「国際法」って誰が守る法律? 原爆投下もウクライナ侵攻も国際法違反?【親子で学ぶ現代社会】

国際ニュースを見ていると、たまに「国際法」という言葉に出会うはずです。法学を学んだ経験がなければ、この言葉を聞いて内容をイメージするのは難しいかもしれません。国際ニュースに興味がある人に知ってほしい「国際法」の基礎知識を解説します。

国際法とは

国と国との関係を規定するルール

国際法とは、簡単に説明すると「国家間に適用されるルール」のことです。

このように説明すると、「国連が決めているルールなのでは?」と早合点する人もいるかもしれませんが、そうではありません。国家間の同意をもって成立したり、国際社会に参加する国々の共通認識が法となったりして形作られていきます。

国際法の大きな特徴は、ある国の国内で効力を発揮する法律(国内法)のように「順守を強制する力」がないことです。警察や検察に当たる組織がないため、法の順守は国家の良心に委ねられています。

国際法が規定する内容は、「平和」や「軍縮」など国際的なルールが法律として成立し始めた当初から規定されているものから、「人権」「環境」「経済開発」「宇宙」など、世界のあり方の変化に合わせて新しく規定され始めたものまで、多岐にわたります。

「国際法」という明文化された法典があるわけではない

条約と国際慣習法で構成される

国際法を構成するのは「条約」と「国際慣習法」です。

条約とは国家間で交わされる「文書になった約束」のことです。条約を結んだ国にのみルールとして適用されます。

国際慣習法とは、昔から育まれてきた慣習が「明文化されていない法律」になったもののことです。大多数の国が「守るべきだ」と認識した事柄が、国際慣習法としてルール化されます。結んだ国にのみ適用される条約とは異なり、国際社会に参加する全ての国に適用されるルールです。

国際慣習法でルール化されている分野には、「公海自由の原則」「領土の不可侵」「亡命者の保護」などがあります。

違反しても直接的な罰則はない

国際法には、国内法における罰金や科料のように「違反すると与えられる罰則」が設けられていません。国家間で結ばれる重要な法律であるにもかかわらず、破っても直接的なペナルティを与えられることはないのです。

罰則がなくても多くの国々が国際法を守っている背景には、いくつかの理由が考えられます。

一つ目の理由として、国際法は国同士が結ぶ約束であるため、そもそも守れないルールを作ることがない点が挙げられます。厳守することが自国の利益につながるため、多くの国はルールをしっかりと守っているのです。

二つ目の理由として、国際法に参加する国々は、他の参加国からの監視を受ける点が挙げられます。違反すれば、国際社会からの孤立や他国からの批判は避けられません。

国家間の対立を解決する国際司法裁判所

国際司法裁判所とは、国際法に関わる国家間のもめ事を解決に導く機関です。1945年に調印された「国際連合憲章(国連憲章)」によって設立されました。

オランダのハーグに本部をおく国際司法裁判所

国際司法裁判所は国家間の争いを解決する役目を担っていますが、もめている当事国の同意を得ずに裁判を開くことができないため、その解決力は限定的といわざるを得ません。当事国のどちらかが提訴の提案を拒否すれば、国際司法裁判所の力を借りることすらできないのです。

また、国際司法裁判所が下した判決の法的拘束力は当事国にのみ存在し、国内法のように強制執行することはできません。国際司法裁判所に頼ったとしても、もめ事を解決できるかは不透明といえるでしょう。

出典:国際司法裁判所(ICJ)-よくある質問- | 国連広報センター

国際法の歴史

国際法に関する理解を深めるには、誕生から現在に至るまでの「国際法の歴史」を知っておくのが有益です。歴史を知ることで「世界のルールを見る目」が変わるかもしれません。国際法の歴史を解説します。

国際法の成立

国際法の考え方が生まれたのは1625年のことです。「国際法の父」と呼ばれるオランダの法学者フーゴー・グロティウスが、著書「戦争と平和の法」の中で言及したのが始まりとされています。

フーゴー・グロティウス(1583 – 1645年) ミヒール・ファン・ミーレフェルトによる肖像画 Wikimedia Commons(PD)

世界で最初の国際的なルールとして誕生し、後に「国際法の起源」と呼ばれるようになったのが、ドイツを中心に起こっていた三十年戦争を終わらせるために締結された「ウェストファリア条約」です。

ウェストファリア条約は、ローマ帝国から独立した小さな国々に対して、国家としてのさまざまな権利を認めました。

ウェストファリア条約締結の図(画:ヘラルト・テル・ボルフ)Wikimedia Commons(PD)

「当事国間のルール」から「世界のルール」へ

「条約を結んだ当事国同士の取り決め」に過ぎなかった国際法が、第1次世界大戦と第2次世界大戦を経て、「国際社会に参加する国々全てに課せられる国際ルール」という役割を獲得したとされています。

ウッドロウ・ウィルソン(第28代アメリカ大統領)が提言した「14カ条の平和原則」に基づいて1920年に発足したのが、世界初の国際平和維持機関「国際連盟」です。アメリカの不参加をはじめ、問題点をいくつもはらんでいた国際連盟は、第2次世界大戦の勃発を止められず形骸化します。

その後、第2次世界大戦の終戦とともに1945年に発足したのが「国際連合」です。国際連合の基本文書として発効されたのが、国際法の一つである「国連憲章」です。国連憲章では「戦争の違法化」が明文化されました。

現代においては多彩な問題に取り組む役割が生まれる

現代になって、国際法がカバーする分野が多様化を見せています。「平和」や「軍縮」などの分野だけでなく、「人権」や「環境」など、時代の変化とともに「世界全体が抱えるようになった課題」に取り組む役割が生まれているのです。

