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あの世界的な数学者・広中平祐先生の提唱で始まった
――算数オリンピックとはいったいどういう大会なのですか?
春日さん 算数というと、「計算」を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、もちろんそれだけではありません。算数オリンピックでは数や図形などで「具体的な題材で考え」「正確に答えを出すこと」を重視します。
そう言いますと、「ちゃんと計算して満点を取る」「速く計算する」ことばかりが思い浮かび、評点や順位などが気になってしまいますよね。でも、まずは解く楽しみを知っていただきたいのです。
算数オリンピックは、「算数」を世界の共通語とし、言葉が通じなくても数を通していろいろな国のいろいろな年代が取り組める万国共通の種目であると考えています。世界の子どもたちに「算数」をスポーツやゲーム同様に楽しんでもらい、思考力や独創性を競い合えるような大会をつくろう、ということで、日本を代表する世界的な数学者である広中平祐先生によって提唱されました。広中先生は現在大会名誉会長、大道芸でも有名な数学者、ピーター・フランクル氏が大会会長です。


日本では1992年に第一回大会が開催され、以後毎年開催されています。近年では、中国・イラン・インドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・ベトナムといったアジアの国々でも開催されています。

「算数オリンピック」で活躍して「数学オリンピック」で世界に出る子も
――数学オリンピックというのがありますね。高校生などが数学力を競い、世界大会に出ていますが、それとは別なのですか?
春日さん 組織としても別です。算数オリンピックは小学生と中学生が中心です。ただ、算数オリンピックで算数に親しんで、その後、数学オリンピックに挑戦する方は多いですよ。数学オリンピックでメダルを取るような子は、算数オリンピック参加者、という場合が多いようです。
算数オリンピックは、世界中の子どもたちが競い、語り合うのが目的ですから、学習進度や受験の目安のテストではありません。オリンピック当日はもちろん時間制限がありますし点数もつきますが、過去問などで問題を解く練習をするときには、ああでもない、こうでもないと、考えることを気軽に楽しんでもらいたいですね。
種目は5つ。小学校1年生から参加できるが……問題が難しい!
大会種目と対象学年は以下のとおりです。
- 算数オリンピック(小学6年生以下対象)
- ジュニア算数オリンピック(小学5年生以下対象)
- 算数オリンピック キッズBEE大会(小学1~3年生対象)
- 広中杯 全国中学生数学大会(中学3年生以下対象)
- ジュニア広中杯 全国中学生数学大会(中学1・2年生対象)
――どんな問題が多いのですか?
春日さん 以下が小学校1~3年生対象の「算数オリンピック キッズBEE大会2024」トライアル地方大会の問題です。論理力、思考力、つまりしっかりと深く考える力を問うものが算数オリンピックの算数です。この会では、こうした問題が全部で8問程度出て、60分で解きます。2024年には7問出題されました。

答え:17

答え:あ× い× う○ え×
春日さん 計算力は必要ですが、単純な計算問題は出ません。図形やパズルなど、試行錯誤するような問題が出ます。また、数をどう使うかがポイントとなるような、文章を読みこなす問題もあります。
正解を求めるより、考える過程を楽しみたい!
――これ、小学校1~3年生で解けるのですか? 驚きます! 「もんだい3」のほうはまだしも、「もんだい2」は意味を把握するにも大変そうです。そして、大人でも解けないかも……。こんな問題が7問、どうやって60分で解けるのでしょう?
春日さん そんなに堅苦しく考えず、まずはゲームや謎解きのように親子で楽しんでみてください。本委員会が出版している過去問題集や、市販の問題集で時間をかけて練習するといいと思います。難しくてわからない、というときにはある程度考えたら、親御さんが解答を見ながら一緒に解いていってもいいのではないでしょうか。考え方はひとつではないので、「お父さんはこう考えたよ」「お母さんはこうだと思った」「僕はこう考えた」「そういう考え方もあるね」と解き方を話題に楽しんでもらえたら最高だと思っています。

