更年期のような症状があっても、更年期とは限らない!
-30代後半~40代前半のいわゆる「プレ更年期」で、更年期に似た症状が起こるのはなぜでしょう?
木下さん:更年期の不調は、女性ホルモンの量が急激に減少することで起こります。女性ホルモンは卵巣から分泌されますが、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の指令を受けています。年齢とともに卵巣の機能が低下すると、〝女性ホルモンをどんどん出して!〟というFSHの指令に応えようと女性ホルモンが一時的に上昇し、また低下するといった乱高下が起こります。更年期には、このように女性ホルモンが大きく揺らぐことで自律神経のバランスが乱れやすく、心身のさまざまな不調につながります。
【更年期症状の一例】
□疲れやすい
□怒りやすい、イライラする
□気持ちが落ち込みやすい
□月経不順
□のぼせ、発汗
□不眠、中途覚醒
□手足が冷たい
□性交痛、尿もれ
□動悸や息切れ
□頭痛、めまい
□肩こり、関節痛
ただし、プレ更年期にあたる30代後半〜40代前半は、卵巣機能が低下し始めてはいるものの、女性ホルモンの分泌はまだそれほど少なくなっていません。一方で、仕事や家事、子育て、人間関係のストレス、睡眠不足、不規則な食事などで、自律神経が乱れやすい世代なので、それが原因で更年期に似た症状が出ているケースの方が多いかもしれません。
また、貧血や甲状腺の病気、婦人科系の病気など、別の原因が隠されていることも考えられます。実際、更年期だと思って女性専門外来を受診した患者さんの約4人にひとりに別の原因が見つかっています※1。
※1 東京女子医大東医療センター性差医療部の調査より
不調があるなら、我慢や放置をせずにまず受診!
-自分がプレ更年期や更年期かどうかを判断する方法はありますか?
木下さん:簡単なセルフチェックだけではプレ更年期・更年期の判断はできませんし、不調の本当の原因もわかりません。やはりまずは病院を受診して、医師の診察、病気の見分けの必要に応じた血液検査や画像検査などを医師の勧めに従って、受けることが大切です。不調の原因の解明のためには、まずは医師による診断があってこそ、その後の正しい対処法が決まってきます。
中には、食事や生活習慣の改善が必要なものもあるでしょうし、服薬治療が必要なものもあります。怖いのは、治療が必要な病気を、プレ更年期や更年期のせいと自己判断して放置してしまうことです。
-更年期に似た症状を自覚していたら、まず何科に行けばいいですか?
木下さん:以前は複数の診療科の医師が連携して女性の診療にあたる「女性専門外来」が各地にありましたが、残念ながら、最近は少なくなっています。ご自身の症状に応じてですが、総合的に判断するためまずは内科、症状が月経周期に関連しているようなら婦人科でもいいと思います。あるいは、めまいや耳鳴りがあるなら耳鼻科、気持ちの落ち込みが強い場合にはメンタル科など、特に気になる症状を専門としている診療科で精査するのもよいでしょう。
ただ、どこを受診するにしても、先生に自分の症状をきちんと伝えることが大切です。痛いところがあるなら、どこがどんな風に痛いのか、いつ痛むのか…など。先生に面と向かうと緊張したり、時間も限られていて言いたいことを言えなかったという方も多いのではないでしょうか? そのためにはっきりとした診断を受けられなかったら、後悔が残ります。
特に初診の際は、事前に気になる症状や相談したいことを書き出して、診察時にその紙を担当医にお見せすることをお勧めします。また、お薬手帳やこれまでの健診結果や他院での検査結果なども適宜持参するといいでしょう。
女性の診療を支援するアプリ「WaiSE(ワイズ)」が実用化へ!
-女性の受診の指針になるとされるアプリ「WaiSE」とは、どのようなものでしょう?
木下さん:「WaiSE」は、国立研究開発機構AMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業」に採択され、政策研究大学院大学教授の片井みゆき先生が中心となって研究開発を進めた「女性診療を支援するAI診断ナビゲーションシステム」です。片井先生が中心となって立ち上げた東京女子医大東医療センターの女性専門外来の受診者(5,241名、6万件以上)の診療データベースを性差医学の観点から解析し、その結果がアプリに反映されています。アプリの質問に次々と答えていくことで、どんな病気の可能性があるか、まずはどの科を受診すればいいか、を知ることができます。私も、看護師として片井先生と一緒に女性専門外来を担当し、そのご縁でAMED研究開発に研究員として参加させていただきました。
女性診療のエキスパートが開発した女性の受診支援アプリ「WaiSE」は、プレ更年期・更年期をはじめ、さまざまな症状に悩む女性に役立つ画期的なものですが、一方で医師の側にとっても大きなメリットがあります。患者さんの症状や訴えがアプリで事前に整理されているため、限られた診療時間を有効活用できるほか、適切な検査の選択や正確な診断の助けにもなります。今後、実用化を目指しています。
自己判断は禁物!
お話を伺ったのは
木下 千栄子(きのした ちえこ)|
政策研究大学院大学 研究員 片井性差医学・医療研究室
1992年看護師免許取得後、東京女子医科大東医療センター病棟・外来勤務。2012-18年同センターで内科外来と女性専門外来を経験。2019年–同大総合診療科研究員(AMED受託研究WaiSEの開発に看護師の経験を活かして従事)。2020年より現職。
取材・文/つつみゆかり