追悼『ぐりとぐら』から『子どもはみんな問題児。』まで。中川李枝子さんがわたしたちに遺してくれたもの

ロングセラー絵本「ぐりとぐら」シリーズなどで知られる児童文学作家の中川李枝子さんが10月14日に亡くなられました。享年89歳。「ぐりとぐら」のシリーズは22作が出版されており、国内での発行部数はシリーズ累計で2200万部あまりになるとか。
子どもの本の事情に詳しく、司書で読書アドバイザーの児玉ひろ美さんは、中川李枝子さんは「子どもの本のお母さん」のような存在だったと言います。

「ぐりとぐら」の中川李枝子さんは、子どもの本の「お母さん」的存在でした

「このよでいちばんすきなのは おりょうりすること たべること」(『ぐりとぐら』中川李枝子・文 大村百合子・絵)福音館書店)

リズム感の良い文章で読み継がれてきた『ぐりとぐら』の作家、児童文学者の中川李枝子さんがお亡くなりになりました。もし、この世に中川さんがいらっしゃらなかったら...日本の子どもの本は、こんなにも自由で楽しく、おおらかなものにならなかったのでは? そう思うと、まるで、子どもの本のお母さんを失ったような、そんな気すらします。

デビュー作は保育園を舞台にした幼年童話『いやいやえん』

『いやいやえん』(中川李枝子・文 大村百合子・絵)福音館書店

中川さんのデビュー作『いやいやえん』(福音館書店1962)は、中川さんが文を、妹の山脇百合子さんが絵を担当した幼年童話です。

主人公は元気できかんぼうの「しげる」。中川さんが働いていらした保育園の子どもたちをモデルに描かれたそうですが、約束を破ったり、むちゃくちゃをしたりと、等身大の「しげる」の姿に、子どもたちはもちろん、子育て中の保護者にも、「ああ、うちの子とおんなじ!」と、共感を持って親しまれ、大人気となりました。

1963年から読み継がれている「ぐりとぐら」

そして翌年、森で大きなカステラを焼く、ふたごの野ねずみ「ぐり」と「ぐら」が、生まれたのです。その後、このシリーズは全部で22作、シリーズ累計2200万部余の大ベストセラーとなり、日本中の親子や、保育者と子どもたちを、60年に渡り幸せにしてきました。

一方、英語や中国語、韓国語、ベトナム語など、アジア・ヨーロッパの14の国と地域の言葉に翻訳されてもいます。中川さんが保育園の子どもたちを喜ばせようと描いた黄色い大きなカステラは、海を越え、世界中の子どもたちを喜ばせ、幸せにしているのですね。

「ぐりとぐら」のカステラレシピはこちらから>>>>

小学1年生の教科書に掲載された『くじらぐも』

1971年、教科書向けに執筆した「くじらぐも」は現在も小学校1年生の国語教科書に掲載されている。

そのほか『そらのいろのたね』『ももいろのきりん』など幼い子どもへの作品や、自らの戦争体験をもとにし、教科書のために書き下ろされた幼年文学『くじらぐも』は、きっと皆さんのご記憶にもあることでしょう。

子育ては「抱いて」「おろして」「ほっといて」~中川李枝子さんの子育てをする人へのエールがつまった1冊

『子どもはみんな問題児。』(中川李枝子・作)新潮社

また、2015年には、保育士でいらしたご自分の経験をもとに、『子どもはみんな問題児。』(新潮社2015)を出版。『ぐりとぐら』と一緒に育った子育て中のお母さんたちへの、暖かい子育て応援エッセイ集です。

いたるところに「いやいやえん」の「しげる」や「こぐまのこぐ」「ぐりとぐら」などのイラストがあり、懐かしい顔に出会えます。なによりも、中川さんの語りかけるような文章は読みやすく、子育てに自信が持てずに悩みを抱える親の気持ちに寄り添います。

「子どもはこんなものです、それが子どもです」「子育ては『抱いて』『おろして』『ほっといて』」と、子育て中の親が、誰かに毅然とかけてほしい言葉が、中川さんの体験をもとに綴られています。

本書を紹介したお母さんたちからは「そうよね、うん、そうって、頷きながら読みました」「気持ちが楽になって、子育てが楽しめそうな気がしました」「子どもを抱きしめたくなりました」と、笑顔でコメントが届きます。

『ぐりとぐら』を読み、「さんぽ」(『となりのトトロ』のオープニング主題歌 作詞:中川李枝子)を歌って育ったお母さんたちは、こうして今も中川さんに、見守られ、背中にそっと手を置いてもらえるように励まされ、温かいエールを贈られているのですね。

「子どもにおもしろい本は、大人にもおもしろい」~世代を問わず愛されている作品をもう一度親子で楽しんで

中川さんの訃報に際し、日本中の図書館や書店が感謝をこめ、コーナーに中川さんの作品を並べました。その表紙のどれもが懐かしく、親子が、ご夫婦が、子どもたちが…と足を止め、本を手に楽しそうに言葉を交わしていました。何より、子どもの本棚には珍しい、働き盛りの男性の姿が多く見受けられたのも印象的です。

中川さんは『子どもはみんな問題児』の中でこんなことも仰っていました。「本は子どもと一緒に読むもの。『読み聞かせ』ではなく、子どもと一緒に読む」「くだらないものを読むのは時間の無駄です」「子どもにおもしろい本は、大人にもおもしろい」。

読書の秋、中川さんの遺された作品をもう一度、お子さんと一緒に楽しんでみませんか?

「ぐりとぐら」シリーズについてはこちらも

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児玉ひろ美|読書アドバイザー

公立図書館司書とJPIC読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。幼稚園・保育園から中学生まで、お話し会やブックトークの実践とともに、成人への講座や講演を行う。近年は大学にて児童文化財としての絵本の魅力を学生に伝えている。鎌倉女子大学非常勤講師など、幅広く活躍。著書に『0~5歳 子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』『子どもを育てる0歳・1歳・2歳児にぴったりの絵本』(共に小学館)がある

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