【働きママン まさかの更年期編】ホットフラッシュ到来
漫画:『働きママン まさかの更年期編 ~ホットフラッシュをやりすごせ!』より(おぐらなおみ)
「私のことが描いてある!」当事者からは共感の嵐
「会社でページをめくっていたら、涙がとまらなくなってしまったの。まさに私のことが描いてある。どうして会社では見せていないはずの姿や、私の頭の中がわかったのって」。
これはまさに更年期世代で、企業で働く「働きママン」の私の友人が、おぐらなおみさんのコミックエッセイ『働きママン まさかの更年期編 ~ホットフラッシュをやりすごせ!』を読んだ感想です。
主人公、一ノ瀬圭子は、建築資材会社で管理職として働く、2人の子持ちの48歳の既婚女性。更年期に突入し、ホットフラッシュをはじめ、体の不調と闘いながら働く中、会社ではゆとり世代の部下に翻弄され、家に帰れば夫も元気がなく、子どもは反抗期とさまざまな問題がある悲喜こもごもの日々が描かれています。
作家自身の体験もふまえ、更年期の等身大が描かれる
もともと、「働きママン」は、今作の主人公が、保育園に子どもを預けて職場復帰する時期から始まり、仕事と子育ての両立に悩みながら奮闘する日々がリアルに描かれてきたシリーズ。
今回は時を経て、更年期編が描かれると、更年期女性の等身大のコミックはなかなかないせいか、連載中から「こういうものが読みたかった」「ささる」など多くの感想が寄せられたそう。
更年期とは、人によって差はあれど、基本的には閉経前後5年ぐらいの期間を指します。女性の場合は今まで心身を守ってくれていた女性ホルモンの分泌がなくなっていき、心身に変化や不調が訪れる老いへの入口の時期。若い女性から見れば、更年期などまだまだ先で、そのころの女性は「終わったもの」と考えているかもしれないけれど、実際は違うのです。あっという間にやってくるし、実は中身はあまり変わっちゃいない。
「更年期の年齢になっても、若い頃とは心はほとんど変わらないんです。だからこそ体が変わっていくことが、ジレンマになり、つらいのかもしれません」と語るのは、作者のおぐらなおみさん。おぐらさん自身、この主人公と同じ、一男一女の母親で夫もいる。
彼女が更年期の不調が一番つらかったのは、47~48歳の頃。
「当時、周囲の友人はまだ更年期の人がいなくて、動悸や急に顔から汗が噴き出す症状を更年期とわからず、病気かもしれないと不安に思って。だから逆に更年期の不調と分かった時にはほっとしたぐらいです。私の場合、最も困ったのは、集中力がびっくりするほどなくなって、仕事にも支障が出たことですね。子どもが小さい時はかわいいけど、仕事の両立は大変で正直つらいこともあった。それがようやく終わり、さぁ仕事にうちこめると思った時期に、やってくるんですよ。更年期ってやつは」
「みんなもこの不調を抱えているのだろうか…?」
集中力がなく、イライラしてお皿を割ったり、机に長い時間すわっていられず、これまで原稿を挙げるが早かったのに遅くなってしまったり。とにかく座っていようとしても、ドキドキして汗が噴き出して描けない。やる気があってもどうしようもなく、体もつらいし落ち込むし、家族にもわかってもらえない気がしてイライラしたり、涙も出てくる。
「みんなもこんな不調や気持ちを抱えているのだろうかと思い、物書きとしてこれは作品にせねばと思いました。私の場合は、体の不調があっても、家で仕事をしているので、そういう時はごろごろしたりできるけど、企業で働く女性はいったいどうしているのだろう?と。
それで取材もしながら、今回の作品を書き始めました。更年期の女性を扱った作品って、医療的なものはたくさんあるけど、等身大の読み物はあんまりない気がするんですよ。だからこそ、等身大の女性の話を描きたかったんです」
不調の中、管理職として働く主人公が様々な問題に直面する日々は大変ですし、年齢の違う人々の集う会社での人間模様も興味深い。男の上司や、若い女性の部下が圭子に心無いことをいうかと思えば、若い男子が自分の母親の更年期のつらさを知っていたことで、何気なくいう一言にほっと救われる。また経験者としてわかってくれる女性の先輩たちが、何とも自由でカッコいい。
「若い子は更年期がどういうものかわからないことは当然なので、思いやりがなくてもしょうがないと思うんです。でも、女の先輩はやっぱり自分の経験があるから頼りになるし、ここに出てくる若い男子のように、女性にはそういう時期があると知っていることが、ちょっとした思いやりにつながる気がします。
会社でなかなか自分の更年期の不調を人に言えず、一人で悩んでいる人も多いと思いますが、女の先輩に『どんな感じでした?』と聞いてみるのもいいかもしれません。
あと母親も似たような症状をたどることが多いようなので、どんな風な症状でどう抜けたかを聞くと参考になるかも。うちの場合は、私がそういう年になったこと自体に驚いていましたけど(笑)」
更年期ママンの家族は、子どもも夫もそれぞれ変化を迎え…
作中では、手のかからなくなった子どもたちは、それぞれの社会の中で生きて、親としては別の悩みが出ている様子。同年代の夫は元気がなく、妻の知らない悩みを抱えており、この年代ならではの家族コミュニケーションのむずかしさも描かれる。そんな中、おぐらさんの夫への視線の温かさがにじみます。
「子どもが成長し、それぞれ親の知らない世界が広がっていて、突拍子もないことを言ってびっくりしたり、性的な心配も出てきたり。でも成長ぶりがうれしいこともたくさんある。
夫も同年代だとやっぱり疲れているし、中間管理職として妻が知らない大変なことが、外でいろいろあるんだろうと思うんです。男性ってそういうことを言わないですからね。
