理科(生物)の問題として考える
娘を育てる父親にとって、異性のわが子の成長に戸惑いを感じる瞬間もあるのではないでしょうか。
特に、わが子が小学校の高学年になり、初めての生理(初経)を迎えようとする時期に、ぎこちない疎外感を覚える男性も少なくないはずです。
現に、生理や生理に伴う心身の不調について父親と話した経験のある女子は2割にとどまるとの調査結果もあります。娘の生理の問題については、蚊帳の外に置かれている(自らを置いている)父親も多いと考えられます。
しかし、この大事な成長と変化の問題を母親任せ・人任せにしてしまうと、家族が今後迎えるさまざまなターニングポイント(例えば、娘の恋愛や出産、妻の更年期など)でも、知識がなく寄り添えない無力な存在に父親がなってしまう可能性が高いと種部さんは語ります。
では、この生理の問題に対して父親は一体、どうすればいいのでしょうか。
「大前提として、娘さんの月経の問題を特別視せず、理科(生物)の問題として考えてみてはどうでしょうか。
キリンの首がなぜ長いのかを図鑑を見て説明する時と全く同じテンションで、月経がなぜ起こるのかを説明してあげるのです。
例えば、人体に関する図鑑がありますよね。あの手の本を家に置いておいて、家族の中で生理が話題になったり、子どもから質問があったりした時には、純粋な生物の話として、理科の話として説明してあげてください。
母親の場合は、自分にも起きる出来事なので主観が入る場合もありますが、男性のほうがある意味、客観的になれるので、多様な視点が入ってかえって好都合です。お父さんからぜひ説明してあげてください」(種部さん)
思春期はコミュニケーションの取り方が難しくなってくる時期ではありますが、こういった話題こそ、デリケートな問題だからと言って逃げずに、理科の話題として淡々と説明するのがいいでしょう。
ふかふかの「お布団」が子宮にある
ただ、説明するためには学びが必要です。子どもでも分かるように伝えるためには男性自身が月経を理解する必要があります。
ゆくゆくは自分流にアレンジするとしても、差し当たり頭に入れておきたい上手な解説方法はあるのでしょうか。
種部さんは、勤務のかたわら、富山県内の小中高を年間60校近く訪れ、性教育の出前授業を行い、表彰された経歴もお持ちです。種部さんは普段、小学生に対してどのように生理を説明しているのでしょう。
「小学生の子どもたちに説明する時には『お布団(子宮内膜)』の例を出します。
赤ちゃんが育つ子宮の話をしてから、その子宮には、赤ちゃんの卵(受精卵)を迎え入れるために、ふかふかの『お布団(粘液と血液をたっぷりと蓄えた子宮内膜)』が敷いてあると伝えます。
その『お布団』の上に卵(受精卵)が来ると育って赤ちゃんになるといった話です。
ただ、お布団のシーツを時々交換するように、子宮の『お布団』も、ふかふかの状態を保つために交換してあげる必要がある。
古い『お布団』は、お尻の穴でもない、おしっこの穴でもない、男の人にはない、赤ちゃんが生まれてくる穴(腟口)から出してあげる。
その時、子宮からはがれた『お布団』は血液(月経血)に乗せて出てくる。この血(月経血)は、命のもとをつくる『お布団』を外に出すための血だから全然汚くない。
でも、いきなり自分の体から血が出てきたら、本人も周りもびっくりする。男の子だってきっと、びっくりして困ると思う。
だから、突然血が出てきたらどうしたらいいのか、本人と周りの人で話し合いが必要だし、ナプキンの使い方、ナプキンがなかった時の対処法を勉強しておく必要がある。
男性の皆さんも、そんな風に話してみてはいかがでしょうか」(種部さん)
その際、言葉だけで説明するよりも、図鑑などのビジュアルがあった方が子どもも当然、理解がしやすくなります。家の本棚にはぜひ、人体の図鑑、および関連図書も用意しておきたいところです。
小学校2~3年生ころが説明のチャンス
では、わが子に生理を説明するための準備(学びと備え)はいつごろから始めればいいのでしょうか。結論から言えば、早いほうがいいと種部さんは教えてくれました。
「月経の問題を、恥ずかしがらずに質問してくれる時期は、女子が小学校2~3年生くらいまでです。
初経が発来する人の割合は小5が29.5%、小6が57%となっています(東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究会「児童の性」より)。
でも、このくらいの年代になると口をつぐむ子のほうが多いです。その意味で、小学校2~3年生のころがチャンスです。
子どもが何度も聞いてくるとは限りません。聞くタイミングは1回だけかもしれません。最初にして最後のチャンスを逃さないためも準備は早く始めたほうがいいです。
仮に、複数の娘さんがいて、上の子の時にはチャンスを逃してしまった場合でも下の子の時に説明を頑張ってください。下の子に向かって話すふりをして上の子にも伝えるのです。
月経の問題を下の子に話す父親の姿を上の子はどこかで見ています。その姿を見て『親に話してもいいんだ』と上の子が感じてくれる可能性があります。
困った時に援助を求める姿勢と判断力を持たせる、その状態を子育てのゴールと考えるのであれば、家庭内での月経の扱い方はとても重要です。
月経の問題すら親に言えない家庭環境で、性的暴力、望まない妊娠など、より大きな問題に直面した時、どうして子どもは親に相談できるでしょうか」(種部さん)
生理の問題で気まずさを感じ逃げるような父親に娘は、成長と共に何も語らなくなるということですね。
ただ、最初にして最後かもしれない絶好の質問が大勢の人前など、思いがけない瞬間に飛んでくる場合も考えられます。その場合は、どうすればいいのでしょう。
「『すごく大事な質問だから後で教えてあげる』と伝えてあげてください。
プライベートゾーンと言って、勝手に触ってはいけない・触らせてはいけない体の部分が話が出てくるから、周りの人は聞きたくないかもしれない。
そういうプライベートゾーンの話を、大人は人前でしゃべらないので家に帰ってから教えてあげると伝えてあげてください。そうすれば、プライベートゾーンの概念も伝えられます。
ただ、話が戻りますが、その時、顔色を変えて困惑したり恥ずかしがったりせず堂々と伝えてあげてください。堂々とするためにも、いろいろな本などで学び準備を始めてください。
また、説明のタイミグを逃してしまった娘さんのいるご家庭では、お父さんご自身が学びに使った本をトイレに置いておくと子どもが一人で読む可能性が高いです。
その手の本が、トイレに置いてあるだけでも、わが家ではタブーではないんだというメッセージを娘さんに伝えられます。ぜひ試してみてください」(種部さん)
以上が、種部さんに伺った「娘の生理に向き合う父親の心構え」でした。一度きりしかないかもしれない機会に向けて準備せよという話でしたが、いかがでしたでしょうか。
わが子がもっと大きくなって何かの問題に直面した時、助けを求めてもらえるか否かの鍵を父親が握っていると考えて、ぜひ備えを開始しましょう。
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お話を伺ったのは
参考: 父と娘の生理に関する意識調査 – 株式会社エムティーアイ