目次
アサーションの基本的な意味
アサーションを適切に使えるようになるには、アサーションの由来や背景にある考え方を知る必要があります。意外に奥が深いアサーションについて見ていきましょう。
アサーションは自分も相手も大切にするスキル
アサーションとは、自分と相手の意見を両方とも大事にするためのコミュニケーション方法です。アサーションの由来である英語のassertion(アサーション)には、「断言・主張」という意味があります。
直訳すると、「周囲のことを考えず自分の意見を押し通す」という間違った解釈をされかねないため、コミュニケーションスキルの意味で使う場合には片仮名表記で区別しています。
アサーションは、相手に気を使い過ぎて何も言えなくなってしまう人や、自分の主張を押し通すことで周囲とうまくいかなくなっている人に役立つでしょう。アサーションは自分の意見を素直に表現しつつ、人間関係を良好に保つための技法です。
土台にあるのは「自己表現の権利」
アサーションという考え方の根っこには、基本的人権の一部である「アサーション(自己表現)権」があります。アサーション権は、1960~70年代のアメリカにおいて、人種差別や性差別の撤廃運動の中で注目されるようになりました。
簡単にいうなら「人間は誰でも平等に価値があり、自分を大切にして考えや感情を表現する権利がある」という思想です。
差別を受けていたマイノリティーの人たちにとって、攻撃的にならずに自分たちの人権を主張する方法がアサーションでした。今では教育やビジネスの場など、幅広く活用されています。
相手にも自己主張の権利があると理解する
アサーション権を理解した後は、それが自分だけでなく誰にでも認められる権利であることを理解することが重要です。一方的に自己主張するのではなく、相手の意見や立場を尊重することがアサーションの本質です。
他者を尊重する気持ちは、自尊感情と他者への安心感・信頼感から生まれます。自尊感情とは、「自分は大切にされる価値がある」「自分の考えや気持ちを表現することは重要である」と認識することです。
アサーション的な自己表現を身に付けるためには、自分を大切にしながら相手を尊重する経験を積み重ねることが求められます。
アサーションのメリット

アサーションには周囲との人間関係を良好にするだけでなく、さまざまなメリットがあります。多様性社会に必要な相互尊重の精神や、ハラスメント予防、子どもの自尊心の育成など、アサーションの効果をチェックします。
多様性社会に必要なスキルが身に付く
アサーションという考え方やスキルは、1980年代にアメリカから日本へ伝わりました。しかし、日本には「言葉にされなくても察する」文化があるため、はっきり言葉で伝えるアサーションスキルはあまり定着しませんでした。
近年、価値観やライフスタイルの多様化、グローバル化が進み、アサーションは注目を浴びています。
アサーションは大人にとっても子どもにとっても、さまざまな意見を尊重しながら自分らしく生きるために必要なスキルです。子どもが成長した後も大いに役立つでしょう。
ハラスメント予防につながる
アサーションは、学校などの教育現場でも活用されています。先生と生徒、大人と子どもという関係性は、どうしても上から一方的に意見を押し付けてしまう危険性があるためです。
意見を押し付けられるばかりで、自分を大切にすることを学べなければ、子どもは自尊心や相手を尊重する気持ちを伸ばせないでしょう。
大人がアサーションスキルを身に付けることは、子どものアサーション権を守るために大切なポイントです。
子どもの自尊心を育てる
自尊心は、自分の考えや気持ちを尊重される体験と、相手から対等な相手として意見を伝えられる体験によって高められるといわれます。
つまり、子どもの周囲にいる大人がアサーション的な関わりをすることは、子どもの自尊心を育て子どものアサーションスキルを高める効果があります。
子どもがアサーションを身に付ければ、友達や周囲の大人と良好な人間関係を築きやすくなるでしょう。安心感や信頼感で結ばれた人間関係は、子どもの健康な成長にとっても助けになります。
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あなたの自己表現タイプはどれ?

コミュニケーションタイプを分かりやすくするため、アサーションでは自己表現の方法を自分と相手への「肯定・否定軸」で分けて考えます。自分や子どもがどのタイプか調べてみましょう。
「いばりやさん」な攻撃タイプ
コミュニケーションタイプは大まかに3種類あります。攻撃タイプは「私はOK・あなたはOKでない」というスタンスです。「あなたがOKでなくても構わない」と言ったほうが分かりやすいかもしれません。
「自分の意見は正しいのだから通るのが当たり前」と思いがちで、コミュニケーションを勝ち負けとして考えるのが特徴です。
いわゆる俺様タイプで、相手を怒鳴ったり嫌みを言ったりする攻撃的な表現が目立ち、無視したり褒める形でからかったりすることもあります。
多くの場合、この攻撃性は隠された不安や孤独の裏返しです。相手の考えや気持ちを無視して怒らせ、たとえ自分の意見が通っても人間関係が悪化します。
「おどおどさん」な受け身タイプ
受け身タイプは「私はOKでない・あなたはOK」というスタンスのコミュニケーションです。「周囲の人に迷惑を掛けたくない」「嫌われたくない」と思うあまり、相手に合わせて自分の考えや気持ちを引っ込めてしまいます。
無表情や消極的な態度、我慢強さの背後には、自己肯定感の低さや劣等感を抱えているでしょう。一見、気遣い上手に見えますが、自分の意見を伝えないことで周りから誤解され低く評価される点がデメリットです。
自分でも自分の気持ちが分からなくなったり、ストレスをため込みすぎて体調が悪くなったりすることもあります。
「さわやかさん」な調和タイプ
「私はOK・あなたもOK」という調和タイプは、アサーションスキルを使って、相手を尊重しながら自分の意見もしっかり主張するスタンスです。
意見が対立したときに、戦いではなく歩み寄りによって解決しようとします。相手の気持ちに共感したり尊重したりしながら受け止める姿勢と、自己主張のバランスが取れています。
自分の弱い部分を人に見せることもあまり恐れません。自分も相手も大事にするので、本人の自己肯定感や納得感を得やすくメンタルも安定しやすいでしょう。
家庭でもできるアサーション・トレーニング

