最近クマ被害が増えているのはなぜ?
日本にいるクマのうち、この記事では主にツキノワグマについて扱っていきます。クマ被害の傾向には、クマの生態が深く関わっていることが分かってきました。クマ被害の多い地域と季節や、被害が増えてきた主な原因を三つ紹介します。
クマ被害の多い地域と季節
日本に生息しているクマは、北海道のヒグマと本州より南にいるツキノワグマの2種類です。ヒグマの方が攻撃性が高く人を襲いやすいといわれており、ツキノワグマはどちらかというと人に気付いたら逃げる臆病な性格です。
ただし、ツキノワグマも驚いたり怯えたりすると攻撃的になり、人を襲うことがあります。環境省が毎年発表する「クマ類による人身被害について」によれば、2023年のツキノワグマによる被害人数は過去最多の210人でした(2024年6月現在)。2024年の被害者も82人と少なくない数で、クマ被害の増加が問題になっています。
特にクマ被害の増加が目立つ地域は東北です。出没時期は冬眠から目覚める4月に増え始め、6月を境にだんだん減る傾向があります。出没数が多い年は、その後9月から急激に増え10月がピークです。春や秋にクマのいる地域へ出かける人は十分に備えましょう。

出典:クマ類の生息状況、被害状況等についてPDF4、7、8|環境省
:クマ類による人身被害について 速報値|環境省
【原因その1】食料がなくて山から出てくる
クマ被害はなぜ増えているのでしょうか? クマが人間の生活圏に出てくる一つの原因は、山に餌がないことです。
クマは冬眠に備えて秋に食欲旺盛になりますが、秋の主食となるドングリやクルミなどには、実りの少ない凶作の年があります。そのような年には、クマは餌を求めて行動範囲を広げ、普段は現れない人里に降りて来やすいのです。
東北では、ブナのドングリの豊作・凶作とクマの出没数の間に関連性が見られました。その地域のクマが秋に食べる主な食糧が凶作の年は、クマの出没回数が増え危険が高まると予想されます。
出典:ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測するPDF3、6|独立行政法人 森林総合研究所
【原因その2】人の生活圏と山林が近すぎる
クマの出没数が増えた原因の二つ目は、人の生活圏とクマの生息する山林が近くなりすぎたことです。
以前よりも、クマの生息地を住宅地として開発するようになり、キャンプ・ハイキングなどで気軽に山へ行く人が増えたため、クマに対する知識を持たない多くの人がクマのいる場所へ入るようになりました。
また、昔は村と森の間に里山があり、人間とクマは自然に住み分けていました。里山は、下草や木などが人に管理された見通しのいい山や林のことで、臆病なツキノワグマは警戒して里山を避ける傾向があります。もしクマが入り込んでも人間は遠くから気付きやすいため、クマ被害を防ぐ役に立っていました。
現在は管理する人が少なくなり里山が減っています。クマの出没数を減らすには、このようにクマが人の住む場所に入りにくい環境作りが大切です。
【原因その3】人間の食べ物に引き寄せられる
三つ目の原因は、人の住む場所にはクマの餌になるものが多いことです。一度、人里で簡単に餌を手に入れたクマは、餌のにおいに誘われて繰り返し人里に降りてくるといいます。
<クマの餌になるものの例>
●カキやクリ、公園のドングリなどの木の実
●養蜂家のはちみつや蜂の子
●残飯・食用油などの生ごみ
●有機肥料
●ペンキなどの塗料
●ガソリンなどの燃料
対策は、クマの餌となるものを撤去することです。例えば、落ちた果実を早めに片づけたり、生ごみをクマの入れない場所へ保管したりする方法があります。
撤去できないものは、電流の流れる柵で囲って食べられなくすることも効果的です。人間の生活圏で簡単に餌が手に入らなくなれば、クマの出没数を減らせるでしょう。
出典:クマ類の出没対応マニュアル -改定版-I 出没に備える 1 クマ類の出没を抑制して被害を軽減するとともにPDF14~16|環境省
キャンプ地でクマに遭わないための対策

