集団的自衛権とは何か
国際社会の平和と秩序を維持するためには、国家間のルールが欠かせません。「集団的自衛権」は、国際社会の憲法ともいえる「国連憲章」で定められた権利の一つです。
密接な関係にある国が攻撃されたら反撃できる権利
集団的自衛権とは、「自国と関係性が深い国が攻撃された際、自国が攻撃を受けていなくても、一緒に反撃できる権利」を指します。
例えば、A国とB国が同盟関係にある状況において、C国がB国を侵略しようとすれば、A国は武力によってC国を阻止できます。
そもそも「自衛権」とは、平和の破壊や侵略を受けた際、防衛のために武力行使できる権利です。自衛権には「個別的自衛権」と「集団的自衛権」があり、以下のように定義されています。
●個別的自衛権:自国に対する武力攻撃に対し、自国を守るために武力行使できる権利
●集団的自衛権:ある国が武力攻撃を受けた際、その国と密接な関係を築く国も一緒に武力行使できる権利
国際法上の権利は国連憲章第51条に規定
個別的自衛権および集団的自衛権は、国連憲章の第51条に規定されています。国連憲章とは、世界平和と経済・社会の発展を目的に設立された「国際連合(以下、国連)」の基本文書です。国連の加盟国は、国連憲章に規定された権利や義務を守る必要があります。
日本は、1956年12月18日に80番目の加盟国となりました。国連の加盟国である以上、日本も集団的自衛権を行使する権利を有するのです。
国連の加盟国は193カ国で、日本政府が国家として認めていない北朝鮮も国連に加盟しています(2024年5月時点)。ちなみに、日本政府が国家として認めているのは日本を含めて196カ国で、国連に未加入の国が3カ国あります。
出典:国連とは|外務省
:国連憲章テキスト | 国連広報センター
集団的自衛権と日本

日本は、日本国憲法第9条で平和主義の理想を掲げています。これまで集団的自衛権は行使しない考えを貫いてきましたが、平和安全法制の成立により、集団的自衛権の行使が限定的に認められました。容認の経緯を見ていきましょう。
2015年に平和安全法制が成立
日本国憲法第9条には、「国際紛争の解決に武力を行使しないこと」「戦力を保持しないこと」「国の交戦権を認めないこと」が明記されています。
国際法上、日本は集団的自衛権を行使する権利を有しますが、戦後の歴代内閣は集団的自衛権は認めないという考えを守りました。しかし、第3次安倍内閣は2015年、憲法の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する「平和安全法制」を成立させました(2016年3月施行)。
平和安全法制は、平和安全法制整備法と国際平和支援法の総称で、「平和安全法制関連法」とも呼ばれます。
出典:日本国憲法 第二章 第九条| e-Gov法令検索
:「平和安全法制」の概要
集団的自衛権が認められた背景
安倍内閣は、なぜ集団的自衛権を容認する法律を定めたのでしょうか? 主な理由には、防衛力の向上が挙げられます。
北朝鮮の挑発行為や中国の領海侵入、ロシアとの北方領土問題といった国際的な脅威にさらされている日本は、同盟国であるアメリカの助けが欠かせません。集団的自衛権を認めれば、アメリカと日本の関係性が強化されます。
安倍内閣では、国民の合意が必要な憲法改正ではなく、憲法解釈の変更によって集団的自衛権を容認しました。そのため一部からは、「政府が勝手に憲法の解釈を変更するのは、立憲主義に反するのではないか」という声が上がっています。
集団的自衛権を行使できる3つの要件
日本が集団的自衛権を行使できるのは、「存立危機事態」に陥った場合です。具体的には、以下の三つの要件を満たす必要があります。
●わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
●これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
●必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
範囲は定められていませんが、これまでは「公海上」として話が進められてきました。安倍内閣では、武力行使の事例として「日本周辺の公海における米艦の防護」や「紛争国から避難する邦人輸送中の米艦の防護」などを挙げています。
一方、岸田文雄首相は、相手国のミサイル発射拠点を攻撃する武力行使も排除しない考えを示しました。
集団的自衛権は日本にとってプラスなのか?
日本政府は、集団的自衛権の必要性を強調していますが、必ずしもプラスの結果がもたらされるとは限りません。メリットだけでなく、デメリットもあることを覚えておきましょう。
【メリット】戦争や侵略の抑止力になる
集団的自衛権の行使を容認するに当たり、安倍晋三元首相は「戦争や侵略の抑止力になること」を強調しました。
世界では、ロシアや中国をはじめとする国々が軍事力を増強しています。小さな国は、大国による侵略の脅威にさらされやすいですが、複数の国が協力関係を構築すれば、侵略をもくろむ国に「侵略しても成功する見込みがない」という認識を与えられるでしょう。
侵略が起きた際も、少ないコストと労力で相手を撃退できます。共同防衛により、被害の拡大を最小限に食い止められるのもメリットです。
【デメリット】関係国の争いに巻き込まれる
同盟国であるアメリカが他国から武力攻撃を受けた際、日本は支援要請に応じて、自衛隊を戦地に派遣しなければなりません。自衛隊が戦地で武力行使した場合、人を殺したり、命を落としたりするケースもゼロではないでしょう。
日本政府は「必要最小限度の武力の行使を認める」としていますが、必要最小限度が何を指すのかについては明言していません。
万が一戦争が始まれば、他国の戦争に自国も巻き込まれる可能性があります。1914年に始まった第1次世界大戦は、同盟関係が世界規模の戦争をもたらしました。
集団的自衛権の重要性やリスクを認識しよう
集団的自衛権は、同盟関係などつながりの深い他国を助けるために武力行使ができる権利です。軍事力の強化や軍事活動を活発化させる国がある中、集団的自衛権は戦争や侵略の抑止力になり得ます。
一方で、行使の判断を誤れば、他国の戦争に巻き込まれる恐れがあることを忘れてはいけません。政府による憲法解釈の変更に対し、専門家や国民からは賛否両論の声が上がっています。
私たちは集団的自衛権の重要性やリスクをしっかりと認識しながら、政府の動向を見守る必要があるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部