基礎学力をつけ、高速計算処理能力を高めるドリル
― 9月に、『隂山メソッド 徹底反復 十ますたし算』、 『隂山メソッド 徹底反復 十ますひき算』、『陰山メソッド 徹底反復 ひらがな・カタカナ運筆ドリル』(いずれも小学館)が発売されました。まず、「十ます計算」のねらいを教えてください。
陰山先生:同じ計算をテンポよくくり返し、頭の回転をぐっと高めていく学習法なんです。 十ますでは 1問12秒を目標に高速で解き、処理のスピードと正確さを伸ばしていきます。同じ数をたす計算を“段”ごとにまとめて、3+5や3+8のような同じパターンを反復するつくりになっています。
― 十ますドリルは「12秒」が目標タイムです。「高速処理」にはどんなねらいがあるのでしょうか。
陰山先生:十ます12秒という目標は、百ます計算の目標2分以内を10分の1にしたものです。本音を言えば、十ますは10秒くらいで解けるようになってほしいのですが。まだ字を書く動きがぎこちない子も多いので、少し余裕を見て12秒に設定しています。
愛さん:実際にやってみると、「思ったより時間がかかる!」と驚くお母さんが多いと思います。だからこそ、タイムを意識して取り組む意味がありますよね。

陰山先生:AI時代になると「計算はAIでいい」という話も出ますが、人が自分の頭で素早く情報を処理し、集中して取り組む力は、これからも学びの土台です。十ます12秒という目安は、その土台づくりのためのわかりやすいゴールラインなんです。短い時間でくり返し、高速で処理するからこそ、「少しやっただけなのに伸びた」という体験が生まれます。
― 具体的には、『十ますたし算』はどんな進め方になるのでしょうか。
愛さん:段ごとに問題プリントの枚数を調整していて、0の段は1枚、1〜3の段は3枚、4・5は4枚、6・7は6枚…と、少しずつ負荷を上げていきます。1枚目は計算式10問と十ます計算3問、2枚目以降は同じプリントで十ます計算6問をくり返す流れです。最後は30ます計算でしっかり仕上げて、ここまでできたら『十ますひき算』へ進めるようになっています。基礎がスッと身につくので、小さいうちに苦手をつくらずに進めるのが大きなメリットですね。
アプリの計算が得意な娘。でも百ます計算は苦手
― 「百ます計算」ではなく、「十ます計算」にしたのはなぜなのでしょうか。
愛さん:大勢のお母さん方から、「漢字ドリルはできるのに、百ます計算になるとつまずく」と相談されたのがきっかけです。実は、私の娘も同じ。娘は幼稚園のころからアプリのそろばん遊びが大好きで、2ケタ+2ケタの暗算はすらすらできるのに、小学1年生で百ます計算をやらせたら5分もかかってしまう。五十ますに減らしても難しくて、最終的に十ます計算にしました。
「陰山式スコーラ」では本来1年生は十ますから始めていたのに、「うちの子は大丈夫」と思い込んでいきなり百ますを出してしまって……。父に相談すると「まず十ますに戻しなさい」と言われ、「今の娘には百ますはハードルが高すぎたのか」と痛感しました。
陰山先生:低いハードルを越える経験が大切なんですね。小1の間は十ます計算で十分。それが安定してから五十ます、そのあと必要なら百ますへ。焦って一気に進めるのではなく、その子のペースで小さな成功体験を積み重ねることが大切だと思います。今回のドリルで、まず十ます計算が「できる」「楽しい」を積み重ねてほしい。それが一番のねらいなんです。
「たす1・たす2」は子どもにとって最初のハードル
― 愛さんが、「たす1」の重要性を強く主張されたと伺いました。たす1・たす2だけの十ます計算を見ると、「簡単すぎない?」と感じる親御さんもいそうですが、その大切さを教えてください。
愛さん:「たす1って簡単じゃない?」と親が思ったところから、つまずきが始まりやすいと感じています。1+1=2は年中の下の娘でも答えられますが、それがマスの中にずらっと並んだとき、娘が最後まで同じスピードで解けるかどうかは別問題です。
十ます計算は、計算の難しさではなく「集中の練習」です。1年生にとって、2~3分集中し続けるのは想像以上に大変です。まずは10秒、20秒だけでもしっかり集中する。そのときにちょうど良いのが、たす0やたす1のような単純な計算です。「簡単だから意味がない」のではなく、「簡単だからこそ集中に意識を向けられる」。そこを親が理解しているかどうかで、取り組み方が大きく変わると感じています。
勉強が苦手なのは、運筆に問題があるかも
― 「運筆能力」の大切さについて教えてください。
陰山先生:頭の中では計算できているのに、指先がうまく動かない。思うような字にならないと、子どもに大きなストレスがかかります。極端に筆圧が強い子の場合、細い鉛筆を強く握るだけで疲れてしまい、スピードも上がりません。その改善に必要なのが「運筆能力」です。
「漢字が覚えられない」「計算が遅い」の裏側に、運筆の問題が隠れていることも。まず「楽に書ける状態」をつくる。それが『陰山メソッド 徹底反復 ひらがな・カタカナ運筆ドリル』の役割です。

