ジェンダーバイアスの意味と現状
ジェンダーバイアスは、私たちが自覚している部分はもちろん、意識しないところでも働いています。ジェンダーバイアスの意味と、ジェンダーバイアスに関する男女差を見ていきます。
ジェンダーバイアスは性別による偏見
ジェンダーは「社会的・文化的に生まれた性差」のことで、バイアスは「偏見」を意味します。ジェンダーバイアスをそのまま訳せば「社会・文化的な性的偏見やそこからくる差別」という意味です。
偏見なので、無意識の思い込みである場合も多く、男女とも考え方や行動にジェンダーバイアスの影響を受けています。
最近は、ジェンダーバイアスによって個人の能力・成長や社会の発展が妨げられているという考え方が強まりました。そのため、男女平等や性的マイノリティの差別解消への取り組みが広まっています。
ジェンダーバイアスに関する男女差
2022年度に発表された、男女共同参画局の「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果」から、ジェンダーバイアスに関する男女差を紹介します。
調査対象は、全国の20~60代の男女1万906人です。結果は、性別による役割分担などに関する思い込みは男性のほうが高く、ジェンダーバイアスに関する発言・態度を感じた経験は女性のほうが多くなりました。
このことから、男性のほうがジェンダーバイアスを自覚していない可能性があります。
出典:令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果(概要)PDF2|内閣府男女共同参画局
ジェンダーバイアスの具体例と問題

ジェンダーバイアスは、親が子どものために選ぶ色やおもちゃに始まり、家庭や社会のさまざまな場面でみられます。ジェンダーバイアスの具体例と問題をチェックしましょう。
色や服、遊びにまつわるジェンダーバイアス
ジェンダーバイアスは、幼い頃から生活の中で教え込まれるものです。例えば「女の子はピンクが好き」「男の子は車が好き」といった、色や服、遊びにまつわるものです。
子育て世代の消費・行動調査などを行っている「シルミル研究所」は、株式会社電通の「電通ダイバーシティ・ラボ」と合同で、子どもに関するジェンダーバイアスの意識調査を行いました(2022年)。
回答者は、株式会社こどもりびんぐのメール会員で、0~13歳の子どもを持つ保護者681名です。
調査によれば、保護者の24.5%が、子どもが欲しいといった品物を「女の子(男の子)だからふさわしくない」と買わなかったことがありました。
対象になりやすかった商品は、玩具53.5%・衣類45.5%です。両方とも男女の売り場が分かれている傾向があり、社会が示す選択肢に従うといったジェンダーバイアスがうかがえます。
出典:電通、子育て情報サイトの会員を対象に、子どもにまつわるジェンダーバイアスに関する意識|電通
社会にまつわるジェンダーバイアス
ジェンダーによる深刻な格差の一つは、仕事の賃金です。OECD(経済協力開発機構)は、2022年の日本における男女の正社員の賃金格差は21.3%と発表しました。
これは先進国の平均的な賃金格差より約2倍多く、日本には管理職になれる女性が少ないことが一因とみられています。
国際NGOプラン・インターナショナルの調査によれば、学校でもジェンダーバイアスを感じる子どもは多いようです。
2022年に行われた高校生2000人へのアンケートでは、「理系は男子、文系は女子」といった学習面の選択や、「女の子はおしとやかに」「男の子は泣くな」といった言動への影響が分かりました。
また司法の場においても、家庭の役割に対する先入観やDVの容認といったジェンダーバイアスがみられます。これらのジェンダーバイアスは、男女の進路選択や社会活動に大きな影響力を持っています。
出典:男女でこれだけ違う!「ジェンダーギャップ」を考えてみよう|国際NGOプラン・インターナショナル
:「日本の高校生のジェンダー・ステレオタイプ意識調査」国際NGOプラン・インターナショナル
家庭にまつわるジェンダーバイアス
日本に女性の管理職が少ない一因は、家庭におけるジェンダーバイアス、すなわち男女の役割意識にあると考えられています。
それを裏付ける調査の一つに、総務省統計局統計調査部労働力人口統計が2021年に調査した「我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップ」があります。
それによれば、6歳未満の子どもを持つ夫婦における1日の家庭内労働時間は、夫が約1時間54分、妻が約7時間28分でした。
現在も、女性は家事育児や介護などの負担が大きいことが分かります。そのため、家庭労働と両立させるため、女性は負担が大きく長時間労働になりやすい管理職を選ばない傾向があります。
出典:我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップPDF2|総務省統計局統計調査部労働力人口統計
「ジェンダーギャップ指数」でみるジェンダーバイアス

