ウクライナ侵攻から3年。今後4年の間に進展が予想される
ロシアによるウクライナ侵攻から、2025年2月で3年となります。ちょうど3年前の今ごろ、ウクライナを巡る情勢が緊迫の度合いを増し、ウクライナと欧州各国を結ぶフライトが徐々に運航停止になっていきました。
当時、プーチン大統領が侵攻の決断を下すかどうかについて、ロシア専門家、安全保障専門家の多くは侵攻しないと考えていました。侵攻すれば、ロシアの国際的立場が極めて危うくなり、経済制裁によってロシア経済が大打撃を受けることは間違いなかったからです。
しかし、プーチン大統領はその期待を裏切るかのように、ウクライナへの地上侵攻を開始。それから3年、ロシアはウクライナ東部を中心に、ウクライナ領土の5分の1ほどを実効支配する現状が続いています。
2024年11月、アメリカでは戦闘終結を目指すトランプ政権に変わったことで、今後4年の間に何かしら大きな進展が訪れることが予想されます。
米国や欧州、日本企業は次々にロシアから撤退
ロシアが侵攻した直後から、米国や欧州、日本などは侵略を国際秩序に対する暴挙と非難し、ロシアに対する経済制裁を強化していきました。
また、マクドナルドやスターバックス、アップルなど、世界を代表するような大企業が次々にロシア事業から撤退。ロシア国内にあったマクドナルド800店舗あまりを現地の実業家が買い取り、フクースナ・イ・トーチカ(おいしい、それだけ)という名のファーストフードチェーンが展開されています。
また、欧米企業のように日本企業の撤退も広がっていきました。
例えば、トヨタ自動車は2022年9月、ロシアでの生産再開の見通しが立たないため、第2の都市サンクトペテルブルクにある工場を閉鎖し、ロシア国内での生産から撤退する決断を下しました。
日産も同年11月、ロシア事業からの撤退を表明し、現地の子会社であるロシア日産自動車製造会社の全株式をロシア側に1ユーロで譲渡する方針を発表しました。
また、ロシアによる侵攻直後からロシア向けの自動車部品の輸出を停止し、現地での生産を停止していたマツダも、同年11月、ロシアで製造を手がける大手自動車メーカーソラーズとの合弁会社の株式を同社に1ユーロで譲渡することを明らかに。
トラック生産を主な事業とするいすゞ自動車も2023年7月、トヨタや日産などに遅れる形でロシア事業から撤退するとし、同じようにソラーズに事業を譲渡したのちにロシアから撤退すると表明しました。
ロシア市民は変わらない日常を過ごしている

しかし、現在のロシア国内の様子を見ると、市民は侵攻以前と変わらない様子で日常生活を送っています。最近、筆者の同僚に現地の様子を聞いた際、確かに欧米や日本などの企業が相次いで撤退したものの、日常生活に必要なもの、欲しいものは普通に手に入るし、不便は感じないと話していました。
では、なぜ多くのロシア人は侵攻前と同じ水準の生活を送り、ロシア経済はそれほどダメージがないのでしょうか。
欧米諸国の存在感が薄くなっている
まず、冒頭で言及したように、欧米や日本などはロシアへ経済制裁を強化しましたが、実は世界190カ国あまりで制裁を実施しているのは40カ国ほどに過ぎず、中国やインド、グローバルサウス諸国は制裁どころか、エネルギー資源の調達などの観点からロシアとの経済的結び付きを強化しています。
東南アジアでも、ロシア制裁を実行しているにはシンガポールのみで、タイの観光地などには多くのロシア人が訪れ、侵攻以降もロシアとの関係は変わっていません。
また、多くの欧米企業が撤退したものの、ロシア国内で依然としてMac AirやiPhoneが売られているといいます。これらの多くは中国から入ったものとされますが、世界に散らばる米国製品の多くも中国などロシアと積極的に貿易を続けている国々を通してロシア国内に流れています。
要は、それだけ世界経済のおける欧米諸国の存在感というものは小さくなってきています。昔は、米国が圧倒的な影響を持っていましたが、中国やインド、グローバルサウス諸国の存在感が飛躍的に増しており、それによってロシアは欧米から制裁を受けても、それほど大きな影響が出ていないのです。
この記事のポイント
①ロシアがウクライナ侵攻を始めてから、欧米や日本企業は次々と撤退をしていった
②欧米諸国からの経済制裁を受けてもなお、ロシア市民は不自由なく暮らしている
③中国やインド、グローバルサウス諸国の存在感が増している今、欧米諸国の影響力が小さくなっている
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
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