実際、問題は難しいですよ。「もんだい3」の正答率は94.5%ですが、「もんだい2」は正答率13.7%です。7問100点満点で、平均点が37.5点ですから。取り組む最初の頃はぜんぜんできなくてもあたりまえだと思っていただいていいです。できないからダメとかつまらないではなくて、わからない問題に取り組んでゲームを攻略するように解き明かす喜びを味わってもらえればと思います。
小1~3年が参加できる「キッズBEE大会」ならメダルの確率が高い!
――大会はいつごろ、どんな形で行われるのですか?
春日さん 毎年、6月にトライアル地方大会があります。それまでの間に、問題集などに取り組んで「解く力」を身につけて挑んでいただきます。トライアル地方大会は、全国約200会場で受けることができ、ここで勝ち抜いた方が7月に東京・大阪・福岡で行われるファイナル決勝大会に進みます。そして入賞者が決まって、8月には東京で表彰式が行われます。
先に挙げた5つの大会全体で参加者は6000人弱。「キッズBEE」は一番多くて、今年は2200人程度でした。「キッズBEE」が一番メダルが取りやすいんですよ。他の大会は金銀銅のメダリストは1位、2位、3位の3人だけですが、「キッズBEE」はトライアル地方大会参加者のうち約20%の400数十名がファイナル決勝大会に進みます。そして、上位約10%の40~50名が金メダルをゲットできるんです。約30%が銀メダル、残りの約60%全員が銅メダルを得られます。ファイナル決勝大会に欠席されても銅メダルはもらえます。

できるだけ自分の力で解いていけるよう大人が導いてあげよう
――なるほど、それは参加のモチベーションが上がりそうです。
春日さん 参加して何が得られるかというと、「自分で考える力」です。パッと考えて「わかった」ではなくて、多少時間がかかっても、じっくり考えていく思考力を得るチャンスです。参加する以上は点数も気になるでしょうけれど、「オリンピック」という名前がついているのは、「参加することに意義がある」という意味でもあるんです。メダルが取れればもちろん栄誉なことですが、メダルが取れなくても、参加して子どもたちが悩み解いてきたことを認めてあげる機会にしていただければと思っています。

入賞者の保護者の方に日頃の勉強の仕方を聞いてみると、「問題を一緒に見たりはするけれど、あまり口出しをせず考えさせた」という方がけっこういました。「自分で解けない問題もあるのですが、すぐ教えるのではなくて、いったん問題から離れて、もう一度チャレンジさせる」という保護者の方もいました。
学校や塾ではないので、必ずしもすぐに正解を求めなくてもいいんです。せっかく挑戦するのなら自分で考える過程を大事にしたり、全部できていなくても「ここまではしっかり考えたね」と言ってあげたりしてもいいと思います。どうしても解ききりたいときは、保護者の方や塾の先生などに聞くのも悪くはありません。
――とにかく、解くことを楽しめればいいですね。
家族でカード遊びをしながら数に親しむのもおすすめ
春日さん 数に親しむにはカードゲームもおすすめです。たとえば「アルゴ ベーシック」というカードゲームは、手持ちのカードを左から順に数が少ないほうから伏せて並べます。同じ数なら白のカードより黒のカードのほうが左側になります。このルールに沿って並べて、相手の持っているカードを推理するんです。数の大小の見極めや推論の練習になります。これも家族でやるといいですね。あまり年齢差が出ないので、きょうだいでやってもいいでしょう。

算数オリンピックにとりかからせたことで必ずしも算数が好きになるとは言えません。でも、「考えることが楽しい」とか、「難しいことにチャレンジして解けたことがうれしい」という体験は得られるはずです。それがフィットされた方々はずっと算数に親しみ、数学を追い求めていこうと成長されていく可能性はあります。
広中平祐先生は「素心深考」とおっしゃいます。素直な心で深く考える、点数や他者との比較などに左右されず素直な心で深く考えよう、というメッセージです。大いに算数で遊んでもらえるといいですね。
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お話を聞いたのは
取材・文/三輪 泉