人気沸騰ドラマ日曜劇場『御上先生』飯田プロデューサーに聞く感動する番組の観方と「えっ!そうなの!?」な裏話。生理の貧困や教科書検定などタブーに切り込む内容から目が離せない!

日曜日の夜21時、ドラマ日曜劇場『御上先生』(TBS系)にクギ付けになっているパパママも多いのではないでしょうか。松坂桃李さん扮する東大卒文部科学省官僚の御上孝が進学校・隣徳学院に出向し、高3の担任に。日本の学校教育に切り込んでいくうち、生徒たちが抱える社会問題に深く関わることに……。毎回驚き、考えさせられます。
いったいどのような意図でこのドラマは作られたのか、そして最終回に向けてどんな展開に? 番組プロデューサーの飯田和孝さんにお話を伺いました。番組の裏話も教えてもらいましたよ!

ヒーローの物語ではない。みんなが教育について考えるドラマに

 ――『御上先生』は、いわゆる“涙と感動の学園ドラマ”とは違い、事件を俯瞰して描きながら視聴者を深く考えさせる場面がたくさんあります。もともと社会派のドラマを制作するつもりでしたか?

僕は『3年B組金八先生』が大好きで、ヒーローものも好きだったので、企画を始めた2020年当初は、スーパーヒーローが生徒たちを導いていくような企画を立てていました。しかしコロナ禍を経て、そうした物語は「今」にあてはまらないのではないかと思うようになったのです。

というのも、2020年に大学入試が30年ぶりの大改革を迎え、それに従って小中高校の授業も「思考力・判断力・表現力」が重視される教育に変革されたということですよね。でも、多少変わったものの、根本的なところは変わらなかったというのが多くの方々の感想でした。それは文部科学省や中央省庁が学校現場の声を聞き取りきれず、「考える力」をどうはかっていくのか整備しきれなかったのではないか、という声が聞かれます。

いつになっても教育の根本的な問題はうやむやにされがちな中、ではどんな作品にしたらいいのかというときに、脚本家の詩森ろばさんに「教師と官僚をミックスさせる(官僚が教師になって学校現場に入っていく)」という、この物語の原点になるアイデアをいただきました。それなら今の教育の問題点を浮き彫りにして視聴者のみなさんに伝える新しいものになるんじゃないかという、そんな思いがあって生まれたのが『御上先生』なのです。

詩森さんは日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞され、演劇の脚本や演出家として有名な方。そこにテレビのエンタテインメントも加えて、みなさんに届くドラマにしたいと思ったのです。

事件をきっかけに生徒たちが自ら立ち上がっていく

――教科書検定や文化祭のありかた、教師の不倫問題から生徒の「生理の貧困」まで、『御上先生』では毎回、教育や学校環境に関する問題が次々に盛りだくさんに提案されますね。

ただ、ドラマの見どころは学内の事件や生徒の家庭環境そのものではなくて、それらをきっかけに、御上先生の影響を受けながら、生徒がどう変わっていくか、更にその問題は国が抱える問題に繋がっている、というところにあります。たとえば生徒の椎葉さんの貧困問題も、彼女にフォーカスしているように見えてまわりの生徒たちが立ち上がるというような。私立の進学校に通っていても、全員が恵まれているわけではなく、それぞれが問題を抱えている。社会の縮図のようなクラスで生徒たちがどう考え行動するか、そこを観ていただければと思います。

©TBS

ドラマ制作の根底には「世の中を変えたい」という思いがあります。そこにいると居心地がいい、居心地を悪くしてまで変えることはないと思ってしまうと、社会のおかしさにフタをしてしまう。けれど御上先生みたいな人が俯瞰して語ってくれると、世の中に伝わるんじゃないかと思っています。

松坂桃李さんは「御上先生」そのもの! 吉岡里帆さんの純粋さも光る!

 ――松坂桃李さん演じる御上先生のクールでいて温かい役柄が話題です。この役は松坂さんに演じてもらおうと、最初から考えていましたか?

詩森さんと作っていた御上先生の主人公像に合う人を考えたら、「松坂さんに」となりまして、ぜひに、とお願いしました。とてもやりがいを感じてくださって、打ち合わせの頃から「やっぱりこの役は松坂さんだ」と確信しました。台詞が膨大で大変ですが、生徒との時間もとても大切にしてくださり、ありがたいですね。なごませようとしてなごませている感じでもないのですが、松坂さんがそこにいるだけでみんなが笑顔になったり、ちょっとやさしい気持ちになったりするんです。演技をされていないときはすごくやわらかいので その感じも含めてすごく魅力的な方です。

――そのほか「ぜひこの方に演じてほしかった」との思いを強く持ってキャスティングした方はどなたでしょうか?

是枝先生役の吉岡里帆さんとははじめてお仕事するのですが、本当に適任でいらっしゃいました。すごく立派な教師だけれど背伸びしている、そこを悟られまいとしている女性教師役。本心を見透かす御上先生が現れて、当初は戸惑いますが、やがてどんどん自分に正直になっていく。是枝先生の純粋さや素直さをしっかり表現してくださり、すばらしいと思いました。

また、俳優さんではないですが、主題歌はずっと聴き続けていた ONE OK ROCK さんにお願いしたくて、当たって砕けろという気持ちで相談させていただきました。最高の曲を提供いただいて、ドラマにとってこれ以上ないプレゼントでした。あえて歌い出しを日本語にしてくださって、あの曲がドラマの道しるべみたいなものになっている感覚があります。Takaさんとは対談もさせていただいているのですが、「世の中をやさしさと愛の溢れる社会にしたい」という思いを感じることができました。僕らもテレビドラマを通してそこに向かっていきたいという思いを強くしました。

©TBS

ロケは聖光学院と東京都市大附属高校で。聖光の生徒もエキストラ出演!

