親が忙しくても、英語が苦手でも「おうち英語」はできる!
――鹿田さんはお子さんとどのように「おうち英語」を始められたのでしょうか?
鹿田さん:わが家は息子が生後7ヶ月の頃から保育園に通っていたのですが、夫も忙しく、毎日ほぼワンオペ状態という日々を過ごしていました。1日を終えるだけで精一杯という毎日でしたから、子どもの早期教育について考える余裕さえありませんでした。
ただ、「息子に何か与えてあげられることがあるとしたら、私の場合は英語のスキルなのかな」と思ったので、自分の気分転換も兼ねて、保育園の送迎時の車の中で、英語のCDを聴かせてみることにしたんです。それが我が家の「おうち英語」の始まりでした。
翻訳家の家庭だから特別なことをしているのでは、と思われるかもしれませんが、親が英語を教えるということはせず、とにかく「英語の歌や朗読のCDを聴かせる」ことだけを意識していました。
――CDを聴かせるだけでいいんですか?
鹿田さん:CDだとスイッチオンで「かけっぱなし」にできるのがいいんです。自分が家事をしている間も、子どもにCDで歌を聴かせておくとご機嫌になったりして。音楽のある生活っていいなと、楽しむ感覚でした。
日本語を習得するプロセスを考えても、親のくり返しの語りかけなどを経て、赤ちゃんは1歳前後でようやく簡単な単語を発するようになりますよね。そういう日本語の学びに、少しだけ英語を混ぜる、という感じです。
ですから最初にアルファベットを覚えさせるなんてことはせず、童謡だったり、絵本だったり、親が無理なくできて子どもが楽しんでくれる内容を最優先にしてきました。
――英語と日本語で子どもが混乱するということはありませんか?
鹿田さん:わが家は夫も私も日本生まれの日本育ちです。親が日本語で生活をしている家庭環境であれば、まずは日本語でコミュニケーションを取れるようになることが、家族にとって何よりも大切です。生活する中で子どもの関心や興味のあることを観察しながら、そこに英語を足していくというスタンスでした。
親が日本語で生活をし、社会生活の大半を日本語で行う環境であれば、家で英語を意識して与えたとしても、日本語を使う時間量が圧倒的に勝るため、混乱する心配はありません。むしろ小学校に上がるにつれて英語に触れる時間がなかなかとれなくなるので、早めにおうち英語をスタートして、コツコツと持続させる方法を考えておくことが大切です。
――親が英語が苦手だったり、発音に自信がなかったりしてもよいのでしょうか・・・?
鹿田さん:これは、もっとも多い質問ですが、親は堂々としてていいんです! 音源(CD)をかけっぱなしにしながら、親もちょっと真似して、自分の英語力アップにつなげてもいいですし。そして親がもっと自信を持ってほしいのは、「自分には中学までの文法力がある」ということ。苦手意識を持つ前に、そこの部分の積み上げがあることに自信を持ってほしいです。
発音に関しては、中1で英語を始めた私よりも息子の方が上手なんです。私は逆に教えてもらったり、読んでもらったりすることもあり、それがコミュニケーションの一環になっています。「親は完璧じゃなくていい」というのは、子育て全般に言えることではないでしょうか。英語学習について言えば、子どもに教えてもらってもいいし、「私には文法力がある」と自信を持てばいいし、「英語力を子どもと一緒に積み上げていくチャンス」と思えばいいんです。
とにかく、入口は「かけっぱなし、リスニングが9割」なので、親が何とかしなきゃ、と身構えなくてOKです。
「おうち英語」はリスニングが9割!小学生からでも始められる!
――鹿田さんはご著書でも「おうち英語はリスニングが9割」と書かれていますが、その理由を教えてください。
鹿田さん:私がリスニング力を重視するのは、英語を聞こえた順に理解することがすべての英語力の基礎になるからです。私は英日翻訳者として25年以上毎日英語の本を訳していますが、分厚い本を翻訳するときも、まずは読んだ順番に頭に入れていくんです。私たちが日本語のラジオやニュースを聞いたり、人と会話ができたりするのは、聞こえた順に理解できるからですよね。
英語を聞こえた順に理解できるようになると、自然に英語の語順で考えられるようになり、読み書きもスムースにできるようになります。
ですから、おうち英語はとにかくリスニングだけ。英語の音源(CD)を流しておくだけでOKです。
お子さんが小さいうちは家にいる時間が長いですよね。習い事だと英語に触れられる時間は1時間くらいですが、家なら、ご飯を食べながら英語の歌を聴いたりできますし、親が家事をしている間にCDをかけっぱなしにしておけば、何となく歌を聞いて英語のリズムを頭に入れることができます。おうち英語の最大のメリットは、生活時間帯を活用できることです。
――おうち英語を始めるのは小学生からでも遅くないですか?