おすすめは三角形の太い軸で芯も太い鉛筆シャープです。これを使って縦・横・曲線を何度もなぞる練習をすると、筆圧が抜けて指先がスムーズに動くようになります。すると、それまで覚えられなかった漢字や計算も、スッとできるようになります。

「十ます」で成功体験を積み重ねて
― 『十ますたし算』は、いつごろから、どんなペースで使うとよいのでしょうか。
愛さん:年長からでも、小1からでもいい。計算が苦手な子は、小2スタートでも大丈夫です。いきなり12秒を目指す必要はありません。娘も、最初は百ますのたし算で5分近くかかっていましたが、小2の終わりごろには百ますのひき算にもすらすら挑戦できるようになりました。何より嬉しいのが、「算数が好き」と言うようになったことですね。
陰山先生:小1は確かに大事ですが、「小5、小6でやり直したらもう遅い」という話ではありません。小1・小2でつまずいても、小6で取り戻すことは十分可能です。早い段階で算数に苦手意識がついてしまうのが問題なのです。最初は「これならできる」と成功体験を積み重ねてほしいと思います。
毎朝15分続けてみる。「できる」が自信に
― 日々の暮らしの中で、無理なく続けるコツはありますか。
愛さん:わが家では、朝の15分だけを「勉強の時間」と決めています。小2の娘は、毎朝、百ます計算と漢字の練習をしています。
『十ますたし算』だと、1枚のプリントで60問ほど解きます。たす1だけの十ます計算は1ページ6問に見えても、終わるころには60問やっている。これを毎日続けると、1年生の1年間でどれだけの量に触れられるか、想像していただけると思います。
その積み重ねが、計算力と集中力を同時に鍛えていきます。親も「今日は何分?」「昨日より少し速くなったね」と、記録を一緒に楽しむ感覚で付き合えるといいですね。
― 最後に、今回紹介したドリルに興味を持った保護者の方へ、メッセージをお願いします。
陰山先生:日本人はどうしても「できないものを努力で乗り越える」と考えがちですが、学習では「これならできる」を積み上げるほうが、はるかに伸びます。
十ます計算のたす1・たす2は、「これならできそう」と感じやすい内容です。同じ計算をくり返してスピードを上げる経験こそが、学力の土台になります。
愛さん:1年生の間は十ますたし算だけでも大丈夫です。子どもの成長には大きな個人差があるので、2年生の終わりごろには、ほとんどの子が百ます計算を1分半~2分くらいでできるようになります。大切なのは、お子さんに「算数が好き」「勉強は楽しい」と思わせてあげること。
今回の3冊のドリルを使って、親子でタイムを計ったり、運筆のページを遊び感覚でなぞったりしながら、楽しく取り組んでみてほしいです。
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お話を聞いたのは
立命館大学卒業後、コンサルティング会社を経て、当時陰山英男氏が理事長を務めていた基礎力財団へ。中国政府認定の中国語検定(HSK)運営に携わったのち、計算能力検定や論理文章能力検定の企画・運営を担当。陰山メソッドを次世代へ広げる役割を担っており、2016年に「陰山式スコーラ」を開校。『陰山メソッド 徹底反復 十ますたし算』『十ますひき算』(小学館・2025年9月刊)では中心メンバーとなり制作に携わる。二児の母。
取材・文/黒澤真紀
