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5歳児健診をスキップしてしまうと、必要なサポートが遅れてしまう場合があります
5歳児健診を実施する自治体が徐々に増えてきていますが、以前から5歳児健診の必要性は指摘されていました。
たとえば保育の現場からは「年中児で発達が気になる子がいるけれど、保護者に聞くと『3歳児健診では問題なしと言われた』と言われ、療育への橋渡しがうまくできない」などの声も上がっていました。
以前、私たちの研究グループが、3歳児健診で言葉の遅れや多動傾向、対人関係の遅れなどがみられた17人の子どもを学童期まで追跡調査したところ、そのうちの約35%は健常児でした。その結果からも、3歳児健診で発達障害か見極めるのは難しい一面があります。
対象は、標準的には4歳6ヵ月~5歳6ヵ月の幼児
5歳児健診を行わないと、3歳児健診の次は就学時健診となります。就学時健診は、小学校入学の半年ぐらい前に行う自治体が多いのですが、このとき発達の気がかりを指摘されると、十分なサポートを受けられないまま小学校に入学する可能性が高くなります。そのためにも満5歳になる幼児(標準的には4歳6ヵ月~5歳6ヵ月)が受ける5歳児健診が必要です。
5歳児健診では、身体発達、精神発達、言葉の発達などをチェック

5歳児健診の主な目的は、
- 1)身体発育状況
- 2)栄養状態
- 3)精神発達の状況
- 4)言葉の発達の状況
- 5)生活習慣の自立、社会性の発達
- などをみることです。
ママ・パパには問診票で「しりとりができますか?」「じゃんけんの勝ち負けがわかりますか?」「順番を待つことができますか?」「長い間でも、落ち着いてじっとしていることができますか?」「生活や遊びの中で特定の物や動作にこだわりが強いと感じますか?」「うんちをひとりでしますか?」などに答えてもらいます。
医師が「片足立ちが5秒以上できる」などの運動発達もみる
ほかには、医師が「片足立ちが5秒以上できる」「母指とひとさし指でのタッピング」などの運動発達をみたり、じゃんけんをして勝ち負けが正しく理解できているか、正しくしりとりができるかなども確認したりします。また、発音や聞き間違いが多くないかなどもみます。
5歳児健診のメリットは、就学までに余裕をもってサポートを受けられること

もし5歳児健診で発達や言葉の気がかりが指摘された場合は、なるべく早く適切なサポートを受けましょう。5歳児健診のメリットは、就学まで時間があるため療育などに通っても、余裕をもってサポートを受けられることです。
専門家のサポートを受けながら苦手意識が軽減したり、できなかったことができるようになったりすることは、子どもにとって大きな自信につながるはずです。
就学後に登校渋りになるケースには、発達に課題があることも
文部科学省が発表した令和5年度の小学1年生の不登校児童数は、9,154人にのぼります。令和4年度と比較すると1.37倍に増えています。不登校にはさまざまな原因がありますが、その中には発達特性によって「落ち着いて授業が受けられない」「先生の指示が聞けない」「集団行動が苦手」「友だちとの関係がうまくいかない」「勉強についていけない」などが原因で、登校を渋るケースもあります。子どもからしたら、先生や友だち、ママ・パパに注意されることが過度に多かったりなど、勉強についていけなかったりするのは本当につらい経験でしょう。
そうしたことを防ぐためにも5歳児健診で指摘を受けたら、保健師に相談して早期に適切なサポートを受けてほしいと思います。
5歳児健診では、早寝・早起きなどの生活習慣も確認

ほかには発達特性がなくても、朝、起きられずに登校渋りになる子もいます。
以前、私たちの研究グループで、ある自治体の5歳児の就寝前のテレビや動画の視聴状況を調べたところ、「いつも見る」と回答したのは254人( 20.0%)、「ときどき見る」と回答したのは 577人(45.5%)でした。
就寝前に動画やテレビを見たり、ゲームをしたりすると、寝つくのに時間がかかり睡眠時間が短くなったり、夜中に目が覚めたりして、朝、寝覚めが悪くなりがちです。こうしたことが習慣化すると、就学後、朝、起きられずに登校を渋るようになるケースもあります。
そのため5歳児健診では生活習慣を確認し、就学に向けて見直したほうがよいことをアドバイスしたりもします。
5歳児健診が行われていない自治体は、園の先生に相談を

5歳児健診は、まだすべての自治体で実施されているわけではありません。そのため、お住まいの自治体で、5歳児健診を実施していない場合は、子どもが通う園の園長先生や担任の先生に相談してみましょう。なかには「5歳児の発達相談」を行っている自治体もあります。
園の先生から、気になる様子を告げられたことで、療育につながる場合もあります。ママ・パパの判断で「これは、うちの子の個性」「そのうちできるようになる!」「早生まれだから発達が遅め」などと決めつけないことが大切です。
なかには「療育などに通うことに抵抗がある」と考えるママ・パパもいるかもしれませんが、「子どもが明るく、楽しく、元気よく小学校に通うため」という視点をもって、前向きに考えてほしいと思います。
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記事監修
国立成育医療研究センター こころの診療部統括部長、副院長などを経て、現職。日本小児科学会専門医、子どものこころ専門医、日本小児神経学会専門医。専門は発達障害医学。
取材・構成/麻生珠恵