【脳神経学者に訊く子育て】脳の仕組みを活用するなら「できなかったことができるようになった時」の褒め方に注意

タブレット教材の RISU Japan 代表で『小学生30億件の学習データからわかった 算数日本一の子ども30人を生み出した究極の勉強法』著者・今木智隆さんが、「子どもの学び」について各界の識者と語り合うシリーズ記事。
応用神経科学者DAncing Einstein代表・青砥瑞人さん(上画像)と、子どもの成長を促すほめ方・声かけについて対談しました。
<上画像左・青砥瑞人さん、右:今木智隆さん>

RISU代表  今木智隆(以下、今木):本日は、応用神経科学者DAncing Einstein代表 青砥瑞人さんにお越しいただきました。

応用神経科学者DAncing Einstein代表  青砥瑞人さん(以下、青砥)こんにちは!

今木:今日はテーマとして、「子どもの脳が喜ぶ」子育てのポイントをお話できればと思います。子どもではなく「脳が喜ぶ」という視点は面白そうです。

青砥:そうなんですよ。神経科学の観点で「脳が喜ぶ」仕組みを理解すると、日常生活での子どもとの関わり方が変わってきます。まず最初に脳とストレスの関係からお話ししていきますね。

脳にもともと備わっている「危険察知機能」をうまく活用しよう

対談ホストの今木智隆さん。算数教材のRISU Japan 代表で、30億件のデータから「効果的な学習」を指南。7歳の男の子の父親でもある。 

今木:実際にストレスを感じたときにどうやって自分をケアすればいいのか、具体的な方法を教えていただきたいです。

大人の場合、瞑想やイメージトレーニングなどがありますが、子どもでも同じような方法がいいのでしょうか? 子どもにも応用できる方法があれば教えてください。

青砥:子どもに対して実践する際には、脳の危険察知機能をきちんと理解することです。

この危険察知システムは、日々かなり動いていて「なんかおかしい?」「できてないぞ?」などのエラーやダメなところなどの粗探しをすることが特徴です。

今木:もともと、その粗探し機能があるんですね。

青砥:そうです。この機能は、生命を守るために大事なんです。たとえば、ニュースで嫌な事件やゴシップが注目を集めるのも同じ理由です。脳は危険を察知しようとするからです。

今木:なるほどね。

青砥:この危機察知の機能は、子育て中の親でも同じように働きます。

たとえば、子どものできていない部分にばかり注目すると、脳は「できていない」と感じることばかりを記憶してしまいます。これが積み重なると、子どもは「自分はできない」と思い込むようになります。

今木:それは困りますね。

青砥:でも、本当に子どもに「自分はできない子どもだ、能力が足りていない子どもだ」ということを学習させたい親や先生がいるかっていうと、それは違うと思うんですよ。

ネガティブな面やエラーを見ないようにするわけではなく、同時にできているところや成功している部分もちゃんと見てあげることが大切です。

日本人は自己肯定感が低いといわれますが、できる部分、できない部分の双方を違う視点でみることが自己肯定感には重要だと思います。

例えば、私は野球ばかりやっていて、学校の成績はひどかったけれど、それでもできている部分もあったんですよね。

今木:誰だってそういうものだよね。

テストが10点!なぜできなかったのか叱るより、10点分できた理由にフォーカスを

応用神経科学者の青砥瑞人さん。米国UCLAで学んだ神経科学を心理学と結びつけ、教育やWell-beingに活かす活動を展開。

青砥:例えばテストの点数が10点だった場合、足りない90点でどこができていないのかと注目してしまいますよね。50点取ったって、足りない50点に目がいきます。80点でも、あと20点どうしようって考えてしまいます。

でも、10点でも20点でも「ここできてるね!すごい!」とポジティブに捉えてみてはどうでしょう。そして、その点数がどうして取れたのかを考えることで、学ぶポイントや成長できるポイントは多くあります。

今木:できない部分ではなく、できている10点を30点にするにはどうするかって視点ですよね。

青砥:そうなんです。でも、今の社会や文化、教育の場面では課題解決型の思考が刷り込まれている人も多いですね。

それはそれで大事にしつつ、できているところに意識を向けるだけで、子どもの向き合い方が変わります。少し視点を変えるだけで、子どもの脳からすると同じ事象でも攻撃されているように感じません

