「子育ては迷惑をかけたっていい!」「育児を窮屈と感じる親が増えているのは…」 保育歴50年の柴田愛子さんが今一番伝えたいこと

新刊『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』が刊行された、自主幼稚園「りんごの木」の柴田愛子さん。半世紀にわたってお母さんたちの子育てのお悩みに向き合ってきました。
この頃気になるのは、「子育てが窮屈で苦しい」という声の多さです。時代と共に子育て環境が変化したことが大きな要因と言う愛子さん。子育て中の親たちに、今一番伝えたいことを語っていただきました。

子育てが楽しいと思えない親が増えているのはなぜ?

50年以上保育をしてきて、たくさんの親御さんとの出会いがありました。この頃思うのは、子育てが楽しいと思えない親が増えているということ。言い換えれば、子育てが辛い、苦しいという声がどんどん増えていることを実感しています。

保育料の無償化や、子育て支援施設の充実、と行政は「子育て支援」に手厚くなっている流れなのに、それに反比例しているかのように、子育て中の親たちの悩みが深くなっているのはなぜなのでしょう?

騒音トラブルが、顔を合わせたことで「いい関係」に

子育て相談の番組に出た時に、二人の男の子を育てるお母さんから、「マンションに住んでいるのですが、下の階に住んでいる方から「うるさい」という苦情が何度も来て、毎日ヒヤヒヤとしながら身を縮めて生活しています」というお悩みが寄せられました。

苦情は管理組合を経由してきて、ご本人には会っていないとのこと。私が「それはまず、一度、お子さんを連れて会いに行ったら」と勧めました。そうしたら、そのお母さんはビックリして「子どもが騒がないようにということばかりを考えていて、その発想はなかった」って言ったのです。

後日、番組宛に報告がありました。「ご迷惑をおかけしてすみません」と親子で訪ねたそうです。

苦情の主は高齢のおじいさんでした。子どもたちを見て「お前たちか騒いでいるのは」と言ったものの怒鳴るでもなく穏やかな対応で、それ以来、会えば子どもたちは挨拶するようになったそうです。おじいさんからも「おう、元気か。あまり騒ぐんじゃないぞ」なんて声がかかり、子どもたちも「あのおじいさんに怒られちゃうから」と気をつけるようになって「いい関係」になれたのですって。お互いに顔が見えたことで、心の垣根がなくなって歩み寄りができたのです。

「子どもって迷惑をかけるもの」「子どもだから仕方がない」という認識を普通に持ってほしい

だいたい、子育ては迷惑をかけるものですよ。子どもは騒ぐし、うるさいのが当たり前ですもの。私が今、世の親たちに一番言いたいことは「子育ては迷惑をかけたっていい」ということ。だからといって居直ってはいけませんけどね。謙虚にご迷惑をかけましょう。

人間は生きやすくなるために群れを作ってきたと思うのね。「群れる」ことで、頼ったり頼られたりという関係性ができて心地よく生きていけるから、「迷惑をかけるのはお互い様」が了解し合える間柄になるのです。

それが、時代と共に住まい方・働き方が変わって、どんどん「個」を守る方向に傾いてきました。今、さまざまな世代が地域で一堂に集うことがどんどんなくなってきていませんか。

昔は当たり前に町内会で掃除をしたり、行事があったりでみんなが顔を合わせる機会があったけど、集合住宅住まいの「個別」の暮らしが増えたことで、地域でのつながりは希薄になりました。そこにコロナがやってきて、ますます窮屈になった。「個」を守る暮らしは、煩わしさはないけれど、困ったときに誰かに頼る、という発想や行動ができなくなった。迷惑をかけ合える関係をどれだけ作っていけるかが、生きやすさにつながっていくのにね。

家の近所に新しい保育園ができたのですが、周囲に子どもたちの声が聞こえないようにという配慮で、ものすごく塀が高いの。こういう「子どもの声は騒音」と認めるような社会の動きも、親たちに孤独な子育てを強いてしまっているのだと思います。私は「子どもって迷惑をかけるもの」「子どもだから仕方がない」という認識を普通に持てる社会を復活させないと日本の未来はない、くらいに考えるようになりました。

地域の世代間交流を復活しませんか

先日、昔勤めていた幼稚園の父兄の方から呼ばれて、その地域の集まりで、窮屈な思いで息苦しい子育てをしている親たちの現状を話す機会をいただきました。

参加してくれたのは、すでに子育てを終えた60代以上の方が多かったのですが、ほとんどの方が「えっ、そんなことになってるの? 知らなかった」と驚きの反応で「自分たちに何かできることはないのか」という声が多数あがったのです。

そこで私が言ったのは、「ご近所で子ども連れの親を見かけたら声をかけてください」ということ。「こんにちは」の挨拶からでいい、「お子さんいくつになったの?」とかね。最初は絶対にお母さんたちからヘンな顔をされると思うけど、懲りずにやってください、と伝えました。

何度も続くうちに顔見知りになって、それが地域のつながりができていく「素」になる。だから、お母さんたちも、そんな地域のおばさん・おじさんたちから声をかけられたら、怖がらないでほしいです(笑)。

困った時、大変な時にSOSをちゃんと出せる社会にならなくちゃ

私は人間関係はかき混ぜるほどに美味しくなる納豆みたいなものだと思ってます。一粒一粒だと味がないけど、混ざり合うことでいい味が出てくる。

子育て支援施設に行っても出会うのは同世代のお母さんたちだけですよね。職員の人たちはいるけど、お節介なおばちゃん・おじちゃんたちとは出会わない。世代別に仕切りが作られてしまっている暮らしの中での子育ては、孤独感が募ります

地域で知る人もなく、家で幼い子どもとだけ向き合って、頼りになるのはスマホだけ。そういうお母さんたちの悩みをいっぱい聞いてきました。

まず、地域で世代間のつながりを復活させることで、人間の本来の生活である「群れて暮らす」を取り戻す。それが生きやすい子育て社会への第一歩になるはずです。困った時、大変な時にSOSをちゃんと出せる社会にしなくちゃね。迷惑をかけない子育てが、正しい子育てではないことを、声を大にして言い続けたいですね。

愛子先生のお母さん向けの新刊『保育歴50年! 愛子さんの子育てお悩み相談室』が発売中!

「子どもの心に添うことで、親の悩みも見えてきました。あなたが子育てに悩むのは、良い親であろうとして頑張っているからです」という愛子先生。子どもの性格のお悩み、園のお悩み、母親自身のお悩み…42人のママのリアルな子育てのお悩みに、愛子先生が答えます。

(小学館) 柴田愛子/著

こちらの記事もおすすめ

重度の知的障害と自閉症をもつそらくん19歳・たからくん16歳の兄弟を育てて。障害があってもなくても、一緒に育つことで、子どもが変わるということ。柴田愛子さん×浅川素子さん【インクルーシブ子育て対談・前編】
浅川さんの二人の息子さん(現在、そらくん=19歳・たからくん=16歳)は、二人とも重度の知的障害と自閉症を併せ持って生まれてきました。そんな...

記事監修

柴田愛子|保育者・自主幼稚園りんごの木代表

保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて半世紀。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。親向けの最新刊に『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』(小学館)がある。

取材・構成/Hugkum編集部 写真/繁延あづさ

編集部おすすめ

関連記事