目次
毎朝5時起きで準備、夜はギリギリまで仕事を片付けて寝落ちの日々
――リクルートで管理職として勤務されながら、小学校受験に挑戦されたのですね。当時の生活リズムを教えていただけますか。
横山美菜子さん(以下、横山さん):毎朝5時ごろに起きてプリントを準備し、6時すぎに子どもを起こします。6時半から15〜30分ほどプリント学習。その後、保育園に送ってから出社し、夕方18時半に仕事を終えて、お迎えに向かっていました。家についてから夕食やお風呂を済ませ、20時半からまた30分ほど学習する――そんな日々でした。
また、リクルートではマネジメント業務も担っていたので仕事もいそがしく、子どもを寝かしつけた後に再びパソコンに向かい、寝落ちするまで仕事を続けることもありました。翌朝また5時ごろ起きて、また1日が始まる…。そんなサイクルの繰り返しでしたね。

――本当に目まぐるしい日々だったのですね。家事などはどうされていたのでしょうか。
横山さん:掃除は月に1回外注サービスを依頼していましたが、食事は日曜日に1週間分の作り置きを準備していました。ほとんどの家事を自分でこなしていたので、今から振り返ると、すこしがんばりすぎていたかもしれません。さらに、上の子の受験準備時期は、下の子がまだ赤ちゃんで手がかかって…。まさに体力勝負の日々でした。
自転車を飛ばす送迎の日々、思い返せば“もっと頼ればよかった”
体力的にも精神的にもギリギリの生活
ーーどんなことがいちばん大変でしたか?
横山さん:平日はプリントの準備がとにかく大変でしたね。子どもに合わせて教材を用意しなければならず、あわただしい日々の中で、何とかそろえていました。送迎も体力的に負担が大きくて。自転車を飛ばして塾に連れていき、仕事や家事もこなす。気持ち的にも「全部自分でやらなきゃ」と思い込んでしまって、つらいことも多かったです。
また、土曜日も朝から2つ塾をはしごする生活を送っていました。休日でも早起きしなくてはならず、あまり気が休まる時間はなかったかもしれません。
――受験準備で忙しい毎日を、少しでもスムーズにする工夫にはどんなものがありますか?
横山さん:今から振り返ると、もっと外部サービスを活用すればよかったと後悔しています。特に祖父母が近くにいない家庭では、自治体のファミリーサポートや家事代行サービスなどを頼ることが、いそがしい日々を乗り越える大きな助けになるかもしれません。
「毎週日曜の作戦会議」が家庭を変えた! 夫婦で築く受験期のサポート体制
――ご家庭では、夫婦での協力体制はありましたか?
横山さん:わが家は、最終的に夫婦のバランスがうまく取れていたのかもしれません。私が「こうしたい」と考えたことを伝えると、夫も同じ方向を向いてくれていたので、ひとりで抱え込まず、家庭全体で受験期を乗り越えることができました。
その背景にあったのが、「毎週日曜日の作戦会議」です。夕食後の15分ほどを使って「今週の塾の様子はどうだった?」「来週の学校見学はどちらが行く?」と情報を整理し合いました。短時間でも話す習慣を持つことで、家庭の見通しが共有され、安心感につながったと思います。

さらに、役割分担をはっきりさせたことも大きなポイントです。私は情報収集・スケジュール管理、夫は日々の学習フォローや送迎。最初は「自分がやったほうが早い」と思いがちでしたが、任せてみることで私の負担が減り、夫も主体的に関わるようになってくれました。結果的に、夫婦協力して無理のない形で進められたのだと思います。
「終わったらいちごを食べよう」お楽しみタイムでメリハリを
――お子さんに勉強へ集中してもらうために、横山さんはどんな工夫をしていましたか?
横山さん:まずはリビングの環境を整えることから始めました。机の上には余計なものを置かず、座った瞬間に学習に取りかかれる状態に整えます。限られた時間を集中して使うためには、余計な刺激を減らし、集中力をそがない環境づくりが欠かせません。

