※ここからは『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子どもの未来社)の一部から引用・再構成しています。
Q:先生の不適切な指導は問題にならないの?
先生に、「おまえ、こんなこともわからないなんて、一年生からやりなおすか」と言われました。とても傷つきました。
でも、体罰ではないから問題にはならないでしょうか。
A:体罰でなくても、不適切な指導にあたる場合があります
体罰には当たらないけれど、大声でしかる、心が傷つくようなことを言う場面は、学校現場で残念ながらよく見られます。これは、「残虐で品位を傷つける罰」と言われるもので、「不適切な指導」と呼ばれることもあります。
国連子どもの権利委員会(以下、UNCRC)の一般的意見第8号では、例として、「子どもをけなし、はずかしめ、ばかにしたり、身代わりに仕立て上げ、おどし、こわがらせ、または笑いものにするような罰」があげられており(UNCRC一般的意見第8号パラ11筆者意訳)「子どもに対する暴力的および屈辱的な罰をなくすことが、この条約を結んだ国のすぐにしなければならない、無条件の義務である」 (同パラ22)と強く指摘しています。
このようにUNCRCは、残虐かつ品位を傷つける罰を強く否定し、これをすぐにやめることを求めています。学校教育法では、体罰は法律で禁止されていますが、不適切な指導はこの法律では禁止されていません。
たとえば「こんなこともできないなら犬猫以下だ」「1年生からやり直してこい」「そんなことなら部活をやめてもらう」「死ね」「消えろ」などの発言は、子どもの心を深く傷つけるものです。そういう暴言がきっかけとなって、学校に行けなくなるケースもあり、最悪の場合は命を落とすことになりかねません。
もっとも暴言などは、教育委員会によって禁止されています。
東京都では、「児童・生徒等に恐怖感、侮辱感、人権侵害等精神的苦痛や負担を与える言動(ののしる、おどかす、いかくする、人格(身体・能力・性格・風ぼう等)を否定する、馬鹿にする、集中的に批判する、犯人扱いする等)は、暴言等に当たることをあらためて認識し、こうした行為は行わないこと」となっていて(東京都教育委員会 令和3年4月〈改訂〉「使命を全うする!~教職員の服務に関するガイドライン~子供たちのために自分のために家族のために」)、これに反した場合、懲戒処分の対象となることもあります。
学校の門をくぐったとたんにみなさんの人権が失われるわけではありません。学校でも、いえ、学校でこそ、皆さんの権利は守られるべきです。そのことを、皆さん自身がまず忘れないでください。
Q:体罰や不適切な指導を受けた場合、どうすればいい?

A:必ずだれかに相談して、あなたの気持ち、意見を伝えましょう
体罰や不適切な指導を受けた場合、だまってガマンする必要はありません。いくつか方法があります。順番に見ていきましょう。
相談する、抗議する
体罰を受けたときは、決して一人で抱えこまないでください。だれかに相談する、抗議するなどのアクションをとることが、あなたを救うことにつながります。まずは保護者に相談した上で、学校に対応してもらうのがよいでしょう。
保護者に相談するときに、気をつけてほしいことがあります。保護者とあなたの意見が食いちがうときです。
たとえば、あなたは先生に謝ってもらいたいと思っているのに、保護者が懲戒処分や裁判を求めることがあります。あなた自身は、そこまでしなくてもと思っていても、保護者があなたの意見を聞かずに先に動いてしまうことがあります。そうならないように、あなたの意見をはっきり伝える必要があります。
これは、体罰や不適切な指導にかぎりません。いじめなど、あなたが当事者であるはずのことの対処法を、保護者が決めてしまうのは、あなたの意見表明権(子どもの権利条約12条)から見ても、不適切です。
どこに相談すればいいの?
