産業革命とは
技術革新による産業構造と社会構造の変化を、「産業革命」といいます。産業革命以前の工業は簡単な道具を使うものでしたが、産業革命後は複雑で大規模な工場制機械工業へ移り変わりました。
産業革命はいつごろどこで始まったのでしょうか? ポイントとともに紹介します。
産業革命が始まったのはいつ?
産業革命が始まったのは18世紀後半のイギリスです。当時のイギリスでは、植民地としていたインドから入ってきた綿織物の人気が高まっていました。
人気の綿織物を大量生産するために、機械が発明されたり改良されたりしたことで、イギリス国内には多くの工場ができていきます。
この動きにより、大きな生産力を持ったイギリスは、19世紀に入ると「世界の工場」とよばれるようになりました。

T. Allom, Engraver J. Tingle, Wikimedia Commons(PD)
蒸気機関の実用化がポイント
大量生産のために発明された機械の動力源は蒸気機関です。蒸気の熱エネルギーで機械を動かす蒸気機関は、もともとは炭坑で地下くみあげ水ポンプの動力源に用いられていました。
これをワットが改良してさまざまな機械で使えるようにしたことで、大量生産が可能な機械作りにつながっていきます。
また蒸気機関は交通網の発展も促し、交通革命も起こりました。大規模な工場のある都市同士を、蒸気船や蒸気機関車で結び、原料や大量生産された製品を効率的に輸送できる体制が整い、国内市場の統合が進みました。

(1825年)John Dobbin, Wikimedia Commons(PD)
なぜ産業革命はイギリスから始まったのか
同時期に、イギリスと同程度に人口があり、市場経済が発達している地域は他にもありました。それにもかかわらず産業革命がイギリスから始まった理由は、次のような理由が考えられます。
・当時イギリスが海外に広大な植民地を抱え、そこで得た資源や、商品を販売する市場をもっていたこと
・当時のロンドンは金融市場が発達しており、産業への投資を円滑に進めることができたこと
・ボイルやフック、ニュートンといった科学者が、数学・化学・物理学の分野で最先端の研究を行っており、産業を支える技術革新の基礎があったこと
さらに、エネルギー源として石炭を使用できたことや、アメリカから食糧を輸入できたことなどが影響している、ともいわれています。
参考:18世紀、なぜ産業革命は中国や日本ではなく英国で起こったのでしょうか?|立命館大学経済学部
:イギリスの産業革命|NHK for School
:『産業革命 (世界史リブレット) 』長谷川 貴彦 (著) 山川出版社
産業革命の影響

産業革命が起こったことで、社会やそこで暮らす人々にはどのような影響があったのでしょうか? ここでは産業革命のポイントとなる、資本主義・人口集中・労働環境について解説します。
資本主義の発展
工場制機械工業を行うには、工場を建設して、大型の機械を作り、大量の原料を仕入れて、雇用した労働者に働かせる必要があります。
このために莫大な資金が必要となったことから、お金を多く持っている人が資本家として工場制機械工業に必要なものを保有して、製品の生産や流通で儲けを得る資本主義が発展しました。
資本家が台頭することで、労働者階級(プロレタリアート)も形成されていきました。
都市部への人口集中
工業が盛んになると、多くの人が農村から都市へ移動し始めました。イギリスでは18世紀後半ごろから、農村から都市へ労働者が集まり始めています。1801年に全体の33.8%だった都市部の人口は、1891年には74.5%になりました。
特に多くの人が集まったのは、主に綿工業を行っていたマンチェスター、製鉄業や機械工業を行っていたバーミンガム、マンチェスターの外港であるリヴァプールです。
劣悪な環境での労働
多くの労働者が都市で工業に従事するようになり発生したのが、長時間労働や低賃金労働などの労働問題です。
工場の設備が整うと、これまで熟練の職人が担っていた仕事は機械の仕事になりました。資本家は、高い技術力を持つ職人よりも、賃金の安い女性や子どもを労働力とし始めます。中には劣悪な環境で過酷な労働をしなければならないケースもありました。
このような状況に対する不満や恨みから、1811年には機械化により仕事を失った職人たちが機械打ち壊し運動「ラダイト運動」を起こしています。
参考:産業革命と世界経済の変化|NHK高校講座
:『イギリス史 (世界各国史 新版 11) 川北 稔 (編集) 山川出版社
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欧米諸国の産業革命
イギリスで起こった産業革命は、欧米諸国へ広がっていきます。イギリスと距離が近いフランス・ベルギーの産業革命と、労働力不足に悩んでいたアメリカの産業革命についてチェックしましょう。
フランスとベルギーの産業革命
ヨーロッパの産業革命は、イギリスから地理的に近いフランス・ベルギーへと広がりました。どちらも海を渡ってすぐのため、イギリスから機械や技術を導入しやすく、早い段階で産業革命が進んでいます。
フランスでは絹織物を中心に工場制機械工業が始まりましたが、農村から都市への労働力の流入がそれほど進まず、変化は緩やかなものでした。
ベルギーの産業革命は、イギリスから最新の機械を輸入することで進みます。繊維工業・製鉄業・機械工業を中心に発展していきました。

