RISU代表 今木智隆(以下、今木):本日は、応用神経科学者DAncing Einstein代表・青砥瑞人さんにお越しいただきました。
応用神経科学者DAncing Einstein代表 青砥瑞人さん(以下、青砥):こんにちは!
今木:今日はテーマとして、「子どもの脳が喜ぶ」子育てのポイントをお話できればと思います。子どもではなく「脳が喜ぶ」という視点は面白そうです。
青砥さんは神経科学の専門家だと存じておりますが、現在本は出版されていますか。
青砥:本は今5冊ぐらい出版しています。あと学校関連でPTAのイベントからもお声がけいただいたり、開催する講座ではママさん・パパさんの参加も最近増えています。
今木:なるほど、ありがとうございます。実際子育て中のママさん・パパさんたちは、青砥さんの専門分野である「神経科学」と「子育て」についてもかなり興味がありそうといった状況ですね。
目次
心理的安全な状態と危険な状態の「脳」とは
今木:青砥さんの本を読んで感じたのですが、「心理的安全」という言葉は、教育者からあまり聞かないですね。私も含め具体的な教科の話(算数や国語など)が多いです。でも、「心理的安全性」というのは、子どもの心の状態に注目した重要な言葉だと思います。
今木:親からすると、何か子育てのなかでのヒントがありそうかなと思います。例えば、今ってなんか「認めましょう」「褒めましょう」ばかりに思いますが、必ずしもそれだけじゃないのでは?と思う部分もあって。実際、専門家としていかがですか。
青砥:そうですね、「心理的安全」という言葉は、神経科学の視点からよく使われます。簡単に言うと、心が安心している状態と不安な状態では、脳の働きが全く違うんです。
例えば、ストレスを感じると脳に「ストレスホルモン」が出ます。このホルモンが脳にどれくらい影響するかが重要なんです。少ないと安心、多いと不安な状態になります。
今木:つまり、脳には適切なストレスの量があって、その範囲内であれば安全だけれど、それを超えると危険な状態になるということですね。
ストレス過多!脳がストップする生命反応「戦う・逃げる・動かない」
青砥:専門的な話ですが、脳の前の部分、前頭前野には2種類の「受け皿」があります。それぞれ違う役割を持っていて、一つはストレスに対して親和性が高い(=反応しやすい)性質を持っています。
今木:なるほどね。
青砥:その親和性が高いほうの受け皿だけにストレスがたまっている場合は、まだ大丈夫なんです。ストレスがいっぱいになり、もう一つの受け皿にまでストレスがたまると、「これはストレスが多すぎるよ」というサインになります。
そうなると、脳は「ストレスが限界を超えた!」と判断して、働きを止めてしまいます。
今木:なるほどね。そうなるとどのようなことが起こるんでしょうか。
青砥:脳の前頭前野が働かなくなると、脳は「危険だ!」と感じます。そうなると、人間や動物は「戦うか」「逃げるか」「動かない」となります。
このような反応は、子どもたちの行動を見ていると頻繁に現れるところが多いと感じています。
前はできたのに…子どもの間違いを理解するには、脳の「エラー検出機能」がカギ
青砥:前頭前野がうまく働かなくなる時、そもそも何が起こっているかを知ることが大事です。
例えば、学習面で問題を解くとき、算数でも国語でもミスを見つける力(=脳のエラー検出*1機能)が重要ですよね。そして「今までできてたのに、なんでそれを間違えちゃうの?」ということ、子どもにはよくありますよね。
*1 エラー検出とは:エラー検出は、脳が間違いや問題を見つける能力のことを指します。脳の中には、間違いや異常なことに気づくための特別な仕組みがあります。
青砥:社会人でも同じです。くだらないミスを繰り返すようなときは、エラー検出機能の働きが弱くなっているんです。
今木:なるほどね。
青砥:前頭前野に、エラー検出やエラーを見つけて修正する能力を担う機能があるんですが、これがうまく働かないと、間違いを繰り返したり、以前までできていたことができなくなります。
そのため、意識して注意を向けたり考えたりする力が弱くなり、集中できなくなります。さらには、複雑なことを考えたり、行動をコントロールしたりするのが難しくなることにも繋がります。
叱ったら子どもがフリーズ!脳の働きを知るだけで伝え方が変わる
今木:なるほど。実際の育児の場で見られるケースとしては、具体的にどのようなイメージでしょうか。
