海面上昇による被害が深刻化する一方、各国の対策への想いは異なる
今年7月、南太平洋の島国ツバルの首相が、東京を訪問して講演した際、「我々の国は1メートルの海面上昇で潮位によっては国が水浸しになってしまう。気候変動による海面上昇が太平洋の島国にとって生きるための最大の脅威であり、温暖化の原因である二酸化炭素はツバルの国外で排出されている」と主張しました。ツバルの首相はその直前に岸田総理と会談し、気候変動対策で協力を強く求めたとされます。ツバルは海面上昇によって最初に沈む国とも言われ、海抜が平均1.5メートルから2メートル、最も高い場所でも4.5メートルしかありません。
しかし、気候変動対策を含むSDGsをめぐっては、先進国と途上国の間で隔たりがあります。地球温暖化に関して言えば、先進国側は、途上国も同じように積極的に対策をしてほしいという本音があります。しかし、これから経済発展が期待されるグローバルサウスの途上国側からすると、温暖化の原因はこれまで経済発展にしか重きを置いてこなかった先進国にあり、まずは先進国が主体的になって取り組むべきだとの不満を持っています。
二酸化炭素の主要排出国である米中。対策の優先度は低い状況
確かに、今日でも二酸化炭素の主要排出国は中国と米国であり、これらの国々が率先して対策を強化し、途上国を支援するといったシナリオが最も望ましいでしょう。しかし、米中両国の中で気候変動対策は決して優先順位が高いトピックになっていないのが現状です。今日、米中は台湾をめぐる対立や、先端半導体・電気自動車への関税などさまざまな問題で争っており、協力よりも対立・競争が大きく先行。SDGsが米中間の協議で優先的に議論されることはないに等しい状況です。
もっと言えば、米中はいかに多くの途上国を味方に付けるかという部分でも争っています。たとえばツバルのように海面上昇の脅威に直面している途上国があるとき、中国が最新の技術で支援すると米国が知れば、米国も同じ対策をして接近するなど、要はSDGs分野も米中の駆け引きに利用されるような状況にあります。
大国同士が争い、国益第一主義に走るような状況に、途上国の多くは強い不満を持っています。アフリカの国家指導者たちからは、「新たな冷戦の駆け引きに、アフリカが巻き込まれるべきではない」、「大国がアフリカを地政学的な戦場にしようと脅かしている」などの不満が聞かれます。また、東南アジアの指導者たちからも、「地政学的な緊張の高まりに途上国は幻滅している」、「大国には責任が伴う、人類の利益のために互い(米中を念頭に)が協力するべきだ」、「東南アジアを新冷戦の駒にするべきではない」といった声が高まっています。
結局は自国の国益が優先に
大国はそういった不満を耳にしても、結局は自分たちの国益のもとに行動しており、双方が歩み寄りの方向へ動き出す気配はありません。
SDGsを1つにとっても先進国・大国と途上国との間には大きな隔たりがあります。目標達成の重要性は世界中に広がっていますが、ここにも国際政治の難しさがあるのです。
この記事のポイント
① 海水面の上昇により、深刻な危機に直面している国がある
② 先進国は途上国も含めた対策を望み、途上国は先進国が率先して対策を行うことを望むなど、各国の思惑に隔たりがある
③ 二酸化炭素の主要排出国である米中は、自国の国益を優先している
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。