なぜ高市政権は今、アメリカへの投資を拡大するの? 日本企業にとってはプラスになる? 【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は、日本が今、米国投資を拡大している理由について学びます。

高市政権が対米投資を強化してるのはなぜ?

今日、対米投資に注目が集まっています。10月に発足した高市政権も対米投資を強化していく方針ですが、なぜ日本は今になって米国への投資を拡大するのでしょうか。

理由1:トランプ関税に備えるため

日本企業、特に自動車や鉄鋼といった製造業は、トランプ政権下で導入された高関税(トランプ関税)によって大きな影響を受けています。これらの関税は、日本から米国への輸出コストを大幅に引き上げ、自社製品を米国へ輸出する日本企業が多大なコストを負うことになりました。特に、トヨタや日産など大手自動車メーカーがその対象です。

トランプ大統領は保護主義的な政策を押し進めていますが、多大な輸出コストを避けたい日本企業は「現地生産・現地消費」の体制を進めています。米国内で製品を製造することで、関税の対象外となり、不要なコストを回避することができます。

また、現地生産にすることで、米国政府が推進するクリーンエネルギー関連の税制優遇措置など、「メイド・イン・USA」製品に対する優遇措置を享受しやすくなるという利点があります。これにより、関税リスク回避だけでなく、コスト競争力と市場アクセスを確保することが可能になります。自動車産業における、大規模な生産拠点の米国シフトや、バッテリー工場への巨額の設備投資は、まさにこの戦略の具体的な表れです。

理由2:経済安全保障を強化するため

もう一つの重要な要因は、地政学的リスクの高まりを背景とした経済安全保障の視点です。米国は、半導体、AI、重要鉱物などの先端技術や重要物資の分野において、特定の国への依存度を減らす「デリスキング(リスク低減)」政策を強力に推進しています。

日本もこれに深く同調し、信頼できる同盟国である米国との間で強固なサプライチェーンを構築することが、国家レベルでの喫緊の課題となっています。日本企業が米国の経済安全保障政策の枠組み内で事業を拡大することは、技術流出リスクを回避し、国家の競争力を左右する重要技術や物資の安定的な調達を可能にするための不可欠な行動です。

特に半導体やバッテリーといった先端技術分野では、米国政府の投資優遇策(例:CHIPS法)を追い風に、日本企業が米国企業や研究機関と連携し、研究開発や生産拠点の設立を加速させています。

この投資拡大は、日米両国の安全保障上の利益が一致する分野で協力関係を具体的に強化し、技術の優位性を維持しつつ、機密性の高い技術やノウハウが第三国へ流出するのを防ぐという、複数の戦略的な狙いを持っています。

米国への投資は、日本企業の安定と成長に不可欠

このように、日本企業による米国への投資拡大は、将来的な関税リスク回避という経済合理性と、同盟国である米国と経済安全保障の連携を深めるという必要性という、二重の動機に裏付けられています。

この積極的な投資は、日本企業が不確実な世界経済に適応し、事業の安定化と持続的な成長を図るための、不可欠かつ合理的な戦略として展開されているのです。

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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