青砥:学校や日常生活でよく見るんですが、先生や親が頭ごなしに叱ったとき、子どもたちがわーっとストレスを感じて目が泳ぐような状態になることがありますよね。
今木:ある!ありますね。
青砥:その状態がまさに、脳がストップしている状態です。自分の意識ではコントロールできないような反応なんです。
今木:なんか、目の前であっち向いてこっち向いて、目が泳いでわけがわからなくなる状態ですね。
青砥:そうです。でも、そんな状態で先生や親は一生懸命に何かを伝えようとするんです。その状態の子どもに何かを言って頭に入るかというと、答えはNOです。
子どもたちはそのフリーズ状態の中で、目の前の存在が「自分にとってヤバイぞ!」「危険だ」と学習しているだけなんです。
今木:はいはいはいはい、なるほどね。
青砥:脳は、目の前のものが危険だと感じたら、次に同じような危険に遭った時にすぐ逃げられるように、その記憶をしっかりと覚えようとするんです。これが、生き延びるための本能なんです。
今木:昔はそれで良かったんですよね。クマとか危険な野生動物と遭遇した時とか。
青砥:そうなんです。ホモサピエンスになった30万年前から、ずっとそれで良かったんです。でも、今の時代ではそれでは困りますよね。
恐怖や強いストレスを感じている状態では、「言われていることを考えて、次に活かそう」といった高度な機能が働かなくなるんです。
脳がストップしている状態では、何を言っても右から左に流れてしまい、全く頭に残らないので、また同じミスを繰り返してしまいます。 同じミスを繰り返す子どもは、親や先生の伝え方を変えると改善するかもしれません。
今木:伝え方を変えることで、悪循環を逆転できるかもしれないですね。
青砥:そうです。脳が学習できない状況で伝えようとしても、同じことの繰り返しで悪循環に陥り、子どもはまた同じミスをしてさらに怒られるわけです。だから、負の連鎖が起こりやすくなってしまいます。
心理的安全が大事と言われるのは、このためだと思います。そして、もったいないと感じる怒り方や伝え方をする親や先生もいるのが現実です。
ただし、だからといって子どもたちに全くストレスがかからないようにするのが正解かというと、それも違います。
今木:そこは面白いですよね。
ストレスを味方にして、心理的安全な環境に自分自身で導こう
青砥:子どもに全くストレスを与えずに「いい子いい子ね」みたいにすることが本当に子どものためになるかというと、疑問に思うこともありますよね。
今木:好きなことだけをやらせましょうっていうのも、なんか違うよねっていう話だと思っています。
青砥:その通りです。実は、ストレスって人間を含む全ての生物にとって必要な仕組みなんです。
ストレスを科学的に見れば、それは成長のための要素になったり、集中力を高めたり、学習力を向上させたりする効果があります。
ただし、過剰なストレスがかかると、脳の前部分が機能をストップしてしまい、フリーズしたような状態になってしまいます。でも、適度なストレスはパフォーマンス向上には欠かせないものなんです。
今木:面白くなってきましたね!
青砥:なので大事な観点は、このストレス状態を完全にフリーにしましょうっていうことでは決してないんですよ。
2つのポイントがあります。1つ目は、ストレスをうまく活用できる子を育てることです。
今木:そうなれたら、めちゃくちゃいいですよね!
青砥:これからの時代はストレスがたくさんあります。人間は新しいことが好きではないので、ある程度のストレスをうまく受け入れて、過剰にならないようにすることが大切です。
2つ目は、心理的安全な環境を誰かに頼るのではなく、たとえ危険な状態になっても、自分で心理的安全な環境を作れるような子どもに育てることです。
今木:それは、なかなか素晴らしいですね。
青砥:親や学校が「できるだけストレスをかけないように」と思うのは良いことですが、それだけではありません。誰でもストレスは感じるものですし、ストレスは必ずしも悪いことばかりではないんです。
ストレスを力に変えて味方にしましょう。ストレスに満たされても、それを自分で乗り越える力を育てることがとても大事だと思います。
今木:なるほどね、いいですね、ありがとうございます。
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対談者プロフィール
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協力/RISU Japan株式会社、 構成/HugKum編集部