小学生にも分かる「日米安保条約」。基礎情報から歴史まで解説すると「つまり、こういうこと」【親子で学ぶ国際問題】

日本の安全保障に興味を持ち、詳しく調べた経験がなければ、「日米安保条約」という言葉を小学生にも分かるように説明するのは難しいでしょう。小学生と一緒に読み進められるよう、日米安保条約の基本や歴史を分かりやすく解説します。

[上画像:外務省外交史料館で展示されている日米安保条約(旧)の署名 Photo by World Imaging, CC 表示-継承 3.0, Wikimedia Commons]

日米安保条約って何?

日米安保条約は、日本とアメリカの関係を理解する上で最も重要なことの一つです。日米安保条約の基礎知識を解説します。基本となる知識を身に付けて、日米関係を理解するための土台を作りましょう。

国の安全を守ることに関する日本とアメリカ間の条約

日米安保条約とは、正しい名前を「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」という条約のことです。

条約とは、国と国との間やいくつかの国同士で結ばれる約束を指します。日本で条約を結ぶには、内閣(政治を行うグループ)が「条約を結ぼう」という合意に関する手続きをし、その前か後に国会(法律を作るグループ)から承認(認めてもらうこと)を得る必要があります。

安保とは「安全保障」のことです。安全保障とは、国の外からの攻撃から自分の国を守ることを指します。以上のことをまとめると、日米安保条約は「日本の安全を守るための日本とアメリカの間で結ばれたルール」といえるでしょう。

日米安保条約が結ばれた目的とは

日米安保条約を結ばれた目的の一つが「日本の平和を守ること」です。軍事力(戦うための能力)を強めている国々がたくさんあるアジア太平洋地域で、日本だけの力で他国の攻撃から自国を守るのは難しいといえます。だから「アメリカに協力してもらおう」と考えて結ばれたのが日米安保条約なのです。

日米安保条約の二つ目の目的が「日本の周りの地域の平和を守ること」です。日本にアメリカ軍の基地を置いて、日本や日本の周辺地域などの平和を守ってもらいます。

三つ目の目的が「さまざまな分野について協力していく関係を築くこと」です。世界で起こっている問題について、日本とアメリカの二国間で協力していく仕組みを整えます。

条約の柱となっているのは「第5条」

日米安保条約を支えているといわれているのが「第5条」です。第5条が約束しているのは、「アメリカは日本を守る義務を負う」ということです。

第5条では、日本の政治的なコントロールが及んでいる場所が他国によって攻撃されたとき、日本とアメリカとが協力してその場所を守るように行動することを定めています。

その他の条文でも重要なルールが決められています。例えば第6条は、日本にアメリカの軍隊を置くことを認める条文です。アメリカの陸軍・空軍・海軍には、日本の施設や土地を使用する権利が認められています。

出典:外務省: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

日米安保協力の歴史

日米安保条約の基本を理解した後は、日米安保条約を始まりとした「日米安保協力の歩み」をひも解いていきましょう。歴史を知ることで、日米安保条約に対する理解が深まります。日米安保協力の歴史を解説します。

旧日米安保条約が結ばれる

1951年、第2次世界大戦を終わらせるために結ばれた「サンフランシスコ講和条約(サンフランシスコ平和条約)」とともに旧日米安保条約は結ばれました。

1951年9月8日サンフランシスコにて条約(旧)の署名に臨む吉田茂 the National Archives, Washington, D.C. (PD)

旧日米安保条約が結ばれた裏には、第2次世界大戦後に始まった「武器を使わない戦い(冷戦)」の存在があります。「冷戦下の世界で日本の平和を守るには、アメリカに協力を求めるしかない」という考えがあったといわれています。

ただ、旧日米安保条約にはいくつか問題点がありました。問題点の一つとして挙げられるのが、「アメリカは日本を守らなければいけない」とはっきり決められていない点です。また、日本国内で内乱(国内で行われる戦い)が起こったとき、アメリカ軍が出動できると記されていたのも、大きな問題点であったといわれています。

出典:日米安保協力の変遷|防衛省 情報検索サービス

新日米安保条約へと新しくなる

旧日米安保条約が結ばれた当時の政府(国を動かすグループ)は、旧日米安保条約を「日本が一方的に不利になる条約」と理解していました。当時の政府は条約の内容を変えてもらえるよう、アメリカと話し合いを行っています。

政府の交渉が実り、1960年に日本とアメリカは新日米安保条約を結びました。旧条約との違いとして挙げられるのが、アメリカに対し「日本が攻撃されたときに日本を守らなくてはいけない」と決めたことです。