ジェンダーギャップ指数は世界各国のジェンダーギャップがどの程度かを見える化してくれる基準の一つです。世界におけるジェンダーギャップの傾向や、日本の現状を見ていきましょう。
世界の「ジェンダーギャップ指数」
ジェンダーバイアスのレベルを計算する指標の一つに、「ジェンダーギャップ指数」があります。
ジェンダーギャップ指数は、世界経済フォーラムが毎年更新する「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート」から計算されています。146カ国における、経済・教育・健康・政治の分野のジェンダーギャップを調べたものです。
ジェンダーバイアスによる格差是正が実現されている国として、毎年のように上位に入る例は、アイスランドやノルウェーなどの北欧諸国です。一方、途上国はジェンダーバイアスによる格差が大きい傾向にあります。
日本は先進国の中で最も低い位置
2025年に発表された「ジェンダーギャップ指数」によると、日本は146カ国のうち118位となり前年と同じ順位でした。先進7国の中で最もジェンダーバイアスの解消が進んでいない国といえます。
2023年の125位より向上しているものの、女性の議員や管理職の少なさ、男女の賃金格差が大きく響いています。
日本のジェンダーバイアスの解消は教育と健康分野において進んでおり、世界的にはトップクラスです。それだけに、政治・経済分野における女性の地位向上が引き続きの課題です。
▼参考記事はこちら
ジェンダーバイアスを解消するには?

家庭や社会において、男女格差を生んでしまうジェンダーバイアスを解消するにはどうすればよいのでしょうか? ジェンダーバイアスが生まれる背景と、ジェンダー教育の効果について紹介します。
ジェンダーバイアスが生まれる背景
男女の生物的な違いとして、遺伝子やホルモンの影響も確かにありますが、男女の差を生む決定的なものとまではいえないようです。
神経科学者のリセ・エリオットは、著書の中で最新の科学に基づいた男女の違いを紹介しています。そこから分かってきたのは、生物学的な性差以上に、子どもに対する周囲の人々の対応が男女の考え方や行動の違いを作っていることでした。
子どもは家庭や学校、メディアや社会から少しずつジェンダーバイアスを吸収し、無意識のうちに固定観念を形成していきます。子どものジェンダーバイアスの形成に大きな力を持つのは、周囲の人々の子どもに対する接し方です。
ジェンダー教育の大切さ
性別による偏見に縛られず、自分らしさを大切にし、多様性を尊重する教育を「ジェンダー教育」といいます。
大人がジェンダーバイアスを持っていると、子どもに無自覚に伝えてしまう可能性が高くなります。そのため、ジェンダー教育を実行するには、自分や周囲の人のジェンダーバイアスに気付くことが重要なポイントです。
何気ない考えや行動の背後に、性別による偏見や思い込みがなかったか振り返ってみましょう。関連する本を子どもと一緒に読んだり、ジェンダーバイアスについて話し合ったりするのもおすすめです。
ジェンダーに関わる問題について適切な知識を伝えることが、子どもの可能性を広げ将来に役立ちます。
ジェンダーバイアスをなくす効果
ジェンダーバイアスは、意識的無意識的に関わらず、家庭・学校・職場などで広く行われています。その思い込みは、教育や経済・政治分野などでさまざまな男女格差を生み出す一因です。
ジェンダーバイアスをなくすことは、格差やハラスメント、性的な暴力の解消につながる効果があります。
ジェンダーバイアスによる「男・女らしさ」と自分の個性との間にあるギャップで悩む子どもにとっては、コンプレックスを解消し自分らしく生きるチャンスにつながるでしょう。
ジェンダーバイアスをなくすには自覚が大事
現在は女性の社会進出が進み、共働きの家庭が増えました。「ほとんど男女格差はなくなった」と考える人もいるかもしれません。
しかし、さまざまな調査が示すように、ジェンダーバイアスはまだ色濃く存在しています。日本では特に、社会や政治の分野で国際的に後れを取っています。
子どもが十分に能力を発揮し、社会で活躍するためには、ジェンダーバイアスよりも自分らしさを大切にするジェンダー教育が重要です。親子で一緒に無意識のジェンダーバイアスについて考え、まずは家庭教育から是正していく必要がありそうです。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部