[画像提供:横山美菜子さん]
それでも、下の子は意思がしっかりしているタイプで「今は勉強をやりたくない」なんて言われてしまう日もありました。そんなときは「終わったら一緒にいちごを洗って食べようか」「あとで好きな折り紙を作ろう」と、子どもの好きなことをセットにして取り組む工夫をしていました。
ただ学習をこなすのではなく、親子で一緒に楽しむ工夫があったからこそ続けられたのかもしれません。
競争が激しく転塾も経験――決め手は、息子の表情と「ここの先生、優しいね」の言葉
――横山さんが塾選びで重視されたポイントは何でしょうか?
横山さん:塾選びでいちばん大切にしたのは、先生や塾との相性です。子どもの個性をしっかり受けとめて、親身に向き合ってくれるかどうかが大きなポイントでした。たとえば、どんな声かけをしているのか、教室の雰囲気は合いそうか、子どものよさを伸ばしてくれるか、そして家庭の方針と合っているかを見ていました。
上の子は年少から塾に通っていましたが、途中で転塾も経験しています。最初の塾は実績がありましたが、競争が激しく、息子にとっては比較の機会が多すぎたことで、小学校受験をネガティブに感じるようになってしまいました。
行き詰まりを感じていたとき、絵画の先生の紹介で別の塾を体験しました。そこで、先生が息子のよいところを見つけて「ここが素晴らしいね」と声をかけてくださり、その瞬間、息子の表情がパッと明るくなったんです。

最終的な転塾の決め手は、息子が「ここの先生、優しいね」と言ったこと。子ども自身が安心して学べる場所であることが、何よりも大切だと感じました。私自身も「受験準備のプロセスを楽しみたい」という思いを大事にしていたので、その気持ちに寄り添ってくれる塾を選べたのは大きかったですね。
合格以上の財産――親子で積み重ねた時間

――受験を終え、振り返ってみて、どう感じますか?
横山さん:合格できたことはもちろん大きな成果ですが、それ以上に得られたものがあります。
子どもとの会話がぐっと増え、絵本を一緒に読んだり、日々のできごとを話し合ったりする時間が増えました。小学校受験の問題には、日本の四季や文化、ルール、非認知能力を養う問題など、子どもの成長につながる学びがたくさん詰まっています。
もし小学校受験を考えていなかったら、出合わなかったテーマもあるかもしれません。学習に向き合うこと自体が豊かな経験につながったと感じています。
また、小学校受験を通して親子で積み重ねた時間もまた、合格以上にかけがえのない、家庭にとっての幸せな宝物になりました。親子で向き合い、積み重ねた日々こそ「大切な思い出」であり、これからもきっと支えになっていくのだと思います。
[記事のポイントまとめ]
◆「共働きの小学校受験」ここがたいへん!
・学習時間の確保に苦労
朝は出勤前、夜は帰宅後と、学習にあてられる時間がどうしても限られてしまう。
・仕事と、塾の送迎や学校見学の両立にバタバタ
勤務時間と子どものスケジュールが重なり、調整にひと苦労。
・親の心身の負担
仕事と受験準備の両立で、ストレスがたまったり疲れやすくなったりすることも。
◆横山さんはこうしてのりきった!
・短時間で集中して学習に取り組める環境を整える
1日30分でも、毎日着実に積み重ねること。また、子どもの個性をのばしてくれる塾を見極めて。
・毎週日曜の作戦会議で、夫婦の役割分担を実施
片方が情報収集、もう片方が学習フォローと分けるなど、二人三脚で進める工夫を。
・「合格だけがゴールじゃない」と意識
結果に縛られず、親子で一緒に取り組む時間そのものを楽しむことを大切に。
横山さんのこちらの記事もおすすめ
お話を伺ったのは
株式会社MagicAl Pass取締役。横浜国立大学附属鎌倉小・中学校、法政大学国際文化学部卒業後、株式会社リクルートで14年間勤務。その後、共働き家庭向けの小学校受験支援サービス「マジタク」を提供する株式会社MagicAl Passを起業。これまでに小学校100校を訪問し、共働き家庭1,000組以上の受験をサポートしてきた実績を持つ。日経xwoman、ダイヤモンドオンライン、AERAkidsなどで連載を執筆するほか、NewsPicksやテレビ東京「円卓コンフィデンシャル」などのメディアにも出演。共働き世帯の小学校受験支援者として多方面で活躍中。
構成・文/牧野 未衣菜