置する静岡などでは、どちらの鯉のぼりもあったといわれています。
現在は、飾る色の順番や吹き流しのデザインなどに地域差が見られます。一般的には黒色が上ですが、赤色を上に飾る地域もあるといわれています。旅行などで他の地方を訪れた際には、鯉のぼりがどのように飾られているのか観察してみるのも楽しいでしょう。
五色の吹き流しの意味
鯉のぼりの上に飾る「吹き流し」には、厄よけや魔よけの意味があります。吹き流しは青・赤・黄・白・黒の五色で構成されており、古代中国の「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)」が由来になっています。
陰陽五行説とは、世の中は陰・陽の気と木・火・土・金・水の要素で構成されているとする思想です。五つの要素を色に当てはめると、木は青、火は赤、土は黄、金は白、水は黒になることから、その五色が吹き流しに用いられています。
なお、吹き流しの歴史は古く、戦国時代には原型とされるものがお守りとして用いられていたといわれています。
矢車と天球の意味
鯉のぼりの竿の先端にある、矢羽を数本放射状に取り付けたものを「矢車(やぐるま)」といいます。矢車は、風を受けて回転する際に大きな音が出るのも特徴的です。
矢には「幸運を射止める」「邪悪なものを打ち破る」などの意味があり、大きな音とともに魔よけになると考えられています。
同じく竿の先に付いている丸い飾りは「天体」もしくは「回転球」と呼ばれ、男児の誕生を神様に知らせる目印の意味があるといわれています。
神様を呼び降ろすための「招代(おぎしろ)」が由来で、もともとは神聖な葉とされる榊(さかき)・柏・杉などを飾ったり、目立つように黄色や赤色の布を飾ったりしていたようです。
鯉のぼりの歴史
鯉のぼりを知る上で欠かせないのが、端午の節句です。端午の節句がどのように始まり、なぜ鯉のぼりと結び付き広まったのか、その歴史を紹介します。
端午の節句の始まり
端午の節句は「五節句」の一つで、奈良時代に中国から伝わった風習が由来です。節句は日本の古い暦における、季節の節目となる日を指します。
端午の節句は、春から夏への季節の変わり目にあたり、気温の変化などから体調を崩しやすくなります。当時は体調を崩す原因は、邪気だと考えられていました。
そこで、端午の節句に邪気払いとして菖蒲(しょうぶ)の風呂に入ったり、菖蒲酒を飲んだりして健康を願うようになります。
その後、菖蒲が「勝負」や武を重んじる「尚武(しょうぶ)」と結び付き、江戸時代に「尚武の節句」として子どもの成長や出世を祝う行事に変化していきました。
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武家の文化が庶民の間へ広がる
江戸時代には、武家を中心に端午の節句が重要な行事の一つとなり、華やかさを増していきます。将軍家に子どもが生まれると、端午の節句に幟(のぼり)をあげる風習が広まったのです。
徐々に町民の間でも端午の節句を祝うようになり、経済的にゆとりのある町民も幟をあげるようになったといわれています。
その後、武家では幟をあげる風習が、吹き流しをあげる風習に変化していきました。一方、町民の間では、登竜門の伝説に基づき、鯉のぼりをあげる風習が定着します。
黒い真鯉のみだったのがカラフルに
江戸時代に広まった鯉のぼりは黒い真鯉のみで、長男を表していました。江戸時代に活躍した、浮世絵画家の歌川広重の作品にも、真鯉のみが描かれた絵が残されています。
明治から昭和にかけて緋鯉が加わり、真鯉が父親、緋鯉が子どもを表すようになりました。昭和6年に発表された有名な童謡の「こいのぼり」の歌詞にもなっています。
現在のような、家族に見立てたカラフルな鯉のぼりが登場したのは、戦後といわれています。
鯉のぼりの楽しみ方
鯉のぼりの意味や楽しみ方は、時代とともに変化しています。伝統にとらわれず、ライフスタイルに合わせて鯉のぼりを選ぶのもおすすめです。親子で鯉のぼりを楽しむポイントを見ていきましょう。
ライフスタイルに合ったものを選ぼう
近年は庭用・ベランダ用・室内用など、さまざまな大きさの鯉のぼりが販売されており、住宅事情に合わせて選べます。デザインや素材も豊富なので、自宅の雰囲気に合わせて選ぶのもよいでしょう。
鯉のぼりは、簡単に手作りもできます。子どもに鯉のぼりの絵を描いてもらい、色を塗ったり折り紙で飾りつけをしたり、自由にアレンジが可能です。毎年続ければ、子どもの成長の様子が見られ、思い出にも残るでしょう。
女の子用の鯉のぼりもおすすめ
もともとは長男の誕生を祝い、健やかな成長を願うための鯉のぼりに、男の子のものというイメージを持つ人も多いでしょう。
しかし現在では、5月5日は性別に関係なく子どもの成長を祝う「こどもの日」です。そのため女の子だけの家庭でも、鯉のぼりをあげるケースが増えています。
近年は、女の子を意識したデザインの鯉のぼりも販売されています。優しいパステルカラーのものや、卓上に飾れるコンパクトサイズのものなど多種多様です。
女の子でも鯉のぼりに興味を持っているのであれば、健やかな成長を願って一緒に選んだり、手作りしたりすると喜んでくれるでしょう。
鯉のぼりで子どもの成長を願おう
鯉のぼりは登竜門が由来で、子どもの成長や立身出世を願う意味があります。子どもに鯉のぼりの意味や歴史を説明してあげると、理解や興味がより深まるでしょう。
一緒に鯉のぼりを作ったり、童謡の「こいのぼり」を歌ったりして、家族みんなで楽しくお祝いをするのもおすすめです。一緒に祝えば、家族の思い出として記憶に残るだけでなく、子どもたちに古くから続く端午の節句や鯉のぼりの風習を大切にしてもらうことにもつながるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部