トランプ氏就任後、初の日米首脳会談を実施
2025年1月にトランプ政権が発足。石破総理は2月6日から2月8日の日程で米国を訪問し、ワシントンD.C.でトランプ大統領と初となる対面での日米首脳会談を行いました。
外務省によりますと、まず少人数会合が30分ほどあり、その後に拡大会合が20分ほど実施されたということですが、短い時間の中でも多くの成果が示され、日本にとっては予想以上の出来だったと言えるでしょう。
2024年11月の米国大統領選でトランプ大統領が勝利して以降、国内では石破・トランプ関係への懸念がメディアなどで聞かれるようになりました。
2016年11月、トランプ大統領が民主党候補のヒラリー・クリントン氏に勝利した際、同じように日米関係が悪化することへの懸念が聞かれましたが、当時の安倍総理は、その直後に高級なゴルフクラブを手土産に外国の首脳として一番手にトランプ大統領を訪問しました。
これが功を奏し、両者は個人的な信頼関係を構築し、会談を行うごとに共通の趣味であるゴルフを通じて親睦を深めるなど、安倍・トランプ関係は極めて良好なものでした。
これと比較する形で、メディアでは「石破総理とトランプ大統領の相性はそれほど良くない」「石破政権が少数与党ということでトランプ大統領は日本を重視しない」などの懸念が広がっていきました。
トンランプ氏を批判するよりも良好な関係構築が重要

トランプ大統領は、デンマーク領グリーンランドやパレスチナ・ガザ地区を米国が保有すると発言し、メキシコ湾の名前をアメリカ湾に変える大統領令に署名。また、諸外国に関税発動を示唆するなど、そのやり方に世界から非難の声が広がっているのは事実です。
それに対して、日本もトランプ大統領にダメなことはダメと言うべきだという意見も正しいでしょう。しかし、外交の世界では国益をいかに守るかが重要で、米国を唯一の軍事同盟国とする日本としては、いろんな物議を醸し出すトランプ大統領とも良好な関係を維持することが欠かせないのです。
トランプ大統領はいかに米国の国益を守るかに徹し、各国が抱える問題にはそれほど関心がなく、関税を示唆するなどして諸外国から譲歩や利益を引き出そうとします。
要は、日本としては自らの存在がいかに米国の利益となるかを、トランプ大統領に具体的に提示するという交渉術が必要なのです。
石破総理は、日本の存在が有益であることをアピール
石破総理は今回の会談で、日本が2019年以降5年連続で最大の対米投資国であることを始め、今後対米投資額を1兆ドルという未だかつてない規模まで引き上げることを表明しました。
これらは米国を再び偉大な国家にするという目標を掲げるトランプ大統領にとって非常に歓迎するべきことであり、トランプ大統領は会談の中で日本企業による対米投資に対する強い歓迎の言葉が示したとされます。
また、トランプ大統領は米国の貿易赤字に強い不満を抱いており、最大の貿易赤字国である中国やメキシコに積極的に関税を仕掛けようとするのはそのためです。
実は、米国にとって日本は7番目の貿易赤字国であり、日本側もそれを理由にトランプ大統領が日本を直接標的とする関税を発動することを警戒しています。
しかし、石破総理は日本がアラスカ産のLNG(液化天然ガス)の輸入を拡大することを表明し、トランプ大統領も対日貿易赤字の解消に繋がると評価しています。
日本の安全保障にとって米国が不可欠な存在である現実を考慮すると、今回の会談は双方にとって極めてWin-Winなものとなりました。トランプ大統領も石破総理の姿勢を高く評価し、安全保障面では米国が日本の防衛に積極的に関与することも確認されました。
当初は石破総理の外交手腕に不安の声が集まっていましたが、今回の会談では日本の存在感をトランプ大統領に強くアピールすることに成功しました。今後もいろいろと課題が出てくるでしょうが、初めての石破・トランプ会談は予想以上の結果が出たといえるでしょう。
この記事のポイント
①トランプ大統領のやり方に世界から非難の声が集まっているが、米国を唯一の軍事同盟国とする日本としては、非難はせず良好な関係を維持することが重要
②石破総理は、アメリカへの投資額の引き上げや、LNG(液化天然ガス)の輸入拡大を表明し、日本がアメリカにとって有益な存在であることをアピールした
③トランプ大統領は石破総理の姿勢を高く評価し、今後に向けて予想以上に良い結果を残した
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
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