日本被団協がノーベル平和賞を受賞
昨年、日本被団協(にほんひだんきょう)という団体がノーベル平和賞という素晴らしい賞を受賞しました。この団体は、広島と長崎で原爆を経験した人たち(被爆者)が集まり、「核兵器をなくして平和な世界にしよう」と長い間頑張ってきたグループです。
ノーベル平和賞は、平和のために大きなことをした人に贈られる賞で、日本被団協が約70年間、核兵器の怖さを伝え、なくす活動を続けたことが認められました。でも、少し不思議なことがあります。こんな立派な賞をもらって、世界中が「核兵器をなくそう」と考えるきっかけになったはずなのに、なぜか核兵器の数は減りません。
今回は、小学生のみなさんにも分かりやすいように、その理由を解説します。
日本被団協ってどんな団体?
まず、日本被団協がどんなことをしてきたのか見てみましょう。1945年、広島と長崎に原爆が落とされ、たくさんの人が亡くなったり、ケガをしたりしました。
その11年後の1956年、被爆者たちが「もうこんな悲しいことが起きないように」と日本被団協を作りました。彼らは、自分たちのつらい経験を世界に伝え、「核兵器は怖いからなくそう」と訴えたのです。
たとえば、国連という世界の国々が集まる場所で話をしたり、核兵器を禁止するルール(条約)を作るために300万人以上の署名を集めたりしました。
その結果、2021年に「核兵器禁止条約」ができ、たくさんの国が「核兵器をなくす」と約束しました。日本被団協の努力が、核兵器を「使ってはいけないもの」と考える気持ちを広めたのです。ノーベル平和賞をもらったのは、その頑張りの証となったわけです。
核兵器が減らない理由
それでも核兵器が減らないのは、なぜでしょうか?
今も戦争がなくならないから
ひとつ目の理由は、世界の国同士が現在でも争っているからです。たとえば、ロシアとウクライナが今、戦争をしています。ロシアは「核兵器を使うかもしれない」と脅して、他の国を怖がらせています。こういう時、核兵器を持っている国は「これがあるから守れる」「核があるから相手を怖がらせることができる」と考えて、核を手放さないのです。
国同士が仲良くできないと、「もし敵が攻めてきたらどうしよう」と心配になり、核兵器を「自分たちを守るための武器」として持とうとする国は決して少なくありません。
核を持っている国は、自分の国だけ減らすのはイヤだから
今、世界には約1万2000発以上の核兵器があると言われています。しかし、それを持っているのは、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの9カ国だけです。
この9カ国は、自分たちの安全のために核兵器が必要だと思っており、他の国が「なくそう」と言っても、「核保有国が核の数を減らしたら自分たちも削減する」と考えています。
たとえば、アメリカとロシアだけで、世界の核兵器の90%くらいを持っています。このふたつの国が「一緒に減らそう」と決めないと、数が減るのは難しいのです。
核兵器を持っている国はさらに強い核兵器の開発を行っているから
さらに、核兵器を持っている国は、新たな核兵器を作っています。たとえば、アメリカやロシアは「もっと強い核兵器を作ろう」とお金をかけています。まるで、おもちゃを新しく買い替えるみたいに、古いものを捨てずにバージョンアップしているのです。
日本被団協は「平和のために核兵器をなくそう」と訴えていますが、新しい核兵器を作る国は「これがあるから安心なんだ」と考えています。この考え方の違いが、核兵器を減らすのを難しくしているのです。みんなが「平和が一番」と同じ気持ちになれたらいいのに、なかなかそうは上手くはいっていないのです。
日本の立場は?
日本は、戦争で原爆を受けた唯一の国として「核兵器はいらない」とずっと訴えてきました。しかし、日本政府は「核兵器禁止条約」に参加していません。なぜかというと、日本はアメリカの核兵器に守ってもらっているからです。「アメリカが核兵器を持っているから、日本は安全だ」といった感じです。
日本被団協は「日本も条約に入って、核兵器をなくすリーダーになってほしい」と願っています。でも、国を守るためにはアメリカの力が必要だと思う人もいて、意見が分かれています。ここに日本にとって大きなジレンマがあります。
今後はどうなるの?
核兵器が減らない理由は、国同士の争いや、持っている国の考え方、新しい核兵器を作ろうとすることなど、いろんな問題が絡み合っているから。ウクライナ戦争のように、世界では国家と国家のケンカがヒートアップしていて、今後もこの傾向が続くと予測されており、核兵器を世界からなくすことは難しくなってきています。
小学生のみなさんにできることは、「戦争はいやだな」「平和がいいな」と感じたことを友達や家族に話してみることです。みんなの小さな声が集まれば、大きな力になって、いつか核兵器がなくなる日が来るかもしれません。日本被団協の頑張りが教えてくれたのは、一人ひとりの気持ちが世界を変える第一歩だということです。
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。