今木:なるほどね。点数が取れた部分から、攻めるんですね。

青砥:そうです。最終的には課題解決につながりますが、入り口が違うだけで脳の捉え方が変わります。

点数が低い部分にばかりフォーカスすると、子どもたちはバリアを張ってしまいますが、できている部分に注目して広げていくと、自分の可能性に気づくことができます。これが子どもたちの成長には大きな違いを生むと思います。

今木:RISU Japanでも教材を取り扱っていますが、「とにかく間違ったところを復習させたい」という親御さんは多いですね。それもそれで間違いではないものの、子どもの目線でいうと「つまらない」といった部分は正直あると思うんですよね。

青砥:本当におっしゃる通りです。できないところの復習も大事ですが、脳の観点からいうと「できてるところ」も大事です。

自分もできるんだという自己肯定感を育てることが大切です。このバランスが重要で、子ども自身はもちろん、親の働きかけ方も大事です。

できた時は「褒める」+できなかった時からの「時間軸を意識して褒める」

青砥:もう一つ重要なのは、時間軸の問題。できないところに向き合っちゃダメというのではなく、むしろ向き合わなきゃいけないんです。

できた時、できなかった時、繰り返し勉強してできるようになった時、それぞれの時間軸が違います。例えば、すぐにできた場合と、1週間前にはできなかったことができるようになった時、その瞬間のコミュニケーションがとても重要なんです。

今木:なるほど! 何かができるようになった時に、親がどう褒めるか、成果をどう伝えるかが大事ということですね。

青砥:その通りです。よくあるのは、褒めて終わってしまうケースです。

今木:それは日常的にありそうですね。

青砥:「すごいできるようになったね、偉いね!」で終わってはダメです。

今木:偉いよ!すごいよ!だけでは足りないと。

青砥:そうです。これを続けると、「できることが偉い」という認識が脳に刻まれてしまいます。できないことばかり感じる子どもよりはいいですが、成功体験をただ褒めるだけでは不十分です。

もう一つ大事な特徴としてあるのが、できている、成功している状況なのに「いや、あんたそれね、もうできて当然よ」とか「他の子はもうできているの」とか他者比較してしまい、せっかくの成功体験をむしろネガティブに落としていくっていう状況。

これはもう、脳に対してネガティブな記憶をますます増やしていく方向で逆効果になります。

今木:達成したのに評価されない感じですね。

青砥:そうです。それでは学びたくないという脳の状態に向かいやすいです。まずこの点をケアすることが大切です。

具体的にどうするかというと、成功体験をただ褒めるだけでなく、時間の流れを意識してほしいんです。できなかった時とできるようになった時、その間の時間を振り返ることが重要です。

脳にとって大切なのは、できた時にできなかった時を思い出させることです。時間の流れを意識して成功体験と失敗の記憶を関連付けると、脳に深く学習されます

今木:それはとても大事ですね。

「あの時はできなかったのに、できた!」を意識したメタ認知

青砥:人間の脳には、「同時に働いた神経細胞同士はつながりが強くなる」というヘッブの法則*1があります。これは心理学で言うと、パブロフの条件反射に似ています。

*1  ヘッブの法則:一緒に働くニューロン同士はつながりが強くなり、これが学習や記憶の基礎になります。たとえば、繰り返し勉強することで、脳のつながりが強くなり、記憶が定着します。

今木:なるほど、パブロフの条件反射ね。

青砥:例えば、犬にお肉を見せるとよだれを垂らしながら喜ぶように、同時にベルを鳴らすと、ベルの音だけでもよだれを垂らすようになります。

今木:おーー、言いたいことがわかってきた。なるほど。

青砥:つまり、ただ「できなかった」「できるようになった」と伝えるだけでは、脳はその2つの出来事を結びつけられません。

今木:なるほどね、同時に結びつくように認識させようと。

青砥:そうです。「あの時できなかったのに、今はできた!」と認識させることが大切です。これをメタ認知*2といいます。

*2  メタ認知とは:自分の思考や学習過程を客観的に把握し、過去の経験を活かして現在の行動や学習をコントロールする能力のことです。

今木:プロセスを伝えることで脳に結びつけるんですね。

青砥:そうです。できなかったことができるようになったという記憶を脳に刻み込むことで、「できないこともできるようになる」というモチベーションに変わります

今木:なるほどね、それは影響が大きそうですね。

青砥:子どもの脳に「できないこともできるようになる」と記憶させることが大切です。例えば、「あの時はできなかったけど、今はできるようになったね」と声をかけるといいです。