鹿田さん:もちろん大丈夫です。12歳までの子どもは耳からの学習力が高いと言われています。この年齢を過ぎると今度は頭で理解するようになるので、英語でいえば文法を理論的に学ぶような能力が発達するんですよね。
年齢が上がってもリスニング力をつけることは可能ですが、耳から学びやすいメリットを活用するなら、リスニングは小学生からでも早めにスタートするのがおすすめです。
今は親世代とは違って、小学校から英語の授業があるので、中学で学ぶ単語数が多く、例文も増え、文法も難しくなり、私も中学生の英語の教科書を見て、「これは大変だ」と思うほどです。ですから、中学生になってたくさんの単語を覚えて、文法を理解して、リスニングもリーディングも、となると、かなりのボリュームになり、他の教科の勉強もあるので、リスニング学習に使える時間がどうしても取りにくくなるんです。
――小学生からおうち英語を始める場合も、小さい子と同じようにすればよいのですか?
鹿田さん:そうです。リスニングが先。リスニングの基礎の上に、話す・読む・書くが積み上がります。リスニングから入るという「順番は同じ、内容(コンテンツ)を変える」です。小学生だったら、マザーグースのような童謡や、子ども向けの英語の歌がおすすめです。
シンプルな子どもの歌でも、意外にさまざまな動詞が覚えられるんですよ。マザーグースには過去形とか過去分詞などを使っている歌詞が多くて、文法として理論で勉強する前に、自然に頭に入れておくことができます。
それに、将来子どもが留学したりとか、日本人以外のバックグラウンドの人と話したりするときに、子どもの頃に聴いた歌やリズムを知っているとコミュニケーションにつながります。そういう点でも、子どもの頃からこのような歌を聞かせておくのはおすすめです。
――小学生になると、英語を英語のままで理解するというより、「これは日本語で何?」と聞かれることが多いのですがどうしたらいいですか?
鹿田さん:子育てと同じで、「子どもの好奇心を否定しない」ことが大切です。子どもの質問を受け止めてOK。日本語で教えても問題ありません。その上で気持ちに余裕があればビジュアルを見せてあげればいいですね。例えばappleなら、日本語でリンゴと教えるだけではなくて、画像を見せて把握させるとよいです。日本のリンゴと海外のリンゴってちょっと違うんだな、ということも学べますよね。
実は英語って、ぴったり対応する日本語が見つからないことが多いんです。親も一緒に英語の図鑑や辞書を見て、「こうやって調べてみようか」とやりとりするのもいいですよ。そういうことができるのは少し大きくなってからですね。くれぐれも、親が無理のない範囲で。
「訓練」と「体験」は別!今しかできない「おうち英語」で子育てを楽しもう
――CDはどんなものを選ぶのがよいですか?