「日本で内乱が起きたときにアメリカ軍が出動する」との条文が削除されたことや、政治や経済の分野でも協力することが決められたことなども、旧条約との違いといえます。

1960年(昭和35年)1月19日に締結された新日米安保条約の署名[外務省外交史料館] Photo by World Imaging, CC 表示-継承 3.0, Wikimedia Commons

冷戦が終わるころの日米安保協力

冷戦真っただ中の時代、日本とアメリカは「日米防衛協力小委員会」や「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を作り、互いの協力関係をより深めていきます。

冷戦が終わった後は、一時的に世界の平和は保たれていました。しかし間もなく、アジア太平洋地域に戦争に発展するかもしれない「ピリピリとした空気」が漂い始めます。

アジア太平洋地域の緊張の高まりに合わせ、日本とアメリカは1996年「日米安保共同宣言」を発表しました。日米安保条約の目的を「アジア太平洋地域の平和を守ること」と定義し直したのです。

現代における日米安保協力

近年になると、自衛隊(日本の平和を守るための集団)の役割が強化され始めます。海外に出向いて仕事をする「自衛隊の海外派遣」も、定められた決まりの下で行われるようになりました。

2014年には「集団的自衛権」を使えるよう、憲法(国民の自由や権利を守るために国に背負わせたルール)の捉え方が内閣で行う会議での決定により変更されます。これにより、日本が攻撃されていなくても、日本と関係が深い国(アメリカなど)が攻撃されていれば、その国を助けるために反撃を加えてもよいということになりました。

2015年には「安全保障関連法」が作られ、法律として「集団的自衛権を使ってもよいこと」が定められています。

条約の良いところは「戦争を防ぐ力」があること

日米安保条約のメリット(良いところ)は、アメリカが日本の「後ろ盾」となることで、他国からの攻撃を防ぐ効果が期待できるところにあります。どの国も超大国アメリカと戦争したくはないので、「アメリカが味方している」というだけで、日本に対して戦争をしようとする国々を追っ払う効果が期待できるのです。

日本は憲法で「戦争をしないこと」を宣言する国です。攻撃された場合に「自国を守るための攻撃(自衛)」は可能なものの、自ら攻撃をすることはできません。そのため、日米安保条約による「戦争を防ぐ効果」は重要と考えられています。

もし日米安保条約がなければ、尖閣諸島の問題や北朝鮮のミサイル実験など、国を守る上での危険性が高まる日本で、戦争が起きていたかもしれないのです。

日米安保条約が抱える問題点

普天間の米軍飛行基地と市街地(沖縄県宜野湾市)

新日米安保条約を結び直したことで、日本は「日本のみが損をする不公平な条約」からは解放されたといえるでしょう。しかし日米安保条約は、まだまだ問題点が残されている条約です。日米安保条約が抱える課題を解説します。

いざというとき本当に守ってくれるのか

日米安保条約の第5条には下記のような言葉が書かれています。

「(前略)自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」

出典:外務省: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

つまり日米安保条約では、自国のルールに従って相手の国を守ると決められているのです。

アメリカの憲法では、戦争を始めることを決める権利は連邦議会(アメリカの法律を作るグループ)に与えられています。連邦議会が「日本を助ける戦いに参加すること」を認めなければ、日本がピンチのときにアメリカ軍は助けてくれないといえるでしょう。

中国と権利を争っている尖閣諸島の問題を例に取れば、世界の中でも強力な軍事力を持つ中国との戦争に発展するリスクを取ってまで、アメリカは日本を助けてくれるのか、不安が残るといえるのです。

重すぎる沖縄の基地負担

日本が他国による攻撃を受けているとき、アメリカ軍が真っ先に戦いの現場へ駆け付けるには、日本にアメリカ軍基地を作っておくのが重要といえます。

日本におけるアメリカ軍基地の多くが置かれているのが沖縄県です。日本にあるアメリカ軍基地を面積に直したとき、その約70%が沖縄に集中しています。

人が住んでいる場所の近くに基地があるため、沖縄では下記のような問題が起きています。

・暮らしやすい街づくりが難しい
・飛行機やヘリコプターによる事故や騒音問題
・燃料漏れによる自然破壊

基地問題のほとんどを沖縄に背負わせたまま、日米安保条約のメリットだけを「沖縄県以外に住む日本人」が受けているのが、日米安保協力の今といえるのです。

出典:沖縄の米軍基地(べいぐんきち)|沖縄県公式ホームページ

日米同盟にとって重要な日米安保条約

問題は解決されないまま残っているとはいえ、日米安保条約が日本にとって大切な条約であることは認識しておく必要があるでしょう。日本が今のような「平和な国」を保てているのは、日米安保条約があるからという声もあります。良い部分を認めつつ、問題点をどのように解決していくかが問われています。

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構成・文/HugKum編集部

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