アメリカの産業革命
アメリカでは1830年代から産業革命が起こりました。広大な土地と資金を持っていた当時のアメリカの課題は労働力不足です。
当初は南北戦争で解放された奴隷を新たな労働力として期待していましたが、元奴隷の多くが実際に従事したのはシェアクロッパーとよばれる小作人で、労働力不足の解消には至りませんでした。
商工業が発達し、資本主義が本格的に拡大したのは、1870年代以降の第二次産業革命の時期です。アイルランド・ドイツ・アジア・東欧などからの移民が増えたことで、労働力不足も解消されていきます。
参考:『産業革命:起源・現在・歴史』ロバート・C・アレン (著), 長谷川貴彦 (翻訳) 白水社
:『近代ヨーロッパの形成:商人と国家の近代世界システム (創元世界史ライブラリー) 』玉木 俊明 (著) 創元社

Wikimedia Commons(PD)
日本の産業革命
日本の産業革命は欧米諸国から遅れて起こります。まず軽工業、次に重工業が発展した流れを見ていきましょう。
日本で産業革命が起こったのはいつ?
日本では19世紀後半、特に日清戦争(1894〜1895年)前後の時期に産業革命が始まりました。まず発展したのは軽工業です。繭から生糸をひく製糸業、綿花から綿糸を紡ぐ紡績業、綿糸を織って綿織物を作る綿織物業が発展しました。

絹織物の原料である生糸の主な輸出先はアメリカです。高品質な生糸の安定生産に成功したことで、輸出は順調に拡大していきました。
八幡製鉄所の建設と重工業の発展
国内で次に発展したのは重工業です。日清戦争の賠償金を財源の一部として八幡製鉄所が建設され、1901年の操業開始により国内での鉄鋼生産が本格化し、重工業の発展へとつながりました。ただしこの時点ではまだ鉄鋼は輸入が中心で、製造に必要な石炭や鉄鉱石も輸入に頼っていました。

Photo by Asset utilitist, CC0, Wikimedia Commons
また日露戦争後の1906年には、国内輸送を一元化する目的で鉄道国有法が制定され、民間鉄道が国有化されています。軍事輸送の効率化を目指す施策でもありました。
海運では、神戸とインドのムンバイ(当時はボンベイ)をつなぐボンベイ航路を、日本郵船株式会社が1893年に開いています。ボンベイ航路の開設により、紡績業に必要な綿花を安価かつ大量に輸送できるようになったことで、国内の紡績業の発展が促されました。
参考:産業革命と世界経済の変化|NHK高校講座
:5分でわかる!産業革命(重工業)|トライイット
:『日本の産業革命―日清・日露戦争から考える (講談社学術文庫) 』石井 寛治 (著)

産業革命によって変わった社会と人々の暮らし
産業革命はイギリスで18世紀後半に起こりました。その後、イギリスに近いヨーロッパやアメリカに広がり、日本にも19世紀後半から影響を及ぼします。
大規模な機械設備のある工場がつくられ、お金を持っている資本家が台頭し始めます。また工場のある都市へ農村から労働者が流入し、人口集中も起きました。産業構造の急激な変化によって、仕事の仕方や暮らし方・暮らす場所などが、大きく変わりました。
資本家と労働者の対立や、都市の過密問題など、現代にもつながるさまざまな問題が産業革命に端を発しているといっても過言ではありません。
現代はIT技術によって「第四次産業革命」と定義される時代です。最初の産業革命といわれる18世紀のできごとをしっかり理解し、今後の人類の未来についての考察を深めていきましょう。
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構成・文/HugKum編集部


