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虐待相談件数は過去最大。子どもの虐待防止推進全国フォーラム開催
厚生労働省調べによると、子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が対応した件数は昨年度、全国で19万件を超え、過去最多を更新したことがわかりました。子どもへの虐待は、今や重大な社会問題のひとつです。こうしたことをふまえ、2019年に成立した児童福祉法等の改正法において、体罰が許されないものであることが法定化され、2020年4月1日から施行されました。
厚生労働省は、体罰等によらない子育てを考えるために「令和2年度子どもの虐待防止推進全国フォーラム」を、2020年11月29日、東京ポートシティ竹芝で開催しました。当日は、恵泉女学園大学学長 大日向雅美先生、タレント杉浦太陽さん、福田萌さんらが参加。子どもの虐待を防ぐために、私たち1人1人ができることについて考えました。フォーラムの概要を紹介します。
【恵泉女学園大学学長 大日向雅美先生】“みんなで育児を支える社会”を目指して
最初に恵泉女学園大学学長・大日向雅美先生による「子どもの権利が守られる体罰等のない社会へ」をテーマに基調講演が行われました。大日向雅美先生は、東京都港区の子育てひろば「あい・ぽーと」を運営する、NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事も務めています。
虐待のサイン! マルトリートメントも要観察レベルなら地域で救える
新型コロナウイルスの流行で、乳幼児をもつお母さんたちの生活は一変しました。幼稚園・保育園は突然、休園や登園自粛になり、子育てひろばに行けないなど外出もままならない日が続きました。テレワークで働いている親は、在宅で仕事をしながら子どもの面倒を見る状況にも置かれ、心身ともに疲弊している人もいます。
こうした状況の中、私たちは不適切な育児が増えていくのではないかと心配しています。
子どもへの不適切なかかわりを「マルトリートメント」と言います。マルトリートメントには、次の3つのレベルがあります。
1.レッドゾーン(要保護) 子どもの命や安全を確保するため児童相談所等が強制的に介入し、子どもの保護を要するレベル
2.イエローゾーン(要支援) 軽度な児童虐待で、問題を重症化させないために児童相談所等関係機関が支援していくレベル
3.グレーゾーン(要観察 児童虐待とまではいかないが、保護者の子どもへの不適切な育児について地域の関係機関等(児童相談所・福祉事務所・市町村・学校等)が連携して保護者に対して啓発や教育を行い支援していく必要があるレベル
この3つのレベルの中でコロナ禍で、増えていくと心配されているのが児童虐待とまではないかないグレーゾーンです。しかしグレーゾーンにいる親子は地域でサポートできます。虐待を防ぐには、みんなで育児を支える社会にしていくことが大切です。
また子どもへの暴力や暴言は、明らかな人権侵害です。子どもが怒鳴られたりしたときの恐怖や屈辱感、深い悲しみを、親は想像力を働かせて考えていく必要があります。
【サヘル・ローズさん】父親から受けた、自身の虐待経験を赤裸々に告白
タレントのサヘル・ローズさんは、子どもの頃に受けた自身の虐待について赤裸々に語りました。サヘル・ローズさんはイラン生まれ。8歳から日本に住んでいます。
父の虐待から逃れるために母子で家出。救ってくれたのは、小学校の給食員さんでした
私とお母さんは、お父さんから長期に渡り、暴力や暴言を受けていました。お父さんが暴力をふるうようになったのは、異国でのストレスが原因です。過酷な状況から逃がれるために、真冬の夜中、お母さんは私を連れて家を出ます。しかし住む場所がありません。そのため公園で野宿をすることに…。着替えもなく、お風呂にも入れない毎日。夕食はスーパーの試食ですませていました。
「ずっと着替えていない」などの異変をキャッチしてくれたのが、私が通っていた小学校の給食員さんです。校門で私を待っていて「どうした? 大丈夫?」と優しく聞き、状況がわかったら「うちにおいで」と私たち親子を招き入れ1ヵ月半もの間、衣食住の世話などをしてくれました。
子どもは虐待を受けてSOSを出したくても、どこに出していいのかわかりません。私も同じでした。しかし給食員さんが声をかけてくれたことでSOSが出せました。
もし近くに気になる子や親がいたら声をかけてあげてください。声をかけてくれるだけで救われることは多々あります。
【NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事 高祖常子さん】しつけとはサポートすること。叩いて教えることではありません
虐待のない世の中を目指すオレンジリボン運動を推進する、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事 高祖常子さんは、パネルディスカッション「体罰や暴言によらない、みんなで育児を支える社会とは」の中で、“しつけとは何か”について触れました。
2020年4月から改正児童虐待防止法が施行され、どんなに軽い体罰も禁止になりました。
しかし痛ましい子どもへの虐待の事件は後を絶ちません。虐待をしてきた親は殴ったり、食事を与えなかったりすることを「しつけのため」と言います。
でも本当のしつけとは何でしょう。厚生労働省のガイドラインには「しつけとは、子どもの人格や才能を伸ばし、自律した社会生活を送るようにサポートしていくこと」と記されています。暴力や暴言で脅したりすることは、決してしつけではありません。
また高祖さんは、虐待を防ぐには1人1人の心のコップをカサカサにしないことが大切と言います。心が潤っていて愛情をシャンパンタワーのように注げると、たとえば地域の人→パパ→ママ→上の子→下の子へと、みんなに愛情が満たされていきます。
【杉浦太陽さん、福田萌さん】虐待を防ぐには、大人たちのメンタルヘルスや心のコントロールが大切
しかし、心のコップがカサカサだと、子どもへの愛情は注げなくなります。虐待を防ぐには、お父さん、お母さん自身のメンタルヘルスや心のコントロールが必要です。
2児のママであるタレント、福田萌さんは、子育てで心身ともに疲れたときは、無理をせずに休んで心を落ち着かせたり、ママ友達に愚痴を言ったりすることもあるそうです。
4児のパパであるタレント、杉浦太陽さんもお母さんからの「言いたいことは、明日言え!」という教えが育児や夫婦関係に役立っていると話します。子どもにも妻にも、怒って何か言いたいときはすぐには言わず、少し時間をおくことで冷静になれると言います。
心のコントロール術を身につけて心理的虐待を防ぐ
厚生労働省が定めている子どもへの虐待の定義は、殴るや性的行為などの暴力だけではありません。子どもの人格を傷付けるような言葉や無視、きょうだい間での差別扱いなども虐待です。
こうした心理的虐待は、怒りの感情に任せたりすると誰もが起こしうることなので、福田萌さんや杉浦太陽さんのような心のコントロール術を身に付けることが必要です。
杉浦太陽さんは、厚生労働省のYouTube告知でも呼びかけをされています。
フォーラムの詳細は、YouTubeでも見られます。
協力/厚生労働省 構成/麻生珠恵