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大学生の時に出会った『いやいやえん』。とんでもない本が出たと思いました〜宮﨑さん
村上 宮﨑さんと中川さんの出会いは、どういうものだったのでしょうか?
宮﨑 学生の頃です。僕が学生だったのは1960年代の頭の頃ですからね。その頃ですね『いやいやえん』が出たのは。これは驚天動地というか、今でもそう思いますけど、本当に素晴らしいものが出たと思いましたね。
村上 どんなところに、そんなに感動されたんですか?
宮﨑 だって保育園の中に海ができて…海ができてじゃないですよ、海になってて、鯨が泳いでいるっていうね(※『いやいやえん』収録の短編「くじらとり」。)まったく、それがスムーズにつながっていくんですよ。理屈で考えていくと、異世界でつながったんだとか、いろんな仕組みを考えないといけないっていうふうに思うんだけど、中川さんの手にかかると、突然ちゃんと海になっちゃうんです。
謎めいたことがいっぱいありましてね。例えばガスコンロを持って行こうってあるんですが、なんだガス台なんかがね、登場するんだろうって。これ、中川さんに伺ってはじめてわかったんだけど、中川さんがいらっしゃった保育園に古いガスコンロがあって、子どもたちがそれを使っていろんな遊びをしてたって。その説明を聞くまでは謎のガスコンロです(笑)。
村上 1962年に『いやいやえん』が出版され、これが中川さんのデビュー作でした。その頃中川さんは保育園にお勤めで、宮﨑さんは大学生だったんですね。
宮﨑 学生でした。児童文学研究会っていって5〜6人集まってたんだけど、何も研究しないでデモばっかり行ってるとか、そんなことばかりやってました。でも、これはとんでもない本が出たと本当に思ったものです。小さい子どもの世界はね、こうなんだろうと思った。
中川 「くじらとり」はね、子どもたちがいっつもやってた遊びなんですよ。子どもたちはニュースを結構見てるんです。南極から帰ってきた人たちが花束をもらうっていうシーンが、子どもにとってなんか面白かったらしいんですよね。その遊びを私はいつも見てたんですけど、私も同人誌なんかに入ったもんで、作品を一つ書かなきゃならなくて困っちゃって。
で、子どもたちが退屈してる日があるんですよ。なんにもやる気がしなくて。何かあったら、一発ケンカしようかっていう不穏な日が! ぐでぐでしてるんです。そのときにね、「あ、そうだ。今日はみんなでお話づくりしない?」って言ったら、乗ってきたの。それが「くじらとり」の話になったの。
宮﨑 面白いなあ。
中川 いつも遊んでることに、さらに面白いことを上乗せして、子どもたちが順番に話していったの。それで、あの話ができたんですよ。私はみんなからネタをもらったのね。こりゃうまくいったと思って。でも、何度もやりましたけど、二度と、ああいううまい話はできなかった。
宮﨑 ははは。ああ、そうですか。
村上 子どもたちから出た話だったんですね〜!
中川 そうなんですよね。「くじらとり」に行こうってことになったのは、どうしてなったのかしら…わからないんですけどね。
アニメ映画「くじらとり」を見てびっくりしました。あれから私は宮﨑さんに一目置いてるんです〜中川さん
宮﨑 僕はこれを映像にするには、どうしたらいいんだろうって。
中川 でも、あの映画を見たとき、私、びっくりしたの! 本当にそのままでした! 保育園の子どもたちが「くじらとり」をして…。
宮﨑 そう言ってくれると嬉しいですね。
中川 びっくりしちゃったの! お母さんたちに見せたくなっちゃった。
村上 「くじらとり」は、宮﨑さんがジブリ美術館で短編映画にされたんですよね。
中川 保育園の…本当にあの通りの海になったんです。あれで私は、びっくりしちゃって! 宮﨑さんに一目置いてるんです!
宮﨑 今でも順番で上映していますけどね。一応映画では、なぜ保育園の中が海になるのかって、そこまでは説明しないけれど、子どもが遊んでて、船が…積み木でつくった船がちょっとずれると、そこから水が漏る。すると、本当に漏ってくるっていうね。あ、こういうふうにやっていけばいいんだって、それが入り口。
中川 本当にあの通りになったから。
宮﨑 中川さん、その映画見てですね、お母さんたちが迎えに来て海になってたらびっくりするでしょって。
中川 本当にそう思った。
宮﨑 中川さんがつくった話なのに!
