脳科学者が「早生まれは不利」を覆す! 中学受験の成功法や意外な強み、向いているスポーツなど《早生まれ育児で意識すべきこと》を瀧靖之先生が指南

「早生まれは不利」という言葉を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。保育園や幼稚園の入園、小学校の入学時期が、4月生まれと3月生まれでは1年近く違うことによって、不安を感じるママパパもいるでしょう。しかし、実は脳科学の面から見ると早生まれは有利なのだといいます。『本当はすごい早生まれ』の著者である瀧靖之先生に、早生まれの子が陥りやすい状況や子育てのコツを伺いました。

早生まれの子はなぜ「不利」と言われやすい?

――早生まれの子はなぜ、不利と言われやすいのでしょうか?

瀧先生:最初に申し上げておきたいのは、人の発達は個人差が非常に大きく、一概に「早生まれだから○○」のように断言することはできませんので、その点はご留意ください。その上でのお話になりますが、物理的な点から見ると、たとえば同じ学年で保育園に入園した場合、3月生まれの子は、4月生まれの子よりも生まれてからの日数が短いため、身体発達や精神的な発達に関しては、その差が出やすいということは言えます。

幼児期の3〜4年のうちの1年と20年のうちの1年では重みが違い、年齢が低いほど、差が大きくなる傾向があります。それは時に、子どもの劣等感が芽生える一因になることもあります。

――確かに幼児期の1年は大きな差になりますね。では、先生が早生まれが「すごい」とお考えになるのはどんな点でしょうか?

瀧先生:私たちの脳には「可塑性」という性質があり、努力をすればするほど、一生懸命やればやるほど、脳の中のネットワークがより最適化されて、さまざまな能力が習得できます。つまり脳が変化するということです。

この可塑性は何歳になっても残っているので、いつからどんなことを始めても能力を獲得できますが、より「若い脳」のほうが可塑性が高いということがわかってきています。

瀧先生:ですから、早い時期に多様な刺激(人との関わり、遊び、読み聞かせなど)に触れることで脳が活性化し、習得が進みやすくなります。特に早生まれの子は、より早い月齢から保育園などで刺激のある環境に浸ることになり、この面で非常に有利に働くと考えています。

子どもの「自己肯定感を下げない」ことが、能力アップの鍵

――脳の働きの面から見ると有利ということですね! とはいえやはり同学年の子と比較して不安になる親御さんもいるかと思います。気を付けることはありますか?

瀧先生:早生まれの子どもを持つ親御さんは、つい同学年の他の子どもと比較してしまうことがあるかと思います。ですが、最初に申し上げた通り、幼児期は生まれ月によって発達面で差が出ることも多く、それが本人の劣等感を招く可能性もあります。そのため、「子どもの自己肯定感をいかに下げないか」ということを意識していただきたいです

ナンバーワンを目指すのではなく、お子さんのよいところを、いくつも見つけてそれを伝え続けるということがとても大切です。たとえば「友達が多い」「絵が上手」「かけっこが得意」など、その一つ一つはナンバーワンではないとしても、それを組み合わせることでオンリーワンの長所になると思います。

瀧先生:つい勉強や運動などの成果に目が行きがちですが、「小さい子に優しいね」「一度言ったことを覚えていてくれて、助かる」など、普段の生活の中で、子どものことをよく観察し、適切に褒めるとよいでしょう。

「子どもは親を模倣する」親が楽しむことが大切

――子どもの能力を引き出すために、親はどのように子どもと関わるのがよいでしょうか?

瀧先生:子どもに限らず、私たちが何かの能力を獲得するにはまず「模倣」から始めます。大人でも楽器を演奏したり、新しいスポーツを始めるときには、先生に習ったり、動画を見てそれを真似しようとしますよね。子どもも、親が話しているのを聞いて言葉を覚えますし、社会的なルールや体の動かし方なども真似をすることで獲得していくわけです。

これは、脳の中にある模倣に特化した神経機能(ミラーニューロンシステム)の働きによるものです。このシステムはさまざまな動きだけではなく、感情も模倣すると言われています。つまり、大人が楽しくやっていることは、子どもも楽しいんです。「ママやパパが楽しそうに読書をしている」、「昆虫採集やサッカーなどを楽しんでいる」という姿を見せることに加え、親子で一緒に楽しく取り組むことが最も効果的だと考えられます。

スポーツは個人競技がおすすめ

――早生まれで体が小さめの子の場合、スポーツなどで不利になることもあるかと思いますが、習い事などはどのような観点で選べばよいでしょうか?

瀧先生:基本的には、本人がやりたいものをやるのがよいと思います。ただ体が小さめの子の場合は、団体スポーツよりも、個人スポーツ、あるいは団体スポーツの中でも身体接触が多いバスケットボールやサッカーよりも野球などの方が活躍できる傾向があるかと思います。

どんな種目を選んでも必ずそこで学びはありますが、自分の経験から考えるとテニスやスキー、陸上などがおすすめではあります。

中学受験は親子で学ぶ気持ちを忘れず! 早生まれの子の志望校選びにはポイントがある

――先生のお子さんも早生まれということですが、子育てをされる中で何か気づかれた点はありますか?