鹿田さん:「おうち英語」で私が特に意識したことは、子どもの興味を観察することなんです。息子の場合、恐竜にはまった時期があったので、海外のDVDを入手して一緒に見たり、恐竜の英語の絵本を読んだりしていました。
子どもは、興味のあるものなら「何度も繰り返し」見ますよね。その特性は語学習得にとても合っているので、「好きなものを見つけてあげるところまでが親の仕事」と思っています。あとは、放っておいても、好きなら見るし、飽きちゃったらもう見なくなる、というだけです。
絵本も親が読んであげられるならそれでもいいですが、私は当時、子どもより先に寝落ちするぐらい疲れていたので、朗読CDを使っていました。CDなら自動的にオフになるので、私が寝落ちしても、子どもが眠ってしまっても大丈夫。英語の本のCD(音源)はインターネットで手に入るものも多く、英語の難易度というよりは、お子さんの好きなテーマで選んであげるのがいいと思います。
初めて選ぶ絵本ならエリック・カールの作品がおすすめです。言葉もシンプルで繰り返しが多いので、親も子どもも読みやすいですし、単語も覚えられます。我が家でも100回以上は読んだと思います。写真左のバージニア・リー・バートンのボードブックは、日本語版の『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』(石井桃子訳、福音館書店)が好きだったので、英書を購入しました。
その時々で「子どもが必要とする情報や経験に英語を“ちょい混ぜ”していく」ような感覚でやると、親が続けやすいと思います。結果を出そうと考えず、親のストレスにならない範囲で生活の一部に英語がある環境を作るということです。
――親が頑張りすぎないことも大切ですね。
鹿田さん:「訓練」と「体験」は分けて考えた方がいいです。親が子どもに与えられる1番素敵なことって「体験」だと思うんですよね。親子で一緒に体験していると、思い出になって子育ての幸福度アップにも繋がると思うので、本当にそこはすごく大事にしてほしいです。
子どもが大きくなると、英語も現実的に「点数をとらなきゃ」とか、「受験のために」という「訓練」の時期がきますが、それは子どもが自分で頑張るところなので、親は強制することはできないですよね。
また、「英語で話しかけると子どもが嫌がる」「英語でアニメを見せると嫌がる」という相談を受けたこともありますが、もしかしたら、親の「必死な雰囲気」が伝わってしまっているのかもしれません。
英語学習というと、「何か身に付けさせなきゃ」と親が焦ってしまう気持ちはすごくわかります。でも、子どもの立場からすれば、いつも日本語で見ているお気に入りのアニメを、急に英語で見せられて、お勉強の時間にされてしまうと、嫌になるかも……ということです。
「子どもを英語嫌いにさせない」ことが何よりも重要なので、嫌がることはやらないように気を付けることが大切です。
そういう場合は同じジャンルでまだ日本語で見たことのないDVDを見せるのもいいですし、あくまでも「親が見てるだけ」にして、子どもがどこかに行ってしまっても気にしない、という感覚でいいと思います。親が「訓練」のように強制することで、子どもを英語嫌いにさせないことが大切です。
英語学習に迷ったら、「日本語はどうやって覚えてきたんだっけ?」とふり返ると、答えが見つかるはずです。音を聴いて、発語して、文字は何度も繰り返して練習して、ようやく書けるようになりました……よね? 英語も同じです。
――ありがとうございました。子どもの好きなことを一緒に楽しみながら、英語を取り入れていこうと思います!
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お話をうかがったのは
翻訳家。国際基督教大学卒。コミュニケーション学専攻。『「自宅だけ」でここまでできる!「子ども英語」超自習法』(飛鳥新社)の著者。
子育て本、絵本、小説、実用書など、70冊以上の翻訳を手掛ける。主なテーマは「子育てと女性の生き方」。近年の担当書に『ブラウン大学経済学者で二児の母が実証した 世界標準の子育て大全』(エミリー・オスター著、PHP研究所)、『なめられない品格』(リサ・サン著、飛鳥新社)、『フランスの子どもは夜泣きをしない』(パメラ・ドラッカーマン著、集英社)、著者が2023年ノーベル経済学賞を受賞した『なぜ男女の賃金に格差があるのか 女性の生き方の経済学』(クラウディア・ゴールディン著、慶應義塾大学出版会)などがある。2022年の訳書『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著、新潮社刊)がNHKや新聞、雑誌、Webメディアなどで話題に。
翻訳者としてのキャリアと子育ての経験を生かして、2021年に『「自宅だけ」でここまでできる!「子ども英語」超自習法』(飛鳥新社)を刊行。「英語はリスニングが9割!」をベースに、81の英語学習のコツを、テクニックだけではない、教養や子育ての一環として、そしてコミュニケーションツールとしての学び方をアドバイス。子育てサイトKIDSNA、朝日新聞globe+、プレジデントオンライン、ForbesJAPANなど、メディア紹介多数。
「もっと、ことば【本】をあなたの味方に」をテーマに、女性の生き方や子育てを豊かにする発信をしている。全国の男女共同参画センターなどでも講演会も行っている。
X(Twitter)@maminshika
Instagram : masamishikata.eigo
取材・文/平丸真梨子