新たな分野をカバーする国際法が生まれることで、国連が旗振り役をせずとも、世界が抱える共通課題に国を超えて取り組める体制が整うようになっています。

現代の社会問題を象徴する国際法には、以下のようなものがあります。

・国際環境法:環境保全を規定した国際法の総称。「京都議定書」や「パリ協定」などが代表的
・国際人権法:人権を守るために作られた人権条約の総称。「国際人権規約」や「拷問等禁止条約」などが含まれる

グローバリゼーションの広がりにより世界が小さくなったことで、国家を超えた協力関係が生まれるようになったといえるでしょう。

国際法の具体例

国際法の基本と歴史を理解した後は、国際法の具体例を見ていきます。具体的にどのような法律や条約が国際法として扱われているかを知ることで、国際法への理解がぐっと深まるでしょう。国際法の具体例を三つ紹介します。

国連憲章

国連憲章とは国連の基本文書で、国際連合のあり方や国際的な平和に向けてのルールを定めた国際法です。1945年6月26日に開かれた「サンフランシスコ会議」にて採択され、同年の10月24日に発効されました。

国連憲章は「国際関係の主要原則」を明文化しています。国連憲章で規定するのは以下のような内容です。

・国際関係において守るべきルール
・国際連合加盟国の権利と義務
・目標を達成するための行動指針
・国連に設置されている主要機関

国連憲章はその立ち位置から「国際社会の憲法」といわれています。

出典:国連憲章テキスト | 国連広報センター

国連海洋法条約

国連海洋法条約は、正式名を「海洋法に関する国際連合条約」とする国際法です。国連海洋法条約では下記のような内容を規定しています。

・「領海」や「排他的経済水域」の定義
・沿岸国の権利と義務
・船舶の運航に関するルール
・海洋に関する科学調査において国際協力を進めること

国連海洋法条約が締結されるまでは、各国で領海の認識に隔たりがあり、たびたび紛争が起こっていました。海洋に関する国際基準を求める声を受けて作られたのが国連海洋法条約です。

国際人道法

国際人道法とは、武力紛争が行われた際に適用されるルール、特に「紛争時にやってはいけないこと」をまとめた国際法の分野名です。紛争当事国に「人道(人が人間として守るべき道)を基本原則とした行動」を求めています。

どの条約をもって「国際人道法」とするかは、はっきりと決められていません。国際人道法を論じる専門家によっても認識に違いがあります。

一つの考え方として知られているのが、「国際人道法は二つ条約から成り立っている」とする捉え方です。国際人道法を形作るとされる二つの条約は以下の通りです。

・ハーグ法:使ってはいけない武器を明文化し、戦闘の方法や手段を制限する条約
・ジュネーブ法:一般市民や捕虜など、紛争に巻き込まれた人々の保護を定めた条約

この二つの条約をもって国際人道法とする考え方が、一般的な「国際人道法の捉え方」となっています。

国際法との関わりが深い事例

国際法は世界が直面するさまざまな課題と深く関わっています。国際法と関連が深い課題を知ることは、国際法の役割を知ることにもつながるでしょう。国際法が大きく関連する世界の事例を紹介します。

広島と長崎への原爆投下

国際法では、戦闘員ではない人や軍事施設ではない場所への攻撃を禁止するとともに、不必要な苦しみを与える兵器の使用を禁止しています。このルールに抵触したと考えられているのが、広島・長崎への原爆投下です。

1955年、広島と長崎の原爆被害者が国を提訴しました。日本政府に賠償を求めると同時に、アメリカによる国際法違反を認めることを要求したのです。

1963年、東京地方裁判所は原告の請求を棄却するとともに、「アメリカ軍による広島・長崎への原爆投下は国際法に違反する」との判決を出しました。

出典:原爆投下は国際法に違反する」との判決を想起しよう

ロシアによるウクライナ侵攻

国際法には「武力行使禁止原則」という規定があります。その中では、他国に対する武力行使や武力行使をちらつかせた威嚇行為などを禁止しています。このルールに違反したと考えられているのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。

ロシアによるウクライナ侵攻については、国連総会で多くの国々が非難し、ロシアに対して「ウクライナ領土からの撤退」を求めました。ロシアに対して独自に制裁措置を行う国も現れるほど、ロシアの行いは国際法的に「非」とされたのです。

国際社会が問題解決に向けて動いているにもかかわらず、ロシアによる侵略は止まっていません。

竹島問題

竹島とは、韓国が事実上占拠している日本固有の領土です。竹島は歴史的な事実から検証しても、国際法的に照らし合わせてみても、日本固有の領土であることに間違いありません。

しかし、韓国は自国本位な理由を付けて「独島(トクト:韓国側が主張する竹島の韓国名)は韓国の領土だ」といって実効支配を続けています。

竹島の領有権問題について、日本は国際法にのっとった平和的な手段による解決を進めています。日本によるアプローチの一つが、国際司法裁判所への付託の提案です。日本は今までに3回(1954年・1962年・2012年)付託を提案したものの、全て韓国側に拒否されています。

出典:日本は国際司法裁判所への付託を提案、韓国は拒否|内閣官房 領土・主権対策企画調整室

国際法は世界の平和を守る大切なルール

国際法は世界の平和を維持するために欠かせないルールです。「国際法」という字面を見ると「一般市民には関係のないもの」と思われるかもしれません。しかし、私たち日本人が国際社会の中で平和に暮らせているのは、気付かぬうちに国際法の恩恵を受けているためといえるでしょう。それほど国際法は人々の生活に密接に関わっている法律といえるのです。

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構成・文/HugKum編集部

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