【予約の取れない植物観察会】へ! カタバミの葉で10円玉を磨くと何が起きる? 植物観察家・鈴木純さんが案内する「ミチのクサ」の楽しみ方

歩いていると何気なく通り過ぎているまちの植物。子どもたちの遊びの対象になっている雑草も、実は好奇心を持って観察してみると、知らないことだらけなのです。そんな道端の植物のガイドをしているのが、植物観察家の鈴木純さん。開催する「植物観察会」は、告知するとあっという間に埋まって予約が取れないほどの人気。子どものお勉強のためでなく、大人すら夢中にしてしまう植物の楽しみ方があります。そんな観察会の様子をレポートします!

道端の植物を楽しむのは心の余裕 

鈴木純さんの植物観察会は、勉強としてではなく、あくまで「楽しみ」として植物と触れ合うのが特徴です。植物園のような専門の施設ではなく、身近にある公園や道端で行われます。身近な生き物でも、たくさんの発見がある観察会なので、会の後は、よく見るような草花が、素通りできなくなるほどかわいくなることでしょう。

今回は、4月に鈴木さんが出版した写真絵本『シロツメクサはともだち』(ブロンズ新社)のイベントとして、植物観察会とトークショーに参加しました。

観察会START! 這いつくばってGO!

 「観察会でやりたいことは2つあります。1つは植物の名前を知ること。名前を知ると相手が浮かび上がってきます。2つ目は、その植物がどう生きているかを観察すること」

公園にはよく見かける雑草が生えていますが、名前を知っているものは意外と少ないものです。ましてやその生態なんて考えたことがありません。
公園の中に入ると、おもむろに鈴木さんは草の生えた土のところを探し始めました。

「ここにオオイヌノフグリがあります。花びらが4枚の青い花です」
見ると、おなじみの小さな青い花が風に揺られています。

「実は、そのちかくに、オオイヌノフグリの仲間であるタチイヌノフグリも咲いています。とっても小さい青い花なんですが…」
えっ、そんな花ありましたか?
よく見るとそばに、オオイヌノフグリそっくりの非常に小さな青い花が咲いています。
「これって、オオイヌノフグリの子どもじゃないんですか?」
「タチイヌノフグリは、成長してもずっと花が小さいままです。植物って大きくなっても花の大きさは変わらないのです。だから、植物の同定は葉の形でなく花をみるのが基本なんですよ」
同じ仲間の植物なので、小さなタチイヌノフグリにも、特徴となるフグリ(睾丸)に似たハート型の果実があります。すべてがミニサイズ。よく目を凝らさないと見つけられないのですが、発見したときは嬉しくなります。

発見の連続! 植物と話をする

 鈴木さんは、また地面を見て言います。
「ここには黄色い花が複数咲いていますね。どれがカタバミかわかりますか?」
参加したみなさんが、這いつくばって黄色い花を探しています。カタバミは花びらが5枚の黄色い花。似た花が2つ。悩ましい。

正解は右。左はヘビイチゴです。

「カタバミは、葉が3枚セットのハート形をしているのが特徴です。葉がクローバーのような形をしているので、よくシロツメクサと間違われやすい植物です。でも簡単に見分けるいい方法があるんですよ。誰か10円玉を持っていませんか?」

鈴木さんは、カタバミの葉を採ってその10円玉を磨くと何かが起こると言います。

「…はて? 変わらないような…あっ」
強くこすった部分が、10円玉がきれいになりました。

上の一部分が、にぶい光をはなっています

「これは葉に含まれるシュウ酸が作用して、きれいにしてくれるんです。ちょっと酸っぱい匂いがするでしょう? シュウ酸は、虫に葉を食べられにくくする効果があるのでしょうね。植物は自分で移動できないから」

植物に自分から寄り添っていく

鈴木さんの観察会では、植物を勉強する会という雰囲気がありません。「よく見るとこんなおもしろいことがあるんだけれど、ちょっと見てみて」という感じで、好奇心をくすぐるように話をしてくれます。
「植物観察は、こっちの方から近づくんです。上から植物を見るのでなく、この位置で植物を見てくださいね」と地面に寝転がってしまいました。

そして「ここに今日一番きれいな花が咲いているので、見つけてみてください」と言います。
ここに花なんて…と思うと、ありました! 米粒サイズの花が!

