中国で反スパイ法改正、7月から個人のスマホやPCを捜査当局がチェックできるように…日本にとって最大の貿易国である中国で、懸念される日本人の渡航リスクとは?【親子で語る国際問題】

いま知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は中国への渡航リスクについて学んでいきます。

監視や拘束 懸念される日本人の中国渡航

中国は依然として日本にとって最大の貿易相手国であり、今後も日本経済にとって中国は重要なパートナーであることは変わらないでしょう。今後も安定した日中関係の維持と発展が望まれます。


しかし、日本人の中国渡航を考えれば、これまでより注意が必要な状況です。中国では7月1日から、個人のスマートフォンやパソコンを必要に応じて捜査当局がチェックできるようになります。中国の習政権は国内での監視の目を強めており、これもその一環でしょう。しかし、スマートフォンやパソコンには多くの個人情報が含まれており、そのチェックはすぐに個人のプライバシーの権利を侵害することになり、大きな問題です。今後、中国から帰国する直前、日本人が空港でスマートフォンやパソコンなどをチェックされ、帰国できなくなったというケースも出てくるかもしれません。

反スパイ法によって2023年は17人の日本人が拘束された

これまでも中国ではスパイ容疑で日本人が拘束されるケースが続いています。昨年3月には、北京で50代の日本人男性がスパイ行為などを取り締まる国家安全当局に拘束されました。この男性は大手製薬会社アステラス製薬に勤務する男性で、中国での駐在歴が20年もあり、帰国する直前に逮捕されましたが、なぜ拘束されたか、何が法律に抵触したのかなど具体的な説明は一切ありません。

中国では2014年の反スパイ法、2015年の国家安全法、2017年の国家情報法などと監視強化を目的にする法律が次々に施行され、昨年の邦人拘束を含め反スパイ法に違反した容疑で拘束された日本人は17人に上っています。2021年1月には反スパイ法違反の容疑で逮捕された日本人男性2人の懲役刑が確定し、2019年9月には中国近代史を研究する大学教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束されました。また、2022年10月にも反スパイ法違反で懲役6年の判決を受けて刑期を終えた男性が帰国しました。

改正反スパイ法により、パソコンやスマートフォンのデータチェックも

また、昨年7月から監視の目をさらに強化する目的で、改正反スパイ法が施行されました。改正法ではこれまでのスパイ行為の定義が大幅に拡大され、国家機密の提供だけでなく、国家の安全と利益に関わる資料やデータ、文書や物品の提供や窃取もスパイ行為に含まれるようになり、今回のスマートフォンやパソコンのチェックを含め、今後の日本人の中国渡航では注意が必要です。

人気の渡航先、香港も同じように気を付けることが必要

しかし、これは中国本土だけの話ではなく、旅行先としても人気がある香港でも注意が必要です。1989年6月4日の天安門事件から35年となった6月4日、香港では習政権を批判するような抗議活動をしたとして、23歳から69歳の男女4人が逮捕されました。また、ビクトリアパーク内で太鼓を鳴らし、お経を唱えながらねり歩いていた日本人男性も警察に連行され、一時拘束されていたことも分かりました。

中国本土と違い、香港では長年6月4日に天安門事件の追悼集会が開かれ、多くの市民が参加してきましたが、2020年に香港国家安全維持法が施行されて以降、追悼集会が禁止となり、近年はそれに抗議する人々が逮捕されるケースが続いています。香港では“香港の中国化”が進んでおり、香港渡航でも同様の注意が必要です。中国で市民への監視の目が強まれば強まるほど、日本企業の中国ビジネスも減退していくことになるでしょう。

この記事のPOINT

  • ①反スパイ法によって、多くの日本人が拘束されている
  • ②この2024年7月1日からは、改正反スパイ法が施行され、パソコンやスマートフォンのデータも監視の範疇に
  • ③中国同様、人気の香港でも同じように監視の目が厳しくなっている

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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