うちの夫も、私が更年期で不調の時に気が利かなくてイライラしましたが、一緒に年をとってきているので、彼もしんどいだろうし、ちょっとやさしくしようかという思いもあります。気が利かないのも、お互いさまでしょうしね」
おぐらさん自身は、更年期の終盤に仕事と並行して、あらためてイラストを学びに画塾に行き始め、そこから美大の短大に進学し、現在2年生。卒業後も何らかの形で学ぶ予定だそう。
「子どもが大きくなったと思ったら更年期が始まって、いつ終わるともわからずつらくて。私の人生このまま終わってしまう!そんなのいや!と思って、新しい環境に身をおいて、新しい自分になってみようと思ったんです。苦しい時に新しいことを始めると、環境も自分も変わるのでいいですよ。
私の場合は通学を始めましたが、そんな大きなことでなくても、何か楽しいことや環境が変わること。部屋の模様替えとか、気分転換になることをしてみるといいかもしれません」
「育児と両立」の次に直面する「更年期との両立」
この主人公は、更年期の中、企業で働くつらさを感じていても、働き続けていてよかったと心から実感します。が、女性が出産後も働き続けることは今の社会では普通になったものの、容易ではありません。
おぐらさん自身は、これまで仕事を辞めたいと思ったことはなかったのでしょうか。
「私の場合は、本当につらかった時期は何度もありますが、やめようと思ったことはないんです。労働でしか味わえない喜びみたいなことを感じるので。また、仕事を続けていると自分の居場所というか、家族とは関係なく、自分だけしかない場所ができるのもいいなと思っています。
女性は、家庭などに問題が出ると、私がやめればうまくいくのではという思考になって、ついやめてしまう方がいますが、そこはもったいない気がします。あとで、あの時やめなくてよかったと思うことはあっても、あの時やめておけばよかったというのは、あんまりなさそうですよね。
また、妻が働いていることで家庭の収入が増えるのも現実問題として助かりますね。子どもの塾の費用など本当高くて、あと10万あったら、あの塾に通わせられるのにとか、そういう事態が来ることもありますから。
子育ての悩みにしても、更年期にしても、その時は本当につらくて、それが終わってようやく乗り切ったと安堵していると、すぐに次の人生の山がやってくる。結局そうやってそのたびごとに乗り越えていくしかないのかなと。
更年期の後は介護や老い、子どもにしても就職したら会社でどうなんだろうとか、結婚してもしなくても親としては心配はつきないわけで。常に悩みながらも乗り越えられると信じ、新たな日々を拓いていくしかないのかなと最近思うようになりました」
時は常にさらさらと流れている。家族も友人も自分自身さえ、現在の形はとどめてはおけない。どんな瞬間も、その時だけしか味わえないと思うと、更年期も愛しいものになるのかもしれません。
人に頼ることを覚えつつ、新しい人生もあきらめない
おぐらさん自身は、更年期の経験を本作で作品化したり、その後半には通学を始めるなど、つらくとも、結果的に「更年期」を糧に楽しみを増やしています。
今、更年期に直面し、悩んでいる女性たちにアドバイスをするとしたら?
「まず、自分だけじゃないんだとわかってほしいですね。程度はどうあれ、みんなその年代になれば、更年期の不調はあって、それぞれ悩んだり、ばたばたしたりして毎日を過ごしてる。一人じゃない、ここにも仲間がいるよって伝えたくて描いている部分がありますので。
そして体調がつらかったら、休めるときは体を休めてほしい。家事でも仕事でも、ゴロゴロできるときはして、人に手伝ってもらえることはそうする。ちょっとがんばればできると、一人で何もかもがんばっちゃう方っているんですよ。でもそこで後輩に仕事をふって任せたり、手伝ってもらったりしたほうがいい。更年期で弱ってきたら、もう一人でがんばらず、人を頼ることを始める人生のタイミングなんだと思います。
そして前述しましたが、その中で何か自分が楽しいと思えることや、新たな環境に身をおけることを、小さなことでいいから始めてみる。本当に落ち込みだすときりがありませんし、今の女性は年を重ねても結構若いので、楽しいことはいろいろあります。
私自身、学校に行っていてあらためて絵を学ぶことも、自分の子どもより若い友人とつきあうことも本当に楽しいです。最初私が教室に入ると、シーンとしたりしてましたが(笑)。まさか学生だとは思われなかったみたいです。先生よりも年上なこともあるので、学校では常に自分の今いる立場をわきまえることに気を付けています。年齢が上なので、知らないうちに説教っぽいことを言っていたらいけませんからね」
それは、おぐらさんの作品への姿勢でもあります。経験している人生の先輩でも、上から目線でも説教でもなく、そこにあるリアルを、切ないこともユーモラスな視点で描く。くすっと笑ったり、共感したり、刺さったりといろんな気持ちになるこの作品。更年期まっさかりの方はもちろん、そうでない人、特に今は若く子育てでてんやわんやの働きママンたちも、未来への心構えとして、ぜひ読んでみてください。
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フルタイムで働きながら子育てする悲喜こもごもを描いた『働きママン』シリーズ最新刊。更年期と反抗期と部下の指導でにっちもさっちもいかない主人公の奮闘ぶりに、泣いて笑って元気になる一冊です。
取材・文/田中亜紀子
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