「トー横」や「ドン横」でパパ活する子の家庭に共通する特徴とは。レールを敷く「教育虐待」にも要注意

「トー横」をはじめ「ドン横」「グリ下」「ビブ横」「P横」などと呼ばれる、商業施設周辺にたむろする子どもたち。「わが子は関係ない」と思っていませんか?
産婦人科医にして富山県議会議員、内閣府女性に対する暴力に関する専門調査会委員などを兼務する種部恭子さんに、商業施設にたむろし「パパ活」などを繰り返す少女たちの家庭に共通する特徴を教えてもらいました。

直接的・間接的な虐待が共通の要因

冒頭でも書いたとおり「トー横(新宿)」「ドン横(名古屋)」「グリ下(大阪)」「ビブ横(横浜)」「P横(渋谷)」など、深夜まで営業している商業施設近くにたむろする若者のニュースが、数年前から報じられるようになりました。

取り上げられる場所は決まって大都会。その意味で、都会だけの特異な話のような印象も受けますが、地方都市でも普通に起きている現象だと種部さんは言います。

女性クリニックWe! TOYAMA代表の産婦人科医にして、富山県議会議員、内閣府 女性に対する暴力に関する専門調査会委員、日本産婦人科医会常務理事などを務める種部恭子さん

もちろん、たむろしている子どもにもさまざまな動機があります。メディア効果によって「○○横」の存在が知れ渡ると、面白そうだから集まる子どもも当然います。

ただ、居場所がなくて、あるいは家にいられなくて、何かに押し出されるように(プッシュ要因があって)その手の場所に集まってくる子どもも現実に存在します。

種部恭子さんのクリニックにも、家庭に居場所がなくて「○○横」に顔を出すようになり、泊まる場所がない・お金がないからと生きるために「パパ活」を始め、妊娠トラブルで来院する女児や女子がいるのだとか。

「そうした子どもたちの家庭には虐待がある場合も珍しくありません。分かりやすいケースで言えば、父による性虐待のある家庭から飛び出し、生きるために『パパ活』をする女子がいました。

他には、シングルマザーの母親の彼氏が、母親ではなく自分のベッドに入りこむようになり、その男のにおいが消えるまで家を出て、話を聞いてくれる「泊め男」のところを転々とする女子がいました。

直接的に子どもが虐待を受けていなくても、父親が母親に暴力をふるう、暴言を吐き続けるなどを見聞きする、つまり心理的虐待のある家庭に育った子どもが、居場所が家庭になくて『○○横』のような場所にたむろし始めるケースもあります。

男の子の場合は、ある程度の年齢になると、腕力がついてきて虐待に対して親に反抗できることもあります。しかし、女の子の場合は、腕力で解決できないことが多く、虐待が長年持ち越されてしまうケースが目立ちます。その結果、自分を守るために『イベントに行ってきます』などと行って『○○横』のような場所に逃げ出すのです」(種部さん)

もちろん、「○○」横のような場所に出向いたからといって「パパ活」に直結するわけではないと種部さんは言います。むしろ「パパ活」に抵抗感を持っている女子も当然いるのだとか。

しかし、生きるため、週末に泊まる場所探しのために仕方なく「パパ活」を始めると、何も頑張らないでも「褒めて」もらえる居心地の良さを女子が感じ始めるケースも多々あるそう。

JK(女子高生)どころか、JC(女子中学生)JS(女子小学生)と低年齢化するほど「希少価値」が高まる(「パパ」が簡単に見つかる)現状も手伝って、子どもたちを取り巻く状況が複雑化しています。

県議会議員としても活躍する種部さんは、民間のシェルターなどセーフティーネットづくりにも尽力している

教育虐待、スポ根パパのような親の過干渉にも注意

こうした話を聞くと「うちの子どもは関係ない」「わが家は大丈夫」と思う人も少なくないはずです。しかし、種部さんの語る「虐待」はもっと広い意味を含んでいるのだとか。

「性的暴力・家庭内暴力など、分かりやすい虐待だけではなく、教育虐待のような親の過干渉にも注意しなければいけません。

母親に多いケースで言えば、自身の人生の代理戦争のように子どもにお受験を強いるだとか、父親に多いケースで言えば、サッカーや野球で結果を残させようとスパルタの訓練を強いるだとか。

家業があって無理に継がせようとする。医者の親が、子どもを無理にでも医者にしようとする行為も一緒です。

どうして、子どもの人生にレールを敷くような行為が問題なのか。それは、どのケースにも共通して、実績を積み上げていかないと褒めてもらえない状況に子どもが陥りがちだからです。逆の見方をすれば親も、何かしらの実績がないと、子どもを無条件で愛せない状態になってしまいがちです。

もちろん子どもは、親に気に入られようと必死に頑張ります。しかし、小さいころから90点でもダメ!というような育てられ方をすると、子どもにとって家は「頑張らなければ褒めてもらえない場所」になってしまいます。当然、居心地は悪くなっていきます。

実際に、こんな子もいました。教育虐待を受け『ドン横』にたむろし『パパ活』を始めて妊娠した14歳の女の子です。

最初は『生まない』と言っていたのですが、突如として『生む』と心変わりしました。その理由を聞くと『私にとっては初めての家族だから』と言いました。

その子にとって親は、同じ家でずっと暮らしていたけれど、家族とは感じられなかったのです」(種部さん)

医者である種部さんも、お子さんがいらっしゃるとか。聞けば、子育ての際には「医者になれ」とは一切言わなかったそう。「医者になれ」どころか「勉強しろ」とすら言わなかったそうです。

種部さんが代表を務めるWe! TOYAMA

「医者にはならない」と子どもが言ったとき、「親の考えや『お医者さん目指すんでしょ』とあてはめられがちなレールではなく、自分の考えで決めてくれて良かった」と心の底から喜んだと教えてくれました。

分かりやすい虐待ではなくても、レールを敷くような行為はやってしまいがち。しかし、親の価値観を押しつける子育ては、場合によっては虐待になり、子どもにとっての家庭の居心地を悪くしてしまう恐れもあると学びました。

フランスでは現に、親の言いつけを守るかどうかで「いい子・悪い子」を決めるような行為も虐待に含まれると種部さんは言います。

自己主張できる・Noと言える状態を子育てのゴールと考え、親の意見にもNoと主張できる(自分の価値観や物差しをもつ)。そんな子どもを育てようと努めている国もあると思えば、レールを敷くだけが子育てではないと考えるきっかけになるのではないでしょうか。

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お話を伺ったのは

種部恭子 | 産婦人科医・富山県議会議員
女性クリニックWe! TOYAMA代表・富山県議会議員。その他、内閣府男女共同参画会議  女性に対する暴力に関する専門調査会委員、日本産婦人科医会常務理事、富山県医師会常任理事などを務める。
取材・撮影・文/坂本正敬

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