――実際の高校でのロケも多いそうですね。

門のところや中庭、2階より上の廊下や屋上、職員室など、主に横浜の聖光学院をお借りしています。1階の廊下などは世田谷の東京都市大学附属高等学校、そして教室などは緑山スタジオでセットを組んでいます。

聖光学院の建物はドラマのロケの受け入れははじめてだそうです。とても協力的で、生徒さんもエキストラさんとして出演してくださって。聖光学院の受け入れがなかったらドラマは成立しなかったですし、本当にありがたかったですね。

聖光学院は東大に現役で100人も入るような進学校ですが、生徒のみなさんはすごく気さくでドラマ制作に興味を持ってくださっている生徒さんもいて、「未来の後輩としてTBSに入社してくれたら……」、なんていう思いも持ったりしました(笑)。
僕が高校時代を過ごした熊谷高校も男子校なのでわかりすぎるくらい気持ちがわかるのですが、隣徳は共学なので女子生徒役のエキストラさんと中庭でテニスをするシーンにはテンションが上がっていて、男子校ならではだなぁと、ほのぼのとしました。

また、このドラマのクライマックスシーンは必ず教室だという思いから、毎話、長い教室でのシーンを作っています。そんなシーンも、映像的にも飽きずに見られるよう、過去最高の教室にしてください、という監督はじめ演出しているチームの想いをTBSの美術のスタッフたちが実現してくれています。教室の外でも芝居ができるように階段を上がって行けたり、また教室の装飾を変えて保健室に仕立てたり。TBSの美術ってお世辞抜きに圧倒的にすごい、というところを見せてくれましたね。 

――この教室の中で日々を過ごす生徒さんたちは、みなさんそれぞれ進学校らしい賢さと個性を持ち合わせていますね。

制服の着こなし方は監督とか衣装部がこだわってキャストにフィットするスタイルにしています。進学校の生徒ですから着崩しすぎず、むしろ個性はジャケットなのかベストを着るのかカーディガンなのかなどで見せていますし、29人が揃ったところの服の見え方のバランスも考えているんですよ。

よく「進学校なのに勉強するシーンがほとんどない」って言われますが、大丈夫、みんな優秀なので短時間で効率よくしっかり陰で勉強しています(笑)。

『御上先生』のまわりに集まる仲間たちがラストで何をするのか!

 ――1回ごとの「事件」はだんだん結びついてラストを迎えると聞いていますが、ラストシーンはどうなるのか、待ち遠しいです。

事件を解決して御上先生が社会を斬る、みたいなことではなくて。このドラマはドラクエでいうと仲間集めみたいなものでして、ひとつひとつの事件は御上先生と生徒たちが権力に立ち向かっていくというアイテムなんです。一話で生徒の神崎が自分で出した新聞で教師の不倫を暴いた。それが殺人事件とからみ、文科省もからんでいると気づいて、教育のあり方についてどんどん見えてくる。

生徒たちは子どもじゃなくて、物事を考えられる一人前の大人です。日本では18歳は成人ですからね。彼らが主体的に考え、仲間とともに進んでいく様をみてほしいですね。

番組ではイベントとして、高校の先生方と番組のキーになる教育専門家が語り合う「日曜劇場『御上先生』課外授業~教育論と表現方法を知る~」を開催し、TVerでも配信しています。今回のドラマの鍵になる工藤勇一先生の教育論には特に耳を傾けていただいて残りの話に臨んでいただくと、ますます深くこのドラマを観ていただけるのではないかと思います。

「日曜劇場『御上先生』課外授業~教育論と表現方法を知る~」

 

――では、最後にHugKumの読者にメッセージを。

僕自身はまだ子どもが4歳で、実際に子育てをされている読者の皆さんに何か言うなんておこがましいのですが。『御上先生』が示しているのは“逃げ道”みたいな気もしているんです。御上先生の言葉って、口調はクールですが愛に満ちていますよね。「向き合うことは必要だけれど、無理せず自分なりに考えてその考えた先に最適な道がある」ということを示しているのです。

子育てや教育についてはいろいろと悩みはあると思いますが、今想像できる選択肢以外にも、もしかしたら最適な選択肢があるかもしれないっていうことを、ドラマを通して感じていただけるといいのかなって。

そんな観かたもあると思いながら、ラストまでドラマを楽しんでいただけたらうれしいです。

 

今回お話を伺ったのは・・・

飯田和孝さん/TBSテレビ・コンテンツ制作局ドラマ制作部所属テレビドラマのプロデューサー

©加藤春日

<プロフィール>
埼玉県熊谷市出身。早稲田大学教育学部卒業後、2005TBSに入社。プロデューサーとしての主な作品は『ドラゴン桜』(2021年)、『マイファミリー』(2022年)、『VIVANT』(2023年)、『アンチヒーロー(2024年)など。202471日付でドラマ制作部エキスパート特任職スペシャリスト。2024年、『VIVANT』でエランドール賞・プロデューサー賞受賞。 

TBSテレビ日曜劇場『御上先生』 日曜夜9時から放送

TVerでは最新回と1話から3話まで配信中 

 

取材・文/三輪泉

編集部おすすめ

関連記事