アサーションの考え方やメリットが分かったところで基本的なアサーション・トレーニングを解説します。「みかんていいな」「アイメッセージ」は、家庭でも取り入れやすいでしょう。
「みかんていいな」で覚えよう
アサーションスキルの基本を表すものとして「DESC法」があります。「みかんていいな」と言い換えると、子どもでも覚えやすいでしょう。
●み:(Describe)見た事実
●かん:(Express)感じたこと・考えたこと
●て:(Specify)具体的なしてほしい行動の提案
●い・いな(イエス・ノー):(Choose)相手に否定された場合の代案
例えば、夕食のときに子どもが遊んでいて、呼んでも席に着かないとイライラしてしまうかもしれません。こんなとき、役に立つのが「みかんていいな」です。
【例】
●み:夕食に呼んでも来てくれないな
●かん:せっかく作ったのに料理が冷めちゃって悲しい
●て:早く来て一緒に食べようよ
●い・いな:遊ぶのはご飯が終わってからにしない?
こんな表現にすれば、やんわりと自分の意見を伝えられるのではないでしょうか。相手が協力してくれた場合は感謝することも大切です。
怒りを伝えるときは「アイメッセージ」で
腹が立ったときに使えるアサーションスキルは「アイメッセージ」です。「私(I:アイ)」を主語にすると、相手は否定されたと感じにくいという性質があります。
怒ったときに自分の考えを伝えようとして、「あなたって~」「普通は~」と表現してしまい、かえって険悪なムードになってしまったことはありませんか?
「アイメッセージ」のコツは、自分のしてほしいことを一つに絞って伝えることです。過去は変えられないので、現在と未来に相手が実行できる具体的な提案にしましょう。もし言い過ぎてしまったと思ったときは、素直に謝ることもアサーション的な自己表現になります。
幼児期はアサーションの土台を育てよう

アサーションを身に付けるには土台をしっかり育てる必要があります。アサーションの土台とは何か、小学校に入る前の幼児向けトレーニングも見ていきます。
まずは「相手目線」に気付くことから
アサーションを実践するには、相手の立場からものを見る視点と共感性を伸ばす必要があります。鬼ごっこは、小学校前の子どものアサーション・トレーニングにぴったりです。
相手がどちらに逃げるか予測して追いかけるので、遊びながら「相手目線」を想像するトレーニングになるためです。まずは子どもが鬼ごっこする様子を観察して、相手目線にどれくらい立てているかチェックします。
個人差もありますが、小学校前の子どもにとって、共感力を高めるのはなかなか難しいことです。子どものレベルに合わせて気付きを促す声掛けをしてみましょう。
子どもが困っていることが学びのチャンス
幼児期は、アサーションの土台である自己主張・自己抑制スキルを学んでいる段階です。つまり、幼児期にしっかり自己主張・自己抑制スキルを伸ばすことが、小学校以降のアサーションスキルの発達につながります。
ただし幼児でも、本人が困っていることをきっかけにアサーション的な関わり方を学ぶことができます。例えば、友達の誘いをうまく断る方法です。
ただストレートに「私は遊びたくない」といえば相手を傷つけてしまう可能性があり、自分を抑えて嫌々遊んでばかりいるとストレスがたまってしまいます。アサーション的なアプローチを生かして相手を気遣いつつ自己主張する方法を親子で練習してみましょう。
アサーションはより良い人間関係を築くためのスキル
アサーションは相手を尊重しつつ自分も大切にするためのコミュニケーションスキルです。
ちょっとした表現の違いというだけではありません。その基礎には「相手も自分も大切な存在であり、自己表現する権利があるのだ」という基本的人権の考え方があります。
アサーションを身に付ければ、大人も子どもも良好な人間関係を築きやすくなります。また、自尊心や共感力を育むためにも必要な考え方です。
家庭でも簡単に取り入れられます。まずは、普段のコミュニケーションで「みかんていいな」を試してみてはいかがでしょうか。
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構成・文/HugKum編集部