マルクスの「資本論」とは? その思想や影響を中学生にもわかるように説明すると。おすすめ書籍も紹介

カール・マルクスの著書「資本論」について聞いたことがあっても、中身を知らない人もいるでしょう。内容を知ると、経済や資本主義に関する知識が深まります。この本が書かれた目的や著者の生涯、おすすめの関連書籍などを紹介します。

マルクスの資本論とは

マルクスの資本論は150年以上前に書かれた作品ですが、現代の人々にも読まれています。作品の概要や誕生した背景などを見ていきましょう。

カール・マルクスの代表作

資本論の著者カール・マルクスは、19世紀に活躍した人物です。ドイツ出身の社会主義者であり、哲学者・思想家・経済学者・革命家など、さまざまな肩書を持っています。

カール・マルクス Wikimedia Commons(PD)

資本論は、それまでにマルクスが取り組んできた資本主義研究の集大成として発表された本です。全3巻あり、2〜3巻はマルクスの死後に共同研究者で友人のエンゲルスによって刊行されました。

現代社会でも参考にできる部分があるとして、経済学者やビジネスマンなどの間で話題になることが珍しくありません。

1867年発行の『資本論』の表紙 Wikimedia Commons(PD)

資本論が生まれた背景

資本論が書かれたのは、一部の資本家だけに富が集中し、労働者に分配されない状況を打破したいと望む声が社会に広がっていた時代です。

マルクスが生きていた頃のヨーロッパは、産業革命により貧富の差が拡大していました。当時の社会には、事業活動に必要な生産手段を持つ「資本家」と生産手段を持たない「労働者」の階級が存在し、現代とは違った構造となっていたのです。

マルクスは、人間社会の土台は物質の生産力や生産関係による経済であり、経済が変わることで新たな社会が作られるという、「物唯史観」を持っていました。そして社会の変化は、資本家と労働者との階級闘争によって生み出されるとしています。

マルクスの資本論の内容とは

資本論にはマルクス経済学や資本主義の構造、著者の思想などが記されています。どのような内容が書かれているのか、詳細を見ていきましょう。

マルクス経済学の基礎をまとめた

資本論には、マルクスが研究した経済学の基礎がまとめられています。全3巻の中で、資本の生産過程や流通過程、資本主義的総過程などを解説しています。

マルクス経済学は古典派経済学を批判的にとらえ、発展させたものです。古典派経済学は、アダム・スミス、リカード、マルサスなどの経済学者たちによって確立されました。

これらの学者たちは、初めて経済学をまとまりのある学問として成立させた功績を持ち、マルクスも部分的に古典派経済学の考え方を継承しています。

資本主義を徹底分析した

資本論では、マルクスが生きていた時代の資本主義のメカニズムを分析し、解説しています。作中に登場する代表的な説は「労働価値説」や「剰余価値説」などです。

労働価値説は、古典派経済学のアダム・スミスやリカードらの主張を継承した考え方です。商品の価値は労働時間の長さによって決まり、同じ商品であってもより労働量が多いほうが価値があるとする説を唱えました。

剰余価値説は労働者が働いて生み出した価値の一部分を労働者に与え、商品を売って得た余剰な価値を、資本家が全て自分のものにすることで利益を出しているとする理論です。

日本初の完訳『マルクス全集』(1920年・大正9年)の官報公告[国立国会図書館デジタルコレクション]

資本主義を批判し社会主義的思想を訴えた

マルクスは資本論を書いて資本主義を批判するだけでなく、社会主義的思想を広めようとしました。当時の社会を変え、資本家と労働者の階級対立がない平等な世の中を作ろうとしたのです。

資本論の冒頭では、労働者が資本家に搾取されていると証明するために、資本主義の根幹である商品の分析に力を入れています。

マルクスは資本主義の問題点を指摘し、崩壊する未来を予測しました。資本論が書かれた目的は、社会を変革させるためだったといえるでしょう。

カール・マルクスの人生

東ドイル時代につくられたマルクスとエンゲルスの銅像(ドイツ・ベルリン)CC 表示-継承 3.0, Wikimedia Commons

資本論の著者カール・マルクスは、どのような生涯を送ったのでしょうか。彼がたどった道筋を知ると、何に力を入れてきたのかが理解しやすくなるはずです。

1818年にドイツで誕生

カール・マルクスは、ドイツの西部にあるトリール市で誕生しました。ユダヤ教の教師を輩出してきた家系に生まれましたが、幼少期にキリスト教(プロテスタント)に改宗しています。

成長後はベルリン大学で哲学や歴史などを学び、1842年からドイツのライン地方で発行された「ライン新聞」の編集者を務めました。社会問題や民族問題の記事を執筆しましたが、急進的な内容だったために弾圧を受けます。

マルクスはやがて『ライン新聞』の編集長を務める

弾圧から逃れるためにパリに移住したマルクスは、帰国後の1845年にエンゲルスとともに「ドイツ・イデオロギー」を執筆しました。ドイツ・イデオロギーはドイツの代表的な思想家を批判する内容となっており、マルクス主義を理解するために欠かせない書籍と位置づけられています。

1867年に「資本論 第1巻」を発表

マルクスは1848年に、共産主義者同盟のために「共産党宣言」をエンゲルスと共同執筆しました。資本主義社会における労働者階級の立場について書かれた本で、科学的な社会主義の古典として知られています。

マルクスとは生涯の盟友だったエンゲルス Wikimedia Commons(PD)

冒頭の「ヨーロッパに幽霊が出る、共産主義という幽霊である」という一節や、「万国の労働者、団結せよ」という結びの一文が有名です。

1859年にはマルクス経済学の基礎となる「経済学批判」を出版、1864年には世界初となる国際労働者協会「第一インターナショナル」を創立しています。

第一インターナショナルの発足集会(1864年9月28日)Wikimedia Commons(PD)

