「とんでもありません」「とんでもございません」は不適切な敬語なの?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴44年。日本語のエキスパートが教える〝知ってるようで知らなかった〟言葉のウンチクをお伝えします。

「とんでもありません」「とんでもございません」は間違った敬語?

目上の人や上司などから、「よくやったね」「いい仕事をしたね」と言って褒められたとき、どのように返事をしていますか?

「とんでもありません」「とんでもございません」

などと言っているかもしれませんね。

ところが、この言い方は適切でないという人がいます。少し前のビジネスマナーの本にも、避けるべき表現だとか、「間違い」だとしているものがけっこうありました。

なぜそのように考えられたのか、その理由はあとで述べるとして、結論から先に言います。「とんでもありません」「とんでもございません」という言い方は、決して「間違い」でも不適切な言い方でもないのです。

なぜそのように言い切れるのかといいますと、2007年に文化庁の文化審議会が答申した「敬語の指針」で次のように述べられているからです。

とんでもございません( とんでもありません )は、相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり、現在では、こうした状況で使うことは問題がないと考えられる

「敬語の指針」は「敬語が必要だと感じているけれども、現実の運用に際しては困難を感じている人たち」のための基本的な指針として作成されたものです。

その中で、謙遜(けんそん)として、相手の褒めや賞賛などを打ち消すときの「とんでもありません」「とんでもございません」という言い方がかなり広まっていることを認めて、使用には何の問題もないとしているのです。つまり、これらの言い方は、普通に使っても何ら問題のないものとして認められたわけです。

ではどうして「とんでもありません」「とんでもございません」は「間違い」だと考えられてきたのでしょうか。その理由を簡単に述べておきます。この言い方が「間違い」ではないと知ってしまったみなさんにはもはや必要のない知識かもしれませんが。

「とんでもない」で1語。「とんでも」は単独では使わないのだが…

こういうことなんです。

「とんでもない」は、「とんでも」に「ない」の付いた形容詞ですが、「とんでも」が単独で使われた例はなく、「とんでもない」で一語と見るべきである。

だとすると、「ない」を切り離して「ありません」「ございません」で置き換えて丁寧表現とするのは不適切で、丁寧に言うのなら「とんでもないことです」「とんでもないことでございます」などと言わなければならないというのです。でもこの考え方は今は退けられたわけです。

だからといって、「とんでもないことです」「とんでもないことでございます」という言い方まで否定されたわけではありません。ただ実際にはどうでしょう。「とんでもありません」「とんでもございません」の方が自然で言いやすいのではないでしょうか。

こちらの記事もおすすめ

行きたくないお誘いに「大丈夫です」と言ってますか? それ50代以上には通じないかも【知って得する日本語ウンチク塾】
誘いを断りたいとき、遠慮したいときに「大丈夫です」と言ってますか? たとえば、年上のママ友や学校のPTAの集まりで食事に誘わ...

記事監修

神永 曉|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

編集部おすすめ

関連記事