「この距離感で見るキュウリグサがいいんですよ。水色の花で中心に黄色いリングがあるきれいな花です。葉っぱをつまむとキュウリの匂いがします。似たような花はたくさんあるけれど、植物のいろんなヒントを組み合わせると種類がわかってきます」

鈴木さんはいま教えられたから「キュウリグサだ」と思うのではなくて、別の場所で自分の目で見つけてほしいといいます。葉や花の形、色、においや場所で見つけられるように。観察を続けていくと、どこに実ができるのかによって、実は花だと思っていたものが葉であったことに気づくこともあります。
名もない植物に名前や特徴があると知ることで、いままでは通り過ぎてしまっていた道も、そこに友達ができたかのように興味が持てるようになるから不思議です。

しかしたくさんの観察会を開催するようになって、植物への興味の持ちどころというのは人によって違うと実感した鈴木さん。見た目のきれいさに魅力を感じる人もいれば、虫など他の生物や自然との関係性におもしろさを感じる人もいます。 

草の観察を続けていたら見つけた、小さなバッタ。発見はたくさんある

絵本で植物観察のトビラを開く 

それぞれの人が好きなポイントを楽しむことが大切なので、鈴木さんの著作絵本『シロツメクサはともだち』では、図鑑ではなく自由研究の喜びを感じてもらえるような構成にしたそう。

シロツメクサは花が集合して白い球体を作るので、先に咲いた花は下からすぐに茶色く枯れてしまいます。すべての花が真っ白できれいな状態のものを探すのはひと苦労。でも見つかったときの感動は大きいものです。鈴木さんはその美しいシロツメクサを探すこと自体が楽しかったと言っていました。

表紙は満開のシロツメクサ。美しい形の完成形

そこから、一体いくつの花が集まっているの? 花がたくさんついているといいことがあるの? そんな疑問を持って、花を分解して行ったり、観察を続けることで、新たな発見がどんどん出てきます。

花の数を調べて、めしべやおしべがあること、そして豆ができることなどを自分の目でみていった鈴木さん。この発見の喜びが科学の入口になると言います。絵本を見て「シロツメクサってこれが正解なのね」と思うのでなく、おもしろそう、やってみよう!と思う気持ちになれるページ構成にしたそうです。

89個もの花の数を数えたときが、一番わくわくしたそう

鈴木さんの観察会の様子は、漫画で読む植物観察の入門書『まちなか植物観察のススメ』(小学館)にも描かれていて、その視点は大人から見てもとてもおもしろいものです。観察は記録ではなく、その相手とお近づきになる一歩なのかもしれません。

鈴木流のまちの植物の楽しみ方

植物は花を愛でて終わりでなく、花が咲いたら実ができる、そしてタネになる、また新しい命が芽吹くというところまで観察していくことで、植物の多様性が見えてきます。鈴木さんは、まちの植物の楽しみ方として3つのポイントをあげていました。

  • ・見た目を楽しもう
  • ・他の生き物や環境とのかかわりを考えよう
  • ・自分でテーマを決めて観察しよう

これはまさに自由研究! 探究するおもしろさは、大人も子どもも変わりません。

温かくなってたくさんの花が咲き、夏の緑が深くなり、生き物が元気になってくるこの季節。親も子も一緒に日常の植物観察を楽しんでみてはいかがでしょうか?

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『シロツメクサはともだち』
文・写真:鈴木純
ブロンズ新社

シロツメクサの美しさと不思議を紹介し、実態にせまる写真絵本。 知ることでどんどん好きになっていく、ともだちと話しているようにたのしめる1冊! 詳しくはこちら

 

 『まちなか植物観察のススメ』
監修:鈴木 純 漫画:カツヤマ ケイコ
小学館

鈴木純さんの植物観察講座の内容をベースに、新たな植物の楽しみ方を、ギャグ満載の漫画で紹介。観察会の様子が楽しみながらよくわかる。詳しくはこちら

 

 

お話を伺ったのは・・・

撮影:前田聡子
鈴木 純
植物観察家・植物生態写真家。1986年、東京都生まれ。東京農業大学で造園学を学んだのち、青年海外協力隊に参加。 中国で砂漠緑化活動に従事する。帰国後、国内外の野生植物を見てまわり、2018年にフリーの植物ガイドとして独立。著書に『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』(雷鳥社)、監修に『はるなつあきふゆのたからさがし』(矢原由布子/アノニマ・スタジオ)NHK「ダーウィンがきた!」の取材協力と番組出演など。

取材・文/日下淳子

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