第一インターナショナルは労働者の団結と解放を目的に作られ、ヨーロッパを中心とした労働運動に影響を与えました。労働者のための活動を続けながら、マルクスは1867年、「資本論 第1巻」を発表します。

1883年に死去

1871年に、パリ市民の労働者階級「パリ・コミューン」が労働者による政権を樹立し、マルクスたちが設立した第一インターナショナルも支援を表明します。

しかしパリ・コミューンは、臨時政府の攻撃を受けて崩壊します。第一インターナショナルに属する労働者も多くが殺され、フランスでの活動を続けられなくなってしまいました。

ティエール政府によるパリ・コミューンの弾圧 [画/D.ヴィエルジュ]Wikimedia Commons(PD)

マルクスも直接的な活動からは退いたものの、労働者たちの運動の指針を与えるために執筆活動を続けます。晩年は病に抗いながら活動していましたが、1883年にこの世を去ります。

マルクスの死後、エンゲルスが残された原稿やメモなどをまとめて加筆し、1885年に資本論の第2巻、1894年に第3巻を刊行しました。

マルクスの資本論が後世に与えた影響

マルクスの資本論が世の中に与えた影響は大きく、その思想はヨーロッパ諸国だけでなく世界中に広がっていきました。資本論が後世に与えた影響を見ていきましょう。

マルクス主義が広まった

マルクス主義とはマルクスとエンゲルスによって成立した思想のことで、資本主義を否定し共産主義を理想に掲げています。

共産主義は広い意味で財産の共有制を指す言葉です。階級の違いによる差別や搾取がなく、平等な富の分配を目指しています。

社会主義は企業が得た利益を国が管理しますが、共産主義は各人が能力に応じて働き、必要なだけ消費できるという考え方です。社会主義をさらに進化させたものが共産主義とも言えます。

マルクス主義にはさまざまな分派があり、ロシアのマルクス主義革命家・レーニンが発展させたものをマルクス=レーニン主義といいます。

ウラジオストックのレーニン像

社会主義国家の誕生を導いた

社会主義国家は、国が資本を管理し国民に分配する体制を採用している国です。社会主義を取り入れた国として、旧ソ連や中国などがよく知られています。

マルクスの資本論で述べられている「計画経済」が、社会主義国家の基本的な構造となりました。計画経済は何をどれだけ生産するのかを国が決定し、必要に応じて資源や労働力などを分配する方法です。

社会主義国家ではどれだけ一生懸命働いても給料が変わらないので、人々が働く意欲を失い経済成長が停滞するなどのデメリットがあります。また、共産党の幹部など一部の階級が強い権力を持ち、国民の政治的・経済的な自由が奪われやすい点も問題です。

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マルクスの資本論が分かるおすすめの書籍

マルクスの資本論は哲学的な表現が多く難解なので、要点を読み解くための本が多く出版されています。資本論を理解するために役立つ、おすすめの書籍を紹介します。

NHK出版「ゼロからの『資本論』」

マルクスの資本論を新しい視点で理解するために書かれた、入門的な書籍です。哲学や経済学などの前提知識を持たない人でも読みやすく、資本主義の次にどのような社会が訪れるのかを知る手がかりになるでしょう。

世界中の名著を100分間で読み解くNHKの番組「100分de名著」シリーズから誕生した、「NHK100分de名著 カール・マルクス『資本論』」を大量に加筆した内容となっています。

著者は哲学やマルクスについての本を多く執筆している、経済思想家の斎藤幸平です。世界的な編纂事業「新・マルクス=エンゲルス全集(MEGA)」の編集に携わった人物としても知られています。

Gakken「資本論(まんがで読破)」

累計400万部を超える、名著を漫画で読み解くシリーズの本です。資本論がストーリー漫画化され、活字が苦手な人や子どもでも読みやすくなっています。

資本主義の仕組みや資本家と労働者の関係などが、登場人物の言動によって分かりやすく表現されている点が魅力です。この本を読むことで、社会に格差がなくならない理由が分かり、「何のために金持ちになるのか?」といった疑問の解消に役立つでしょう。

漫画の他に、お金や投資に関する多数の著書を持つ経済評論家・山崎元による解説が付いており、充実した内容となっています。

晶文社「マルクスの名言力 パンチラインで読むマルクス入門」

資本論・共産党宣言・経済学批判など、マルクスの著書の中に登場する名言を紹介している本です。マルクスが残した多くの言葉の中から、その思想の核心に触れた一言を抜き出して解説しています。

短い一文を深く掘り下げ、「マルクスは何を言おうとしていたのか?」という問いに、マルクス自身の言葉で分かりやすく解説しようと試みた一冊です。

マルクスのさまざまな著作から名言を引用しているので、資本論を理解したい人だけでなく、より深くマルクスの考えを知りたい人にも向いているでしょう。

著者は哲学者・作家の田上孝一です。他にも「マルクス哲学入門」「99%のためのマルクス入門」などの著作があります。

マルクスの資本論は現代でも求められる名著

マルクスの資本論は資本主義を詳しく分析し、批判的な視点で書かれていることが特徴です。現代社会に行き詰まりを感じている人や、資本主義を深く知りたい人にとって参考になる内容が書かれています。

今から150年以上も前に書かれたため、現代社会に当てはまらない部分もありますが、これからの社会の在り方を考えるヒントとして、研究している人が少なくありません。

より深い内容を知りたい場合は、資本論を読み解くために書かれた書籍も活用してみましょう。さまざまな視点から分かりやすく解説されているので、マルクスの思想を理解するために役立ちます。

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構成・文/HugKum編集部

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