瀧先生:息子に関していえば体も大きめで、幼少期は読み書きの習得が早いなど先行する面もあり、実は当初、あまり不利を感じませんでした。しかし、中学受験という高い負荷がかかる場面では、エンジンがかかるまでが遅く、情緒面の成熟に時間差を感じたことがあります。

――ご著書にも、早生まれの子の中学受験について書かれていました。特に注意する点などはありますか?

瀧先生:書籍にも書きましたが、「公立の中学(受験なし)」と「国公立・私立中学(受験あり)」への在籍者の分布を示したグラフでは、受験が必要な国私立の学校において早生まれの生徒の割合が低いことがわかります。

『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新書)より引用

瀧先生:早生まれのお子さんを持つ親御さんには目をつむりたくなるデータですが、中学受験をする上でこの事実を理解して対策することが非常に重要になると考えます。

一方、算数・数学においては特に男子の成績上位者において、差がつきにくいというデータが示されています。以下のグラフでは早生まれ(2月下旬〜4月1日生まれ)と遅生まれ(4月2日〜5月上旬生まれ)を比べていますが、中学生男子では2つの山は成績上位者のところで重なっています。女子においても、高校生になる頃には、それまでずれていたつ2の山がずいぶん重なっているのがわかります。


『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新書)より引用

瀧先生:算数・数学でハンディキャップが少ない男子は、お子さんの特性と学校が求めている生徒像がマッチすれば、中学受験においてもその能力を存分に発揮することができます。

また、早生まれの子は数年の間にグッと成績が伸びる可能性があります。小6の偏差値だけでなく、その後をしっかり考えることが大切です。たとえば「中学受験時の偏差値に比べて、入る大学の偏差値が高め」「成績を入学時より伸ばしてくれる」などの視点で学校選びをするのもよいでしょう。

早生まれに限らずですが、中学受験において第一志望の学校に入れる確率は高くないと言われています。そのため、いくつかの学校を第1志望群とするのがよいと思います。また、中学受験にこだわらないのであれば、月齢差の影響がさらに薄まる高校受験・大学進学期へと勝負のタイミングを見直すというのも有効です。受験においてもいかに子どもの自己肯定感を下げないか、失敗意識を持たせないかということを意識するとよいでしょう。

――具体的にどんな対策をするのがよいでしょうか?

瀧先生:中学受験の勉強は親子で取り組むことがおすすめです。勉強が楽しいと思えれば伸びますし、そうでなければ伸びないというのは、先ほど脳の働きでご紹介した通りです。

私も息子の中学受験の際は、1日8時間一緒に勉強することもありました。それも、教えるわけではなく「伴走」です。親がペースメーカーとなって一緒に問題を解いていました。始めは当然親のほうができるのですが、小5の後半くらいからは問題も相当難しくなり、こちらも手に負えなくなってきます。

瀧先生:子どもは親が解けない問題を解ければ自己肯定感が上がりますし、子どもが親に説明することで理解も深まります。親としても、子どもの成績が振るわないからといって怒れなくなりますし、それどころか「こんな難しい問題に立ち向かっているなんてすごい!」と自然に敬意が湧いてきます。どんな結果になったとしても、心からその努力を認められるようになるはずです。

もちろん、ずっと一緒に勉強するのが無理なときもあります。そんなときは、息子のとなりでパソコンで仕事をしながら、タイムキーパーをすることもありました。最初はなかなかエンジンがかからないので「まずはこれをやろう」と段取りをしながら時間を計って進めるようにしていました。

早生まれには、これからの時代に必要な力が備わっている!

――先生が「早生まれはすごい!」と思われる点は他にもありますか?

瀧先生:脳の可塑性を早くから高められるということに加え、周囲に上手に頼れる「受援力」という社会的な強みも育ちやすい面があります。早生まれの人の中には、小さい頃から「みんなにかわいがられた」経験を持つ人が多く見られます。早くから保育園に入園することによって先生からも「手をかけなきゃ」と思われることも多いかと思います。このように「人の助けを受け入れる」マインドを持てることは将来大きな役に立つと考えています。

幼い頃から「しっかりしてるね」と言われるのも素晴らしいことではありますが、大人になると全て自分で引き受けるというのには限界があります。自分でも頑張るけれど、適切に他人を頼り、任せられるというマインドはこれからの社会においてもとても必要な力だと考えています。この2つを同時に得られるのはやはり早生まれの特徴なのだと思います。

――ありがとうございました。瀧先生のご著書『本当はすごい早生まれ』には「早生まれは不利」という常識を科学的に覆す、子育てのコツがたっぷり紹介されています。ぜひ読んでみてください。

瀧 靖之 飛鳥新社 1,650円(税込)

16万人以上のMRIを見た脳科学者であり、
早生まれの子どもを育てる著者が、
「早生まれは不利」という常識を科学的に覆す!

・生まれながらに「変化に強い力」を持つ早生まれ族
・いちばんのNGは、「親が勝手に悲観すること」だった!
・「幼少時に褒めるだけ」で、早生まれの不利は9割解決します
・AIに負けない!「新奇性大好きっ子」に育つ理由
・中学受験は吉か凶か?―早生まれに最適の受験戦略
・「大器晩成」を科学的に確実に目指す方法
・脳が刺激を受けた早生まれ族は、いくつになっても成長する

お話を伺ったのは

瀧 靖之 東北大学加齢医学研究所教授

医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。早生まれの息子の父。脳科学者としてテレビ・ラジオ出演など多数。著書に『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社刊)など。

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取材・文/平丸真梨子

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