今木:今の成果をきちんと伝えるということですね。

青砥:そうです。この時間軸を意識することが重要です。親が意識してやるべき重要なポイントです。

今木:放っておいてどうなるものでもないから、この意識は親の役割ですね。

青砥:特にアスリートにとっては、良いコーチの場合「できなかったことからできるようになった」という振り返りの時間があります。例えば、金メダルを取った後でも「あの時の辛い経験があったから今があるよね」というように。

今木:だから乗り越えられたよね、みたいな振り返りですよね。それでまた脳に記憶されていくイメージですね。

メタ認知と成長記録を同時に!スマホで子どもの成長を見守ろう

青砥:学習において、脳の視点で考えると、成功体験だけを求めるのは良くないんです。失敗や出来なかったことも、自分を成長させる学びになります。成長の可能性は、成功だけでなく、失敗からも高まります。

成功だけを目指すと、結果ばかりに意識が向き、うまくいかないとトライすることをやめてしまいます。でも、「自分は変わることができる」というプロセスに注目すると、ストレスがかかった時やうまくいかない時にも、前向きに転換しやすくなります。

今木:なるほどね、脳に対して失敗した時に「まだ途中なんだ」と働きかけるイメージですね。なるほど、これを実践している人は、少ないかもしれないですね。

青砥:そうですね、その意識が大切です。僕の娘は5歳で、鉄棒やパズルをやるんですが、スマホで録画したりしています。

今木:1年前とか3ヶ月前、これやってたよねって、スマホのおかげで見せやすくなりましたね。

青砥:そうなんです。できないことに挑戦する子どもをスマホで撮影するんです。できない場面を撮るので、子どもは嫌がりますが、「絶対できるよ」と励ましながら撮影します。

子どもは成長が早いので、すぐできるようになります。できることが増えるごとに、「あれもできるようになったね」と実感が強くなります。

今木:日常生活から成長のプロセスを学びながら、成長記録にもなる、一石二鳥ですね。

青砥:そうですね。成長が早い子どもの特性を見ながら、親子で楽しんで脳を育めると良いですね。

ぜひ時間軸を意識して、「この前はできなかったのに、今はできるね!」というコミュニケーションを楽しんでください。

▼脳の仕組み活用した子育てについては、こちらもぜひご覧ください。

ストレスで脳がフリーズする? 脳神経学者・青砥瑞人さんが説く「ストレスを味方にする」子どもの成長サポート術
RISU代表  今木智隆(以下、今木):本日は、応用神経科学者DAncing Einstein代表・青砥瑞人さんにお越しいただきました。 ...

今木智隆さんの連載記事はこちら≪

対談者プロフィール

青砥 瑞人 DAncing Einstein代表
応用神経科学者。脳の魅力に引かれ、米国UCLAで神経科学を学ぶ。神経科学を心理学や教育学と結びつけ、人の成長やWell-beingのヒントを提供する活動を展開中。未就学児童から大手企業役員まで、幅広い対象に対して、空間デザイン・アート・健康・スポーツ・文化づくりなど、多岐にわたる分野で活躍中。
今木智隆 | RISU Japan株式会社 代表取締役
京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザ行動調査・デジタルマーケティング領域専門特化型コンサルティングファームのビービット入社。金融・消費財・小売り流通領域クライアントなどにコンサルティングサービスを提供し、2012年から同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japanを設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、のべ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。日本国内はもちろん、シリコンバレーでもハイレベル層から、算数やAIの基礎知識を学びたいと、アフタースクールなどからのオファーが殺到している。

〈タブレット教材「RISU算数」とは〉

「RISU算数」はひとりひとりの学習データを分析し、最適な問題を出題するタブレット教材。タイミングの良い復習や、つまずいた際には動画での解説の配信を行うことにより、苦手を克服し得意を伸ばします。

期間限定のお試しキャンペーンはこちら≪

小学生30億件の学習データからわかった 算数日本一の子ども30人を生み出した究極の勉強法

文響社より2023年7月6日刊行

協力/RISU Japan株式会社、 構成/HugKum編集部 

編集部おすすめ

関連記事