中川 私の手からは離れてますけどね。
宮﨑 本当に幸せでした。もっとよくできるんだろうと思うんですけど、僕はあれが限界かなあと。これならギリギリ中川さんの原作を損ねないで、子どもたちが読んでも、それから映像を見てもね、頭の中でぶつからない。そういうものができたと思って。
まあ、なんでも映像にするって、間違いなんですよね。お話はお話として読んで、それでワクワクしたりするのがいいです。でも、やっぱりちょっと挑んでみたかったんですよね。「くじらとり」は、これこそファンタジーだと思って。
叱られて物置に入れられている、主人公のしげるの絵が大好きで!~宮﨑さん
村上 宮﨑さんが『いやいやえん』を読んで、これを映像化したいっていうふうに思われたのはなぜなんでしょうか。自分で物語を動かしてみたかった?
宮﨑 いや、そんな立派なものなんかじゃない。そのときは、まだアニメーターになってませんからね。学生ですから。でも、これを映画にするとしたら、アニメーションにするとしたらですね、どうやってやるんだろうっていうのは思いましたね。
やっぱり中川さんの「くじらとり」が最高なんです。実は妹さん(※中川さんの実妹、大村百合子さん)の描いた挿絵もね、これもまた本当にいいんですよ。特に叱られて物置に入れられている、主人公のしげるの絵が、僕、大好きで!
この保育園(※スタジオジブリ保育園「3匹の熊の家」。企業保育所のため、一般の方の入園は不可)で叱られて物置に入れられている子はいないんですけどね。中川さんたちは入れてたんですか?
中川 あのね、別に物置っていうほどの部屋じゃないんですけどね。いろんなお道具を入れたりする物置っぽいお部屋がひとつあって。節穴だらけで、節穴からホールがみえるんですけどね。一応「そこに入って考えなさい」って。そうすると「イヤだイヤだ」って言うの、みんな。
ところがあとで大人になってうちに来たときは白状したんですけど、「先生、実はね。あれ入るの嬉しかったんだ」って。「でも嬉しがっちゃ先生に悪いから、イヤだっていうふりしたんだ」って。
宮﨑 ははははは。
中川 いや、悪かったな~って。
宮﨑 でも、保育園に子どもたちが絶対に行かない場所っていうのがあるんですよ。急な階段のところで…図書館の地下に自家発電機を置いてるんですよ。もしものときに電気がひとつ灯るようにって置いてあるんですけど、そこに行く階段が急なんですよね。表からは入れるようにドアがついてるんですけど、子どもたちは絶対に入らない。
かくれんぼするときに物置の裏にはいれるようになるのは、大変な成果っていうか。まあ、みんな物置の後ろにはいって一網打尽に捕まるんですけどね(笑)。物置の後ろをまわってこれるっていうのは、子どもたちにとってはすごい達成なんですよ。達成だったんですけど、その怪しい階段だけは誰も下りないですよね。いまだに下りない。
村上 それは下りちゃダメって言ってるからですか?
宮﨑 言ってないですよ。気配がイヤなんでしょうね。ものすごく敏感です、子どもって。本当に面白いです。
中川 子どもらしい子どもばかりで、いいですね~。
畳の上で、ここは海なんだって思って遊んでいる子どもたち。『いやいやえん』には、子どもの空想の世界がそのまま描かれている
村上 中川さんの『いやいやえん』が出たときに、それまでになかった児童文学が出たっていうふうに言われたと聞いたんですが、どういうふうに違ったんでしょう?
宮﨑 いや、それは要するに、保育園の遊びそのまま、海に行くっていうのはね…海に遊びに行くなら別ですよ。違いますよね、教室が海になっちゃうわけですから。
でも、教室が海になるって、自分が子どものときの遊びで、イスを横にして置くと、ちょうど船のように座れるんですよ。それで、畳の上にね、魚を描いたのを切り抜いて並べて、その絵に釘かなんかを貼りつけておいて磁石で釣るとかね。たいていの子どもがそういう遊びを知ってたと思うんです。僕はやってました。そうすると、「お前、畳の上で何やってんだ」っていうふうには思わないですよ。「ここは海なんだ」って思えるんですよ。海だと思ってやるんですよね。
大人になると、そういう能力はなくなるわけですけど、理屈で映画をつくるときに、畳の部屋がどうやって海になるのかって、それは海になりましたって突然カットが変わってもダメですよね。でも、子どものときはそうなれるんですよ。それを映像にしてみたいじゃないですか(笑)。それだけ。してみたいっていうだけです。
村上 中川さんの作品の中には、子どもの空想の世界がそのまま描かれています。
中川 みんな、子どもから教わったんです。私、無認可のね、名もなき本当に小さな保育園の主任保母にしてくれるということで、そこに就職したんです。要するに私、ガキ大将だったんです(笑)。
宮﨑 子どもたち、幸せですよね〜。
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構成/HugKum編集部