クマ被害が増える中、山近くのキャンプ地に行くならクマ対策が必要です。余計な心配をせず安心して楽しめるように、クマの習性を学んで被害に遭わないための対策をしましょう。
キャンプ地と周辺の情報を事前に調べる
まずできるクマ対策は、クマに遭わないキャンプ地選びです。例えば、以下のような点を事前にキャンプ場へ確認しておくと安心です。
●キャンプ場周辺が見通しよく管理されているか
●食料を置く場所と寝泊まりする場所が分けられているか
●ゴミ管理のルールを徹底しているか
また、キャンプ地のある地域の役所に、最近クマの出没があったか聞いてみる方法もあります。キャンプの計画を立てるときに、行き先のキャンプ地がしっかりクマ対策をしているか確かめましょう。
ゴミを管理し、音の出るものを身につける
キャンプ場は人が集まるため、怖がりなクマは積極的に近づかない場所です。下草の手入れがされて見通しのよい林や平地ならなおさら近寄りにくくなります。
さらに、クマ鈴やラジオなどの音が出るものを身につけていれば、普通はクマが人間に気付いて自分から逃げていきます。
もしクマがキャンプ地に出てくるとしたら、食べ残しやゴミなどのにおいに誘われたためでしょう。食料やゴミはにおいが出ないように密閉し、チャック付きビニール袋や車内に保管するのがおすすめです。
また、寝ている場所が襲われないために、食べる場所や食料・ゴミの保管場所を寝る場所から100m以上離すことも重要です。キャンプ場に食料保管庫があるなら、それを利用します。
それでもクマに遭ってしまったときの対策

どんなにクマに遭わないように気を付けていても、例外はあります。万が一、クマに遭遇してしまったらどうすればよいのでしょうか? 身を守る方法を分かりやすく説明します。
基本は慌てず、ゆっくり距離を取る
環境省が2021年に改定した「クマ類の出没対応マニュアル 改定版」によれば、クマと遭遇したときは「落ち着いてゆっくりその場を離れる」のが基本です。
クマは臆病な動物なので、人間だと分かると自分から逃げていくことが多いとされています。クマがゆっくり近づいてくるときは、鈴などの物音を立てて人間に気付かせるのもよいでしょう。
危険なのは、急に大声を出してクマを驚かせることです。クマがパニックになって暴れる可能性があります。背を向けて走るのも餌と間違われるので避けるべきです。また、小グマを見つけたら近くに母グマがいるので絶対に近づいてはいけません。
こちらが人間だと知らせてもクマが興味を持って近づいてくる場合は、車や建物の中に避難します。そのときも落ち着いて、クマの方を見ながらゆっくり後退します。
出典:クマ類の出没対応マニュアル-改定版- III クマ類に遭遇した際にとるべき行動|環境省
興味を持って近づくクマは脅して追い払う
クマが20m以下の近距離に突然現れた場合は、どう対応したらよいか見ていきます。人間も慌てますが、クマもパニックになっている可能性が高いので刺激しないことが大切です。基本は、やはりゆっくりとクマとの間に木などが来るように移動します。
クマが突進してくるときも、多くの場合は威嚇行動であり、途中で止まって逃げていくことがあります。ただし、逃げ場所がなくクマが人間だと知った上で近寄ってくるときは、姿勢を高く見せて大声を出すなどして威嚇しましょう。
クマ撃退スプレーを吹き付けるタイミングは、クマが約3~4mに迫ったときで、顔と鼻を狙います。スプレーがないときや、うまく命中させる自信がないときは、地面にうつ伏せて首の後ろを手で覆います。この姿勢は顔とお腹を守り、リュックがあれば背中なども防護できるため、致命傷を受けにくい防御姿勢です。
キャンプに行くときはクマ対策も忘れずに
もともとツキノワグマは臆病なので、積極的に人間を襲ってくる性格ではありません。クマの性質や行動を学んで適切な対応をすれば、キャンプで被害に遭うことはまれだといえます。
クマに襲われてから身を守るのは難しいので、遭わないことが一番です。クマが最近出没した場所は避け、クマが近寄らないように管理されたキャンプ地選びから始めましょう。万が一に備えて、キャンプに行く前に親子でクマから身を守る方法を話し合っておくのも大切です。
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構成・文/HugKum編集部