学校での相談先は、管理職(校長、副校長、教頭)がよいでしょう。体罰をした本人である先生に抗議しても、言い逃れをしたり、そんなことはなかったと言ったりして、ちゃんと対応してくれないことがあるかもしれないからです。
自分がどれだけつらい思いをしたか。そういうことをした先生にどのようにしてほしいのか、思いをきちんと伝えることが大切です。決して、ひとりで抱えこまず、かならず相談できる人を持つか、いなかったら探してみることが大切です。
校長先生など管理職に相談したときにも、きちんと向き合ってくれない場合があります。たとえば、「それくらいのことで文句を言われても」「あの先生は熱意のあるいい先生ですよ」「先生の言い分は、あなたが言っていることとちがいます」などです。
こうなると、話がうまく進みません。この場合は、公立学校なら、学校を監督する教育委員会に相談することも考えたほうがよいでしょう。
指導、懲戒処分を求めるには?
教育委員会は学校を監督する立場にありますから、学校の教師の体罰や不適切指導についても、耳を傾けるべき立場にあります。
もっとも、必ずしもあなたの味方になってくれるとはかぎりませんので、アザの写真や診断書など、証拠になるものをそろえておくとよいでしょう。
教育委員会には、教師を懲戒処分にする権限があります。体罰や不適切な指導は、教員の懲戒処分の対象になります。
懲戒処分には重いほうから、免職(先生をクビにする)、停職(一定の期間、先生の仕事をできなくする)、減給(先生の給料を減らす)、戒告(注意する)という種類があります。
懲戒処分を望む場合は、そのように教育委員会に申し入れることも選択肢の一つです。

刑事手続で処分を求めるには?
体罰の場合や、不適切な指導でも暴力がともなう場合は、警察に行き、被害届を出すという方法があります。
これにより、警察の捜査が進み、起訴(刑事裁判を起こされると決まること)された場合は、刑事裁判に進みます(「略式起訴」になることもあります。この場合は公開の法廷での裁判ではなく、罰金刑となります)。
公立学校の教師は地方公務員ですが、地方公務員法によると、死刑、懲役刑、禁錮刑の有罪判決を受けると、判決確定の時に失職することになります。執行猶予付きであっても同様です(地方公務員法28条4項、16条1号)。また、国立学校の教師は国家公務員ですが、国家公務員法にも同様の規定があります(国家公務員法76条、38条1号)。
仮に懲戒処分にならなくても、国立、公立の教師の場合は、刑事手続で失職することがありますので、この手続きを使うことも考えられます。もっとも、刑事裁判であなたが証人として尋問される可能性もあるので、いろいろな負担もかかります。
被害届の出し方やその後の手続きについては、弁護士にも相談するとよいでしょう。
民事訴訟で損害賠償を求めるには?
損害賠償を求めたい場合は、民事訴訟を選択するのが一般的です。特に、被害を受けた子どもが亡くなったり、重度の後遺症を負ったりした場合には裁判となるケースが多くあります。
これについても、弁護士に相談するとよいでしょう。
当事者のあなたの意見を伝えよう
体罰、不適切指導における当事者はあなた自身です。どの手続きを選ぶかについては、保護者の人があなたの頭越しに何でも決めてしまうことのないよう、あなた自身がどうしたいかを、はっきり意見として伝えることが大切です。
あなたが一番いいと思うことを実現するために(子どもの最善の利益)、あなたが意見を述べることも、子どもの権利条約で認められた権利の一つです(意見表明権)。
※ここまでは『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子どもの未来社)の一部から引用・再構成しています。
『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子ども未来社)
長年スクールロイヤーとして「いじめ問題」に取り組んできた弁護士が、子どもたちに「しあわせに生きる権利」があることを伝え、学校で人権が踏みにじられそうな時どうしたらよいかを、子どもの権利と人権の面から具体的に対策をアドバイスします。困ったときにはぜひこの本を開いて活用してください。
平尾潔(ひらお・きよし)
早稲田大学法学部卒。サラリーマンとして働く傍ら、司法試験を目指すようになり、2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。以後、一貫して子どもの権利に関する分野に携わる。「弁護士による、いじめ予防授業」を単身で始め、ライフワークとなっている。現在、日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事、第二東京弁護士会子どもの権利に関する委員会委員、世田谷区子どもの人権擁護機関子どもサポート委員、子どもいじめ防止学会会員。少年野球チームサクラ野球クラブ代表。著書に『いじめでだれかが死ぬ前に』(岩崎書店)。
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構成/国松薫